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壁にある門が開き、兵が向かって来る。長屋から出て来ていた人たちは兵を見ると急いで家に戻り、ドアを閉めた。
デュオンはマサキを背で庇い、紘伊はオーギュに守られている。
「———!」
デュオンの声が響く。
数メートルの距離を空けて、兵が取り囲んでいる。その手には剝き身の剣があり、警戒音がけたたましく鳴り響いている。
兵のひとりが獣人語で叫ぶと、それを合図に兵が切り掛かって来る。
「ヒロイ、マサキとトオルを頼む」
デュオンに初めて名を呼ばれ、腕を掴まれてデュオンの背後へと押しやれられ、目前では剣に素手で立ち向かうデュオンとオーギュの姿がある。よく分からないがマサキが心配で駆け寄った。
「マサキ」
「ヒロイ、手伝って」
マサキが長屋のドアの中へ紘伊の手を掴んで誘った。
古い木造りの家の中は和風で、土間があり、一段上がった場所には畳が敷いてあった。部屋は2部屋しかなく、すぐの所に布団が敷いてあって、トオルが寝ている。トオルに駆け寄ったマサキは、トオルの背に手を触れさせ、半身を起き上がらせてTシャツの上にジャージの上を着せた。
「外に出るよ、行ける?」
トオルはマサキを確認して頷いた。
「ヒロイ、手伝って」
マサキが靴を履いたまま畳に上がったから、紘伊も気にせず上がり、トオルに靴を履かせるマサキを見守ってから手を貸した。
「どこへ行くつもり?」
紘伊はマサキと共にトオルの肩を支えながら、マサキに聞いた。
「デュオンの所へ戻るよ」
「大丈夫なのか?」
紘伊は驚いてマサキを見ると、マサキは仕方がないよと笑みを作った。
「デュオンが迎えに来たから大丈夫だよ」
「でもトオルは——」
前族長であるザザリンドの伴侶だったトオルに行き場所がない筈だ。しかもトオルはザザリンドの子を失っている。これが獣人国ではどういう扱いになるのか本当の所は分からないが、いい方向ではないと想像はつく。
「だってひとりで置いて行けない」
「マサキはデュオンの伴侶なのか?」
時間がない。でもこれだけは聞いておきたかった。
「法的な意味ではそうだよ。でも世間的には許されていないよ」
マサキの答えを聞いた時、ドアの前にデュオンが立った。
「外から軍が入って来る前に脱出する」
ドアを潜り、外へ出れば、兵が地面に倒れているが、警戒の音は止んでおらず、すぐにも兵が雪崩れ込んで来そうだった。
「脱出って、どうやって!」
獣人だから人を抱えて走る事は可能だろう。でも兵から逃げるとすれば二人に三人は負担が過ぎる。
「俺は残るよ」
そう言った時、トオルの体が震え出した。見れば視線がデュオンに固定されている。震えて顔色が悪くなり、後ろに逃げようとする。
「トオル? 大丈夫だよ、僕が一緒にいるよ」
マサキが宥めたがトオルに変化はない。言葉を忘れたように息遣いだけが荒い。たぶん竜族に対する拒否反応なのだろう。元々、獣人の気に当てられていた。伴侶が相手でもそうだったのだ。伴侶でもない獣人がそばにいれば震えるのは当たり前なのかもしれない。
「俺がトオルを守るから、行って」
マサキがデュオンを選ぶのなら、一緒に行った方が良い。さっきの涙と態度を見た紘伊に、ふたりを引き裂く選択は出来ない。
紘伊はトオルをひとりで支えて、マサキをデュオンの元へ押しやった。
「落ち着いたら連絡を取り合おう」
笑ってマサキを送り出す。
「オーギュも行って、ここまで連れて来てくれてありがとう、もう良いから」
もう時間がない。警戒音が消えた。門の外には軍が囲んでいる事だろう。
デュオンはマサキを背で庇い、紘伊はオーギュに守られている。
「———!」
デュオンの声が響く。
数メートルの距離を空けて、兵が取り囲んでいる。その手には剝き身の剣があり、警戒音がけたたましく鳴り響いている。
兵のひとりが獣人語で叫ぶと、それを合図に兵が切り掛かって来る。
「ヒロイ、マサキとトオルを頼む」
デュオンに初めて名を呼ばれ、腕を掴まれてデュオンの背後へと押しやれられ、目前では剣に素手で立ち向かうデュオンとオーギュの姿がある。よく分からないがマサキが心配で駆け寄った。
「マサキ」
「ヒロイ、手伝って」
マサキが長屋のドアの中へ紘伊の手を掴んで誘った。
古い木造りの家の中は和風で、土間があり、一段上がった場所には畳が敷いてあった。部屋は2部屋しかなく、すぐの所に布団が敷いてあって、トオルが寝ている。トオルに駆け寄ったマサキは、トオルの背に手を触れさせ、半身を起き上がらせてTシャツの上にジャージの上を着せた。
「外に出るよ、行ける?」
トオルはマサキを確認して頷いた。
「ヒロイ、手伝って」
マサキが靴を履いたまま畳に上がったから、紘伊も気にせず上がり、トオルに靴を履かせるマサキを見守ってから手を貸した。
「どこへ行くつもり?」
紘伊はマサキと共にトオルの肩を支えながら、マサキに聞いた。
「デュオンの所へ戻るよ」
「大丈夫なのか?」
紘伊は驚いてマサキを見ると、マサキは仕方がないよと笑みを作った。
「デュオンが迎えに来たから大丈夫だよ」
「でもトオルは——」
前族長であるザザリンドの伴侶だったトオルに行き場所がない筈だ。しかもトオルはザザリンドの子を失っている。これが獣人国ではどういう扱いになるのか本当の所は分からないが、いい方向ではないと想像はつく。
「だってひとりで置いて行けない」
「マサキはデュオンの伴侶なのか?」
時間がない。でもこれだけは聞いておきたかった。
「法的な意味ではそうだよ。でも世間的には許されていないよ」
マサキの答えを聞いた時、ドアの前にデュオンが立った。
「外から軍が入って来る前に脱出する」
ドアを潜り、外へ出れば、兵が地面に倒れているが、警戒の音は止んでおらず、すぐにも兵が雪崩れ込んで来そうだった。
「脱出って、どうやって!」
獣人だから人を抱えて走る事は可能だろう。でも兵から逃げるとすれば二人に三人は負担が過ぎる。
「俺は残るよ」
そう言った時、トオルの体が震え出した。見れば視線がデュオンに固定されている。震えて顔色が悪くなり、後ろに逃げようとする。
「トオル? 大丈夫だよ、僕が一緒にいるよ」
マサキが宥めたがトオルに変化はない。言葉を忘れたように息遣いだけが荒い。たぶん竜族に対する拒否反応なのだろう。元々、獣人の気に当てられていた。伴侶が相手でもそうだったのだ。伴侶でもない獣人がそばにいれば震えるのは当たり前なのかもしれない。
「俺がトオルを守るから、行って」
マサキがデュオンを選ぶのなら、一緒に行った方が良い。さっきの涙と態度を見た紘伊に、ふたりを引き裂く選択は出来ない。
紘伊はトオルをひとりで支えて、マサキをデュオンの元へ押しやった。
「落ち着いたら連絡を取り合おう」
笑ってマサキを送り出す。
「オーギュも行って、ここまで連れて来てくれてありがとう、もう良いから」
もう時間がない。警戒音が消えた。門の外には軍が囲んでいる事だろう。
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