獣人カフェで捕まりました

サクラギ

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91 疑惑

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「ハーツは王様にならないよ」

 紘伊に出来る反撃はこれしかない。自分が愛されていると信じて、ナナを遠ざける事。でもナナは可愛い仕草で笑って見せる。

「それはあなた個人の願望でしょう? あなたの価値なんて子どもが出来る事だけなのに。何か勘違いしてませんかぁ?」

 獣人の軽い動きで距離を詰められる。胸元に突きつけられた爪が皮膚に食い込む。

「こーんな所に監禁されて、ハーツェリンド様に甘やかされて、ぽぉっと頬を染めて骨抜きにされているんですよねぇ?」

 首に手を回されて、背伸びをしたナナの唇が見下ろせば重なる位置にある。ナナから甘い誘うような香りがしている。仰け反って逃げようとしても獣人の力から逃れられない。

 ナナの可愛らしい表情が暗く歪む。

「ハーチェリンド様のアレはぁ、長くておおきいからぁ、奥のふかぁーい場所までえぐられて、意識とんじゃうの、きもちイイですよねぇ?」

 耳を引っ張られて、吐息と共に耳に吹き込まれた言葉に胸が軋むように傷んだ。本当ではないと思う。でも本当かもと思ってしまう。体の奥深くをえぐられた感覚が蘇って来て、ナナのセリフに体感が重なる。

「離れてくれ」

 胸を押しやろうとしたら、軽く手が触れただけで倒れて見せたナナのヤリ口が以前の光景を呼び覚ます。狼族のヴォグだ。姿はまるで違うのに、印象が重なっている。ヴォグは狼領主の伴侶だった。しかも複数いる伴侶のひとりで——獣人には珍しくない光景だと知ってしまっている。

「顔色が悪いですよぉ? 傷ついちゃいましたかぁ?」

 クスクス笑っている表情が歪んでいる。紘伊が傷ついた分だけ喜んでいるのだろう。

 ドアがノックされる。紘伊は驚いて身をビクつかせた。同時にナナがシナを作る。可哀想な私を演出している。

「ハーチェリンド様?」

 ナナの目に涙が浮かび、歓喜で頬をピンクに染めている。

 ドアが開く。紘伊は動揺した。この状況をどう取られるのか。ナナの意見が真実であるのなら、紘伊は将来の伴侶仲間へ暴力をふるった事にならないか。それともたかが人が獣人を傷つけたと捕らえられるのだろうか。

「ナナ様、なぜこちらに? ハーツェリンド様のお呼びは掛かっておりませんが?」

 現れたのはトマスだったが、トマスがナナにかけた言葉にも傷ついた。ハーツがナナをこの部屋に呼ぶ事があると知ってしまったからだ。

「えーそうだった? そっか、まだ時間が早かったね?」

 ナナは紘伊をチラッと見てからトマスを見上げ、優雅な態度で右手を差し出す。トマスは慣れた仕草でナナの手を取り、引き上げて立たせている。

「ありがとうトマス」

 ナナにはハーツの部屋に入る権利があるし、トマスを呼び捨てる権利もある。トマスはナナに様を付け、紘伊よりも優先させている。

 ナナが部屋を出て行き、ドアを閉めて振り返ったトマスは、食器を引き取りに来たらしく、テーブルにあるほとんど手を付けていない食事状況に疑問を抱き、顔を紘伊に向けて、やっと紘伊の普通ではない状況に気づいたようだった。
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