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10・望み

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 湯は嫌いだと、湯殿から易々と引き上げられ、冷たい床の上に、尻を上げる形で押し付けられた。

 望みが叶えられる瞬間を待ち望み、ユグのモノは涎のようにだらだらと先走りを溢した。

「ずいぶん緩いようだが?」

 爪を引っ込めた指先で後穴を探られる。目の前に晒しているのかと思うと羞恥と期待で穴が開閉する。

「相手などたくさんいる」

 そう嘯けばイシュは笑う。

「婚姻の儀だというのに主役が尻を剥き出しにしているのも滑稽だが、雄にやらせている? あの雌はお飾りか?」

「早く」

 ユグは耐えきれず声を出す。
 言葉を交わしながらの行為は初めてだった。意思の疎通など必要ないほど行為に溺れていた。溺れていられることが悦びで、それだけで満足だった。

「ここは 聖域エールではない。わかっているのか?」

「ああ、何でも良い。俺の望みは伝えたはずだ」

 イシュの衣服がくつろげられる音がする。振り返り見れば、それは雄々しく熱り立っている。

 ユグは物欲しげに喉を鳴らす。期待で胸が高鳴る。あれを入れた時の良さを思い出しただけで少し射った。

 ミチミチと穴が広がる。
 あまりの圧迫に、リオンとの行為が慣らしのように思える。大きく張り出した先端が入り込むと、どこまで来るのかと思うくらい奥に入って来る。内臓が迫り上がる。息が苦しい。痛みなのか、良さなのか、痺れてわからなくなる。

 ゆっくり引き抜かれると、内臓まで引き抜かれるようで、不安を抱える。一気に突き入れられ、目の前がチカチカ光る。

「あっああッイイ、イイ、こわれるっ……」

 前を触られなくとも何度もイかされ、ダラダラと蜜を溢し続けている。感覚が壊れている。後ろに何度も精液を吐かれ、泡立った液をこぼす。

 後ろ手を引かれ、腹に力が入った状態で突き入れられると苦しくてイイ。

 そのまま膝の上に抱え上げられ、自重で奥まで入るのも、壊れそうでイイ。

 動きを止めるから、無様に己で腰を振り、深くに、浅くに、擦り付けるのも、羞恥でイイ。

 向き合えば深く唇を合わせ、舌を絡ませ、吐息と唾液の交換をする。よりいっそう密着できて嬉しさで高揚する。想いが体を駆け巡り、「愛している」と声を出す。

 そうして言葉が伝わっていることに気づいた。途端に羞恥が昇る。

 喘ぎ声の間に交えた告白を、いつも通り吐き出していた。

「違う」

 と、首をふりながら懇願する。
 今までも伝わっていたのだと困惑した。
 一国の王子が他国の王子に愛を吐く。その異常さにはユグも気づいている。

 戦場での男同士の行為、さらには 聖域エールでの行為は黙認される。
 愛の言葉でさえ一時の感情だと黙認される。だがここはそうではない。婚姻の儀を抜け出し、秘密の逢瀬を味わっている。

 婚姻相手と暮らす白鳥宮の湯殿で。

「違うとはどう言うことだ? まだそんな余裕があるのか?」

 イシュはユグの首に牙を立て、溢れた血に舌を這わせた。
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