変態勇者の最低記

田中ぱんだ

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二章

そもそも変態が悪いって誰が決めたんですか

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ざわざわと騒がしくなる中で国王は必死に考えていた。どうやってこいつアルマに服を着させるか。とりあえず理由を聞いてみる事にした。
「アルマよ、何故パンツ一丁なのだ?」
国王の問いに皆が静まり返りアルマの返答を待った。アルマはキョトンとしながら口を開いた。
「自分の家なのですから、ラフな格好でもいいじゃありませんか」
再びざわつき始める従者達。
国王は必死に考えた。
(ラフ?ラフって言った?パンツ一丁がラフ?いやラフだとしてもワシ国王よ?国王に会うのにパンツ一丁は無いだろ)
「アルマ、久しぶりだな」
声を上げたのはジークだった。
「お久しぶりです。兄上。また稽古の程宜しくお願いします」
「ああ勿論だとも。だが稽古も身体が資本だ、健康有っての物だ。その格好じゃ寒いだろう?服を用意して貰いなさい」
おお!と従者達から感嘆の声が上がる。国王も内心ガッツポーズしていた。自然に、かつ合理的にアルマに服を着せる口実を作った。
アルマはハハハッと笑うとジークに言った。
「知らないのですか兄上、馬鹿は風邪を引かないのですよ」
あぁぁ、と従者達の落胆の声が響く。
(発送が斜め上すぎる。てか仮にも王子が自分の事を馬鹿はまずいでしょ)
国王が頭を抱えていると今度はタナトスが声を上げた。
「いい加減にしろアルマ。お前は王子としての自覚があるのか⁉︎」
タナトスの一喝に場が静まり返る。
「タナトス兄さん、お久しぶりです」
「お久しぶりですじゃない。何だその格好は?仮に国王の前で下着一枚で出てくるとは、お前それでも王子か?大体お前は–––––」
「そう言えばさっき兄上の婚約者のミレディさんに会いましたよ」
タナトスの動きがピタリと止まる。
「ミレディに?」
「ええ、ブチギレてましたよ。『久しぶりに帰って来て婚約者の私に一言も無いってどういう事よ』と。素手で合金を握り潰しながら」
「父上、急用が出来ました。これにて失礼」
「待って待って行かないで。後でワシも謝るから!」
タナトスは周りに厳しく当たる節があるが婚約者であるミレディ・フレディリウムには頭が上がらず尻に敷かれていた。あの『魔導王』とも言われる男が手も足も出ない様子に周りはホッコリとしていた。
「本当ですね⁉︎ちゃんとついて来て下さいね⁉︎」
ガタガタと震えてるタナトスの背中をアルマが摩っていた。国王はゴホンと一度咳き込むと本題に入った。
「アルマよ。お前が呼ばれた理由は分かっているな?」
「勿論です。魔王討伐ですね?」
うむ、と国王は言った。
「しかしな、実はもう一つ話さねばならん事が有る。今日はその為にジークとタナトスにも同席してもらった次第じゃ」
ジークやタナトスも初耳らしくお互いに顔を見合わせていた。
「魔王がこの世に君臨してから八百年、その八百年の間『七精の加護』の勇者はアルマ、お前を含めて六人現れている。」
皆が騒つく中ジークが口を開いた。
「お待ちください父上。つまりアルマを除いて五人の勇者がいたのですか⁉︎」
「ああ、そして七精の勇者が現れたにも関わらず魔王が未だ健在と言う事は…」
「七精の勇者でも魔王には勝てない……」
絶望の色が周りを包んでいく。
「では、かの伝説は間違いだった。と言う事ですか?」
タナトスが口を開いた。
「いや『七精の加護』の力は本物だ。アレを超える力は二つと無いだろう。となると考えられるのは……」
って事ですね」
「うむ。『七精の加護』だけでは、恐らくだが魔王には勝てん。そこでだアルマよ。その足りない何かをお前に調べて欲しいのだ。」
アルマは頷いて口を開いた。
「お任せ下さい父上。必ずや私の時代で魔王との戦乱に終止符を打ち、平和の世を気づいて見せます」
従者達が喜びの声を上げ、ジークやタナトスもアルマの一声に賛同した。国王は思った。
(いい事言ってるんだけどな~。これでパンツ一丁じゃなければな~)

「さて、お前にはこれから魔王討伐の旅に出てもらうのだが、その前に」
国王が扉の前の兵に声をかける。兵はコクリと頷くと扉を開けた。廊下から二人入室して来た。一人は小柄で中性的な顔立ち、ローブに身を包みヒョコヒョコと歩いている。もう一人は対照的で長く艶やかな髪に豊満な胸、顔立ちも整っていてその目は男の欲望を逆撫でするかの様に美しく鋭い。服装も肌を見せつけるかの様に露出しており、ふとしたきっかけではだけて仕舞うのではないかと思うくらいだった。従者達は皆、ゴクリと喉を鳴らした。
「この二人のどちらかを従者に連れて行きなさい、では二人共、自己紹介を」
まずは小柄の方が名乗った。
「ウチはリーファっす。よろしくっす」
名前だけ言うと一礼して眠たそうに欠伸をした。続いてもう一人の方が名乗った。
「シルヴィアよ。よろしくね勇者様。」
艶めかしい、男の本能を煽る様な声に従者達は夢中になった。
「私を選んでくれたら絶対に後悔はさせない。戦闘面でも、経済面でも、もちろん夜の方でも」
シルヴィアの自己紹介が終わると国王が口を開いた。
「さて、どちらを連れて行く?」
皆が皆、考えは一緒だった。
(シルヴィアだろ)
(絶対シルヴィアだ)
(あの変態の事だ。絶対シルヴィアだな)
「ではリーファ。よろしく」
「うっす」
一瞬の静寂の後、従者達は皆、騒めき出した。当然だ。あの変態が妖艶なシルヴィアでは無くちんちくりんのリーファを選んだのだから。
「ちょっと待ちなさいよ!何で私じゃ無くてこんなちんちくりんを選ぶのよ‼︎」
シルヴィアの怒声が謁見の間に響き渡る。先程までの妖艶さはまるで無く、見る影も無かった。
「なるほどな、腐っても一応は勇者と言うことか」
タナトスが口を開いた。
「まさか城内に堂々と侵入して来るとは、私が居ない間に好き勝手してくれた様だな」
従者達が再びざわつき始める。シルヴィアも明らかに動揺していた。
「な、何の事かしら?」
「とぼけるな。私の魔眼の前に既に正体は割れている。貴様、魔族だろう?」
一同が騒めく。やがてシルヴィアが怪しい笑み共に本性を露わにした。
妖艶な姿は見る影も無く、二回り程大きくなり鱗に覆われた肌、耳元まで裂けた口、鋭い爪を光らせた。
「流石だな『七精の加護』を持つ勇者よ。私の『擬態』をこうも簡単に見破るとは。だが私の真の力はこんな物では–----」
「え⁉︎魔族だったの⁉︎」
アルマの一言に国王達はおろかシルヴィアさえ固まった。
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