【R18】記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

澤谷弥(さわたに わたる)

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第五章(11)

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 あの夜のことがあっても、ジェイラスの態度は変わらなかった。シアもまた、できる限り普段どおりに振る舞おうと努めた。だが、心の奥では、あの激しい口づけと過去のアリシアへの嫉妬が、静かな波のように揺れ続ける。

 ジェイラスから、魔法師による記憶解析が三日後に決まったと告げられた。
 魔法師とて魔力が無限にあるわけでもない。前の仕事が終わり、休みを挟んで魔力が回復したところで、記憶解析を行う予定のようだ。

 シアの胸には、期待と不安が絡み合う。記憶を取り戻せば、過去のアリシアになれるかもしれない。だが、それで本当に自分が幸せになれるのか、確信が持てなかった。

 それまでの間、シアはヘリオスとジェイラスの私室で過ごした。しかし、何もすることがない。
 彼から「外に出るな」とは言われていないが、許されているのは庭だけ。

 ジェイラスは近衛騎士団の執務室にこもり、たまった仕事を片づけている。書類の山に囲まれた彼の姿を想像すると、シアは申し訳なく思った。団長としての責任を考えたら、彼の多忙さは当然だ。そんな彼を振り回していたことに、罪悪感が募る。

「ジェイラスさんがサバドにいた間、騎士団はどうしていたのですか?」

 シアは思い切って尋ねてみた。

「まぁ……近衛騎士団も複雑なんだ。俺は団長だが……副団長が実質のトップだしな。俺はむしろ、ランドルフ担当だ」

 副団長のチェスターはジェイラスの父親と同じ年代で、本来であれば彼が団長になるものだと誰もが思っていた。
 だが、ランドルフが国王になる未来を見据え、ジェイラスの父親、チェスター、国王までもがジェイラスを団長に推したという。

 どうやらランドルフは、ああ見えて問題児、いや破天荒らしい。それを押さえるのがジェイラスの役目とのこと。
 だからジェイラスをサバドにおいて、ランドルフが帰ってきたときには、チェスターも国王も頭を抱えたとか。

「久しぶりにチェスターの顔を見たが、額が広くなった気がした」

 それは苦労によって髪が抜けたとでも言いたいのだろうか。ジェイラスの軽口に、シアはくすりと笑みをもらす。

「俺としてはシアと一緒にいられたし、殿下と離れられたし。羽根を伸ばせた一か月だった」

 悪びれる様子もなくジェイラスが言うものだから、シアも愛想笑いで答えた。少しだけチェスターに同情してしまう。

 騎士団に戻ったジェイラスは多忙を極め、夕食も一緒に取れない日が続いた。
 ヘリオスから「ラシュは?」と聞かれ「お仕事が忙しいみたい」と答えると同時に胸が苦しくなった。
 夜遅く、ヘリオスが眠ってから、ジェイラスはこっそりと部屋に戻ってくる。

 そんな彼から突然、話を切り出された。

「クラリッサ王太子妃殿下が、シアを茶会に誘いたいらしい」

 その言葉にシアは一気に目が覚めた。

「深い意味はない。今、君の行動を制限しているから、気分転換にどうだとのことだ」

 王太子妃からの誘いであれば、断れないだろう。

「よろしくお願いします」

 そう答えた翌日、シアは早速クラリッサから招待を受けた。

 毎日、特に予定があるわけでもない。侍女の案内で、すぐに会場となっている庭園へと足を向けた。
 ヘリオスも連れてきていいと言うので、その言葉に甘える。

 庭園は色とりどりの花が咲き乱れ、そよ風が甘い香りを運んでくる。

「はな、いっぱいね~」

 ヘリオスの言葉にで、シアの心が少し軽くなった。
 半球形屋根の東屋に、目を引く女性がいた。雪のように白い肌、ストロベリーブロンドの髪が太陽の光を受けて輝く。

「いらっしゃい」

 クラリッサは少しだけふっくらとした下腹部をかばうような仕草を見せつつ、にこやかに声をかけてきた。

「りお」

 クラリッサの隣には、ヘリオスと同い年くらいのアンドリュー王子がいた。ランドルフを幼くしたような顔立ちに、シアは思わず微笑んだ。

「りゅー」

 アリシアの手を振り払って、ヘリオスが今にも走り出しそうになる。シアは慌てて手を握り直した。

「本日は、お招きいただきましてありがとうございます」
「そういう堅苦しいのはなしよ。わたくしは、お友達と気軽におしゃべりを楽しみたいの」
「友達……?」

 クラリッサの明るい声に、シアの緊張もほぐれていく。

「そうよ、夫同士は幼馴染、子どもたちもこうやって仲がよいでしょ? だったらわたくしたちもお友達になるべきだと思うの」

 座るように促され、シアは素直にその言葉に従う。

「子どもたちをお願いね?」

 クラリッサは近くにいた侍女に目配せをした。すると彼女は、アンドリューとヘリオスを連れて、庭園の奥へと向かう。

「向こうに遊具があるの。アンドリューもここでおとなしくできるような年でもないし、子どもたちには目いっぱい遊んでもらいましょう」

 そういった心遣いは嬉しいものだ。一気にクラリッサに心を奪われてしまった。

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