獣人カフェで捕まりました

サクラギ

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35 憂鬱の理由

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「マサキは?」

 別の話にしてトオルの気を逸らした。

「マサキも竜族の誰かの伴侶になってるはずだよ。ここに来る時は一緒だったんだ。でもたぶん身分が違う。俺は族長の伴侶だから、普段はサザリィの棲家にいるんだ」

「会えないの? 会いたいって言った?」

 そう聞くと頷いた。

「会うにしても竜族が怖いのであれば街には行かせられないって。立場があるから従者を連れて行かなければだめだろ? その従者の存在だけで気分が悪くなるんだ」

 そんなに? と思う。

「それに俺、お腹に子がいる」

「え?」

 思わずトオルのお腹を見てしまった。獣人の子を産めるって本当の事だった。

「トオルっていつからここにいるんだ? まだ1月くらいだろ?」

 あの施設で10日目くらいにトオル達がいないのを知った。その時から1月位しか経っていないと思う。

「俺がサザリィにも怯えるから、すぐに契約の儀が行われて、何日もそういう事して——体が変化して行くんだ。意思なんて関係なく。それでこの前子どもが出来てるって言われた。怖いよヒロイ、俺、どうなるの?」

 トオルを抱きしめて慰める。トオルの周りに本当の人がいないからダメなんだろう。マサキがいればずいぶん違うのではないか。

「トオルはサザリンド様を好きになれてる?」

 それにトオルは頷いた。少しホッとした。子どもが生まれるのに相手を好きじゃなかったら生きるのも辛くなるだろう。

「良かった。サザリンド様は優しくしてくれるんだね」

「すごく優しいよ。でも棲家は静かで寂しいんだ。使用人にも近づけないし、飛べないから何処にも行けない」

「サザリンド様にお願い出来ない? その事はちゃんと話してるの?」

「言えないよ! だって族長だよ? 前王だって聞いてる。話はしてくれるけど、聞かれた以上の答えは言えない。言って嫌われたら何処へ行けば良いの? 俺にはもうここしか居場所がないのに」

 声を上げて泣かれた。ずいぶんいろんなものが溜まっていたのだろう。背を撫でて慰める。想いを吐き出して少しでも不安を取り除けたら良い。

「あんまり泣くとお腹の子がびっくりするよ。ゆっくり息をしてみてごらん? 落ち着いて、どうしたら良いか、一緒に考えようか」

 紘伊は自分がどれだけ恵まれていたのかを知った。ハーツは最初に何を言っても許すと言ってくれたし、ハーツの本来の身分も知らなかったから、気にしないと目を逸らしていた部分も大きいけど、対等に話せる相手になってくれている。

「俺たちはもう戻る場所がないけど、こうやって知り合えた仲間はいるよね。どうかな? マサキを側に置いてもらえる様に頼むって言うのは」

「マサキ? 何処にいるかも分からないよ」

「俺はマサキも心配だよ。トオルみたいに竜族を怖がっていたら、元気でいられないかもしれないよね? 一度確かめた方が良いと思うから、俺が聞いてみるよ。それでどうかな? マサキが側にいたら頑張れる?」

 そう言うと涙を拭きながらトオルが頷く。

「俺、自分の事しか考えて無かった。マサキだって困ってるかもしれないよね」

 泣き止んだトオルを見て少しホッとする。どうにかしてやりたいと思う。ここが獅子族の領地ならやってあげられる事もあっただろうけど。サザリンドはどこまで許してくれるのだろうか。

「今日はこのホテルの上の階に泊まっているから、また明日会いに来るよ。それまで一人で頑張れる?」

「ありがとう、聞いてもらえたから落ち着いた。サザリィが嫌な訳でもないんだ。竜族だってそのうちに慣れるよ。紘伊、無理しなくていいから。大丈夫だから」

「うん分かった。体を大事にするんだよ。ゆっくり休んで」

 トオルを一人にするのは怖かったけど、紘伊にはどうする事もできない。トオルはサザリンドの伴侶だ。それに子どもがいる。守られる存在だと思うから、竜族を信じるしかない。
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