46 / 112
46 謁見
しおりを挟む
紘伊は心の中で何で俺が? と思っている。
ただの落ちぶれた塾講師で、恋人は作った事がなく、お金を払って関係を持つ様な間柄の相手しか知らなかった。特にモテもしなければ、目立つわけでもない。お金だけはあったから不自由しなかっただけの、誰にも羨まれない人生を歩んで来た。それがどうして獣人には求められるのか。ハーツにだけ求められたらそれだけで幸せだったのに。
別れを惜しむ間もなく中央区へ連れて行かれ、なぜか王様の前で膝をついている。ただの何の身分もない人がなぜ王の前に呼ばれるのか。いまだに理解が追いついていない。しかもハーツは領に残らされている。紘伊を強要しているという理由らしい。
「おまえがヒロイか」
紘伊に発言は許されていない。足にはおもりが付けられていて早く歩けないし、手も左右が鎖で繋がっている。王の身を守る為らしいけど、結局、紘伊は道具でしかないのだ。
「ハーツェリンドの婚約者と名乗っておりますが、まだ契約の儀は行っておりません。ハーツェリンドを拒んでいる為だと推測されます」
王の横に立つ竜の宰相の言葉だ。わざわざ紘伊に分かるように日本語を使っている。紘伊に発言が許されていない事を知っていてわざとだ。
隣には代理としてキースがいてくれる。心強いけどキースの家族、ユウにまで心配を掛けてしまっている。これ以上の問題を起こさないように、理不尽なやり方にも口を閉ざし従っている。
「熊族に10日、狼族に10日、滞在を許可した。本来ならば選ぶ権利など無いものを——王の温情だ、きっちり勤め上げろ」
キースと一緒に承諾の意を表す。理不尽すぎて暴れ出したいのを堪えている。
王は一言も発せず、ただ王座から紘伊を見下ろしていた。ハーツと似た面差しで。
部屋に戻ればすぐにノイズという熊の領地へ行く馬車に乗せられる。
「ハーツを裏切るな」
それがキースの残した言葉で——悔しかった。裏切りたいなんて思っていない。そんな事思う訳がない。でも心の片隅では分かっている。獣人は人を物程度にしか思っていない。いくら王命で手を出さずに紘伊の選択を待てと言った所で、守るはずがない。
一度でも手を出されてしまったら、ハーツの元には戻れない。せめて出来る事は、どんなに酷くされても、痛めつけられても、ハーツ以外には選ばないという事。ハーツの元に帰れなくても、誰のものにもなる気はない。だから大丈夫。紘伊の存在などすぐに忘れる。そうしたらまたすぐに良い人が出来る。ハーツは格好良いし可愛いし強くて良いヤツだ。門は閉じたと聞いたけど、開くのは出来るんだ。ハーツが幸せになるのなら、それで良い。
馬車が動き出す。ついこの前まで熱い乾燥した土地にいたのに、今度は北の雪山へ行く。分厚いコートと手袋とブーツを渡されている。10日耐える。耐えてみせる。
ただの落ちぶれた塾講師で、恋人は作った事がなく、お金を払って関係を持つ様な間柄の相手しか知らなかった。特にモテもしなければ、目立つわけでもない。お金だけはあったから不自由しなかっただけの、誰にも羨まれない人生を歩んで来た。それがどうして獣人には求められるのか。ハーツにだけ求められたらそれだけで幸せだったのに。
別れを惜しむ間もなく中央区へ連れて行かれ、なぜか王様の前で膝をついている。ただの何の身分もない人がなぜ王の前に呼ばれるのか。いまだに理解が追いついていない。しかもハーツは領に残らされている。紘伊を強要しているという理由らしい。
「おまえがヒロイか」
紘伊に発言は許されていない。足にはおもりが付けられていて早く歩けないし、手も左右が鎖で繋がっている。王の身を守る為らしいけど、結局、紘伊は道具でしかないのだ。
「ハーツェリンドの婚約者と名乗っておりますが、まだ契約の儀は行っておりません。ハーツェリンドを拒んでいる為だと推測されます」
王の横に立つ竜の宰相の言葉だ。わざわざ紘伊に分かるように日本語を使っている。紘伊に発言が許されていない事を知っていてわざとだ。
隣には代理としてキースがいてくれる。心強いけどキースの家族、ユウにまで心配を掛けてしまっている。これ以上の問題を起こさないように、理不尽なやり方にも口を閉ざし従っている。
「熊族に10日、狼族に10日、滞在を許可した。本来ならば選ぶ権利など無いものを——王の温情だ、きっちり勤め上げろ」
キースと一緒に承諾の意を表す。理不尽すぎて暴れ出したいのを堪えている。
王は一言も発せず、ただ王座から紘伊を見下ろしていた。ハーツと似た面差しで。
部屋に戻ればすぐにノイズという熊の領地へ行く馬車に乗せられる。
「ハーツを裏切るな」
それがキースの残した言葉で——悔しかった。裏切りたいなんて思っていない。そんな事思う訳がない。でも心の片隅では分かっている。獣人は人を物程度にしか思っていない。いくら王命で手を出さずに紘伊の選択を待てと言った所で、守るはずがない。
一度でも手を出されてしまったら、ハーツの元には戻れない。せめて出来る事は、どんなに酷くされても、痛めつけられても、ハーツ以外には選ばないという事。ハーツの元に帰れなくても、誰のものにもなる気はない。だから大丈夫。紘伊の存在などすぐに忘れる。そうしたらまたすぐに良い人が出来る。ハーツは格好良いし可愛いし強くて良いヤツだ。門は閉じたと聞いたけど、開くのは出来るんだ。ハーツが幸せになるのなら、それで良い。
馬車が動き出す。ついこの前まで熱い乾燥した土地にいたのに、今度は北の雪山へ行く。分厚いコートと手袋とブーツを渡されている。10日耐える。耐えてみせる。
2
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる