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【第三部】堅物騎士団長に溺愛されている変装令嬢は今日もその役を演じます
9.勧誘されました
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授業を受け、それが終わると演劇部の練習へ行く。というルーティンに慣れつつあった頃、エレオノーラはドロシーに呼び止められた。今日は演劇部の通し練習がなく(というもの講堂を借りることができなかったためだ)、自主練になってしまったため、さっさと帰ろうと思っていた矢先だった。
「ねえねえ、エレンちゃん。今日は演劇部の練習は無いんでしょ?」
なぜか演劇部の練習スケジュールまでだだ漏れ。いいのか悪いのか。
「あ、はい。今日は講堂が使えないため自主練のみです」
「じゃあさ。ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど、いいかな?」
ちょっとお姉さん暇? オレに付き合ってくれない? 的なノリでドロシーが言うものだから、一瞬、警戒してしまった。
「えっと」
「そんなに時間は取らせないし。私とエレンちゃんの仲じゃない?」
そりゃドロシーには感謝しているけれど。とにかく、本人は気付いていないかもしれないけれど、ドロシーの顔に浮かんでいる笑みが不気味なのだ。絶対、何か企んでいるに違いない。
「あの。ドロシーさん。何か、企んでいますか?」
「え? そんなことないよー」
おどけてみるけど、バレバレである。でも、そんなドロシーが好きだ。
「ドロシーさんが何か企んでいることはバレバレですが。そんなドロシーさんが好きなので、お付き合いしますよ?」
エレンが可愛らしくにっこりと笑う。
「もう。エレンちゃんなら絶対にそう言ってくれると思った。だから、好きなのよ」
と抱きつかれてしまった。こんなところ、フレディに見られたらなんと言われるか。その後、ダニエルとドミニクに告げ次されるのが目に見えている。そんなわけで、ついつい周囲を確認してしまう。
「それで、どちらまでお付き合いすればよろしいでしょうか?」
「うん。じゃ、私についてきて」
ドロシーはパッと離れて、エレオノーラを案内する。講義棟を出て活動棟へと向かう。その建物の三階の一番奥の部屋。ここは。
「生徒会室、ですか?」
このドアが見えてきたときに、エレオノーラは口を開いた。
「ええ、そうよ。会長がどうしてもエレンちゃんに会いたいらしくて」
ドロシーがドアをノックすると、中から入ってくるようにという返事があった。
「約束通り、エレンちゃんを連れてきましたよ」
ドアを開けるや否や、そんなことを言いながらドロシーは中に入る。「ささ、中に入って入って」
ドロシーに促され、一歩生徒会室へと足を踏み入れる。そして、後ろ手でそのドアを閉める。
「エレンちゃん。こっちが会長のアレックス・リンドレー。そしてこっちが副会長のサイモン・フロスト。サイモンは同じクラスだから知ってるよね」
ドロシーのそれに頷く。
「そして、こっちが留学生のエレン・フランシスちゃんです」
「あ、はい。エレン・フランシスです」
「そんなに緊張しなくていいよ」
アレックスが柔らかい笑みを浮かべた。
アレックス・リンドレー。間違いなくリンドレー公爵家の嫡男だ。エレオノーラでさえ知っている。
「別に、君を取って食べようと思っているわけでもないし」
食べられても困る。そんなことされたら、あのジルベルトが黙ってはいないだろう。
「どうぞ、座って」
向かいのソファを促してくれたのはサイモン。
「あ、はい。失礼します」
エレオノーラは促されるままに、そのソファに腰を落ち着けた。
「ドロシーは座る前にお茶を準備してね」
「はいはい、本当にサイモンは人使いが荒い」
ドロシーは右手を肩越しにひらひらと振りながら、お茶の準備をする。
今、エレオノーラは完全なアウェイ感満載。目の前にはアレックスとサイモンが、値踏みするかのように彼女をじっと見つめている。誰が先に口を開くか、というものを探り合っているようにも読み取れる。
「はい、どうぞ」
そこへドロシーがお茶とお菓子を準備して、エレオノーラの隣に座ってくれたため、この微妙な空気感から逃げることができた。
カップを手に取り、色を確認してから香りを嗅ぐ。そして一口飲む。
「エレンさんて、やはりただ者ではないよね」
足を組んだアレックスが言う。「なんか、洗練された動きを感じる」
「どういう意味、でしょうか?」
「うん、深い意味は無い」
エレオノーラの中で警笛が鳴る。このアレックスは要注意人物。さすが、あのなんとか大臣の息子なだけある。
「それで、私にどのようなご用件でしょうか?」
エレオノーラのそれはドロシーに接する態度とは異なり、少し攻撃的なものだった。
「ああ、そうだった。大事な要件を忘れるところだった」
たいていどうでもいいことは覚えていて、大事なことを忘れる人が多すぎる。
「エレンさん。生徒会に興味は無い? という生徒会へのお誘い」
アレックスは腕を組んだ。その目はじっとエレンを見つめている。エレンもその目を負けずに見つめ返すが、彼女の出した答えは「ありません」だった。
「そうか、残念だ」
アレックスが肩をすくめて言う。隣のサイモンはもう少しアレックスが食いつくと思っていたのに、あっさりと引き下がったのが意外だった。
「エレンさん。理由を聞いてもいいかな?」
「興味が無いものに理由も何も無いのですが。私は短期留学ですので、この二学年の間しかここにはいません」
「え、そうなの?」
なぜかドロシーが驚く。
「えっと、最初にそのように説明があったと記憶しておりますが」
エレオノーラが隣のドロシーに顔を向けた。
「そう言われると、そう言っていたかもしれないね」
サイモンが助け舟を出す。
「そういうわけですので、今から生徒会に入ったとしても皆様にご迷惑をおかけするかと思います。また、演劇部の方の卒業公演もありまして、できれば今はこちらに集中させていただきたいと思っております」
「そうか、残念だけど仕方ないね」
そこまで言われたらアレックスも何も言えない。だからといって、ただで引き下がるアレックスでもない。とりあえず、今は納得した振りをした。
「あの、そろそろ戻ってもよろしいですか?」
エレオノーラは腰を浮かし始めた。「今日、演劇部の練習が無いので、帰りが遅くなることを家に伝えていなかったものですから」
「ああ、それは悪かったね」
アレックスがエレオノーラを見送るためにすっと立ち上がった。
「せっかくお誘いいただきましたのに、お断りする形となってしまい、申し訳ありません」
エレオノーラはペコリと頭を下げた。二つに結んである毛先も、ペコリと揺れる。
「では、失礼いたします」
「あ、ちょっと待って」
エレオノーラが生徒会室を出ようとしたときに、アレックスに右腕を掴まれた。あまりにもそれが不意打ち過ぎたため、彼女はバランスを崩し、彼の胸に頭を預ける形になってしまった。
「すいません」
エレオノーラが小さく謝ると。
「こっちこそ、驚かせてごめん」
アレックスのきらきらスマイルがさく裂するものの、エレオノーラには効かないらしい。
「では、失礼します」
体勢を整えたエレオノーラは、生徒会室を後にした。
「ねえねえ、エレンちゃん。今日は演劇部の練習は無いんでしょ?」
なぜか演劇部の練習スケジュールまでだだ漏れ。いいのか悪いのか。
「あ、はい。今日は講堂が使えないため自主練のみです」
「じゃあさ。ちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど、いいかな?」
ちょっとお姉さん暇? オレに付き合ってくれない? 的なノリでドロシーが言うものだから、一瞬、警戒してしまった。
「えっと」
「そんなに時間は取らせないし。私とエレンちゃんの仲じゃない?」
そりゃドロシーには感謝しているけれど。とにかく、本人は気付いていないかもしれないけれど、ドロシーの顔に浮かんでいる笑みが不気味なのだ。絶対、何か企んでいるに違いない。
「あの。ドロシーさん。何か、企んでいますか?」
「え? そんなことないよー」
おどけてみるけど、バレバレである。でも、そんなドロシーが好きだ。
「ドロシーさんが何か企んでいることはバレバレですが。そんなドロシーさんが好きなので、お付き合いしますよ?」
エレンが可愛らしくにっこりと笑う。
「もう。エレンちゃんなら絶対にそう言ってくれると思った。だから、好きなのよ」
と抱きつかれてしまった。こんなところ、フレディに見られたらなんと言われるか。その後、ダニエルとドミニクに告げ次されるのが目に見えている。そんなわけで、ついつい周囲を確認してしまう。
「それで、どちらまでお付き合いすればよろしいでしょうか?」
「うん。じゃ、私についてきて」
ドロシーはパッと離れて、エレオノーラを案内する。講義棟を出て活動棟へと向かう。その建物の三階の一番奥の部屋。ここは。
「生徒会室、ですか?」
このドアが見えてきたときに、エレオノーラは口を開いた。
「ええ、そうよ。会長がどうしてもエレンちゃんに会いたいらしくて」
ドロシーがドアをノックすると、中から入ってくるようにという返事があった。
「約束通り、エレンちゃんを連れてきましたよ」
ドアを開けるや否や、そんなことを言いながらドロシーは中に入る。「ささ、中に入って入って」
ドロシーに促され、一歩生徒会室へと足を踏み入れる。そして、後ろ手でそのドアを閉める。
「エレンちゃん。こっちが会長のアレックス・リンドレー。そしてこっちが副会長のサイモン・フロスト。サイモンは同じクラスだから知ってるよね」
ドロシーのそれに頷く。
「そして、こっちが留学生のエレン・フランシスちゃんです」
「あ、はい。エレン・フランシスです」
「そんなに緊張しなくていいよ」
アレックスが柔らかい笑みを浮かべた。
アレックス・リンドレー。間違いなくリンドレー公爵家の嫡男だ。エレオノーラでさえ知っている。
「別に、君を取って食べようと思っているわけでもないし」
食べられても困る。そんなことされたら、あのジルベルトが黙ってはいないだろう。
「どうぞ、座って」
向かいのソファを促してくれたのはサイモン。
「あ、はい。失礼します」
エレオノーラは促されるままに、そのソファに腰を落ち着けた。
「ドロシーは座る前にお茶を準備してね」
「はいはい、本当にサイモンは人使いが荒い」
ドロシーは右手を肩越しにひらひらと振りながら、お茶の準備をする。
今、エレオノーラは完全なアウェイ感満載。目の前にはアレックスとサイモンが、値踏みするかのように彼女をじっと見つめている。誰が先に口を開くか、というものを探り合っているようにも読み取れる。
「はい、どうぞ」
そこへドロシーがお茶とお菓子を準備して、エレオノーラの隣に座ってくれたため、この微妙な空気感から逃げることができた。
カップを手に取り、色を確認してから香りを嗅ぐ。そして一口飲む。
「エレンさんて、やはりただ者ではないよね」
足を組んだアレックスが言う。「なんか、洗練された動きを感じる」
「どういう意味、でしょうか?」
「うん、深い意味は無い」
エレオノーラの中で警笛が鳴る。このアレックスは要注意人物。さすが、あのなんとか大臣の息子なだけある。
「それで、私にどのようなご用件でしょうか?」
エレオノーラのそれはドロシーに接する態度とは異なり、少し攻撃的なものだった。
「ああ、そうだった。大事な要件を忘れるところだった」
たいていどうでもいいことは覚えていて、大事なことを忘れる人が多すぎる。
「エレンさん。生徒会に興味は無い? という生徒会へのお誘い」
アレックスは腕を組んだ。その目はじっとエレンを見つめている。エレンもその目を負けずに見つめ返すが、彼女の出した答えは「ありません」だった。
「そうか、残念だ」
アレックスが肩をすくめて言う。隣のサイモンはもう少しアレックスが食いつくと思っていたのに、あっさりと引き下がったのが意外だった。
「エレンさん。理由を聞いてもいいかな?」
「興味が無いものに理由も何も無いのですが。私は短期留学ですので、この二学年の間しかここにはいません」
「え、そうなの?」
なぜかドロシーが驚く。
「えっと、最初にそのように説明があったと記憶しておりますが」
エレオノーラが隣のドロシーに顔を向けた。
「そう言われると、そう言っていたかもしれないね」
サイモンが助け舟を出す。
「そういうわけですので、今から生徒会に入ったとしても皆様にご迷惑をおかけするかと思います。また、演劇部の方の卒業公演もありまして、できれば今はこちらに集中させていただきたいと思っております」
「そうか、残念だけど仕方ないね」
そこまで言われたらアレックスも何も言えない。だからといって、ただで引き下がるアレックスでもない。とりあえず、今は納得した振りをした。
「あの、そろそろ戻ってもよろしいですか?」
エレオノーラは腰を浮かし始めた。「今日、演劇部の練習が無いので、帰りが遅くなることを家に伝えていなかったものですから」
「ああ、それは悪かったね」
アレックスがエレオノーラを見送るためにすっと立ち上がった。
「せっかくお誘いいただきましたのに、お断りする形となってしまい、申し訳ありません」
エレオノーラはペコリと頭を下げた。二つに結んである毛先も、ペコリと揺れる。
「では、失礼いたします」
「あ、ちょっと待って」
エレオノーラが生徒会室を出ようとしたときに、アレックスに右腕を掴まれた。あまりにもそれが不意打ち過ぎたため、彼女はバランスを崩し、彼の胸に頭を預ける形になってしまった。
「すいません」
エレオノーラが小さく謝ると。
「こっちこそ、驚かせてごめん」
アレックスのきらきらスマイルがさく裂するものの、エレオノーラには効かないらしい。
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