獣人カフェで捕まりました

サクラギ

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46 謁見

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 紘伊は心の中で何で俺が? と思っている。

 ただの落ちぶれた塾講師で、恋人は作った事がなく、お金を払って関係を持つ様な間柄の相手しか知らなかった。特にモテもしなければ、目立つわけでもない。お金だけはあったから不自由しなかっただけの、誰にも羨まれない人生を歩んで来た。それがどうして獣人には求められるのか。ハーツにだけ求められたらそれだけで幸せだったのに。

 別れを惜しむ間もなく中央区へ連れて行かれ、なぜか王様の前で膝をついている。ただの何の身分もない人がなぜ王の前に呼ばれるのか。いまだに理解が追いついていない。しかもハーツは領に残らされている。紘伊を強要しているという理由らしい。

「おまえがヒロイか」

 紘伊に発言は許されていない。足にはおもりが付けられていて早く歩けないし、手も左右が鎖で繋がっている。王の身を守る為らしいけど、結局、紘伊は道具でしかないのだ。

「ハーツェリンドの婚約者と名乗っておりますが、まだ契約の儀は行っておりません。ハーツェリンドを拒んでいる為だと推測されます」

 王の横に立つ竜の宰相の言葉だ。わざわざ紘伊に分かるように日本語を使っている。紘伊に発言が許されていない事を知っていてわざとだ。

 隣には代理としてキースがいてくれる。心強いけどキースの家族、ユウにまで心配を掛けてしまっている。これ以上の問題を起こさないように、理不尽なやり方にも口を閉ざし従っている。

「熊族に10日、狼族に10日、滞在を許可した。本来ならば選ぶ権利など無いものを——王の温情だ、きっちり勤め上げろ」

 キースと一緒に承諾の意を表す。理不尽すぎて暴れ出したいのを堪えている。

 王は一言も発せず、ただ王座から紘伊を見下ろしていた。ハーツと似た面差しで。

 部屋に戻ればすぐにノイズという熊の領地へ行く馬車に乗せられる。

「ハーツを裏切るな」

 それがキースの残した言葉で——悔しかった。裏切りたいなんて思っていない。そんな事思う訳がない。でも心の片隅では分かっている。獣人は人を物程度にしか思っていない。いくら王命で手を出さずに紘伊の選択を待てと言った所で、守るはずがない。

 一度でも手を出されてしまったら、ハーツの元には戻れない。せめて出来る事は、どんなに酷くされても、痛めつけられても、ハーツ以外には選ばないという事。ハーツの元に帰れなくても、誰のものにもなる気はない。だから大丈夫。紘伊の存在などすぐに忘れる。そうしたらまたすぐに良い人が出来る。ハーツは格好良いし可愛いし強くて良いヤツだ。門は閉じたと聞いたけど、開くのは出来るんだ。ハーツが幸せになるのなら、それで良い。

 馬車が動き出す。ついこの前まで熱い乾燥した土地にいたのに、今度は北の雪山へ行く。分厚いコートと手袋とブーツを渡されている。10日耐える。耐えてみせる。
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