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57 逃げちゃえ

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 こういう時、ものを知らないって最強だと思う。

「逃げて良い?」

 って思いつきで言ったら、ルフは笑って、ラウは目を大きくして驚いていたけど。

 結果、ラウが丁寧にお断りして、その間にルフが車の手配をして、裏口から逃げるっていうことになった。

 ミルルには、先にウォルのところに行くことになりそうって言いに行って、早くミルルも来てねって話して来た。

 ルフが運転して、後部座席にオレとラウ。持ち物は少しだけ。

 とりあえずジラル領を目指す。

 王子を無視して逃げるって、きっとものすごーく悪いことしてるよね?

 でもすっごくドキドキわくわくしてる。

「ユートじゃなきゃやんねえよな」

 ってルフは楽しそうなんだけど、ラウは最悪だって呟いて、現実と向き合っていない感じ。

「諦めろ、ラウ。ユートといると思いもよらない展開になるんだぜ? もう楽しむしかねえよ」

 っていうかオレのせい?
 違うよね?
 今回は絶対に王子が悪いと思うよ?

 だって悪い予感しかしないし、またサクヤさんに叩かれたくない。

「ルフの言う通り、ユートは相手に行きすぎな思いを抱かせるのかもしれませんね」

 ラウが言うと、ルフが吹き出して笑った。

「変なフェロモン出てんじゃね? 周りが惑わされすぎだろ」

「そういうルフも、ユートに甘すぎだと思いますが?」

 助手席の後ろに座っているラウは、ルフを睨んでいる。

「それは仕方ねえよ。旦那がもう甘いもんよ。俺は旦那の意思に従っているだけさ」

「そうでしょうか」

 ラウがイライラしてる。
 車の中の空気が悪い。

「なに?」

 ってルフも機嫌が悪くなって来る。

「あの時、旦那さまを疑うようなことをユートに言っていましたよね? ありもしない妄想を口にして、危うくルフのせいで——」

「やめて!」

 思わず声を上げていた。

「その話はもうしないで」

「すみません、ユートさま」

 狭い車内でラウが胸に手を当て、謝罪をした。

「まあ、あれは俺もカッとしたからな。悪い、ユート、仲直りできて良かった」

「うん、もう良いよ。ルフはオレの警護だし、ラウはウォルの従者だもん。仕方ないって思ってくれる?」

「はい、私の考え方が間違っておりました」

 ラウが俯いて従者の顔になっている。

「もう良いよ。せっかく逃げて来たんだから、捕まる前に領を出よう?」

 時間が経てば、逃げたのがバレて、捕まってしまうかもしれない。

 そうしたら領の境で兵が待ち受けているかもしれない。

「ユートはシートの下に隠れてくれ。普段は金庫を隠している場所だが、ユートなら入れるだろ?」

「検問あると思う?」

「人族はユートしかいねえからな」

「匂いでばれない?」

 人族にはわからない匂い。
 それでいっぱい苦労して来た。
 今までは匂いを付けたがっていたけど、今は匂わないと良いと思ってる。

 とてもワガママかな?
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