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16 自身の変化は伝わるらしい

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 不思議なもので、好きな子の為に働いていると思うと、妙なやる気が湧いて来るもので。いや、違うか。早く帰りたいが為にスピード重視、間違い厳禁でやっているだけか。

 だが、その変化は周りに伝わるようで、妙に話しかけられたり、仕事関係の質問を受けるようになった。

 お昼にも誘われるようになったし、だがこれはマールとのお弁当雑談の為に行かないのだが、自分が変わると周りが変わるを体感していた。

「良いわね、新婚」

 兎のディアに言われる。

「まさか、まだ付き合ってもいないよ」

「そうなの?」

 なぜかディアがお弁当仲間に加わってのお昼休み。

「こいつ好きな子を家で冬眠させてるんだよ」

 マールが悪態を吐く。いつも通りだ。

「えー良いわね。私もあやかろうかしら」

 ディアが話題に食いついて来る。

「ディアの恋人も冬眠中?」

「そうなんだけど、一人寝タイプで、近寄るのを拒むの。4ヶ月会えないのは辛いわ」

 ディアの手作りお弁当は豪快だ。大きなおむすび3個と、スープポットに野菜たっぷりのシチューだ。

「それはつらいね」

 私がそう言うと、ディアの目がキラキラ輝く。

「そうなの。アレスならわかってくれると思った! 電話で話せるから良いじゃないとか、好きなこと出来るでしょうとか、違うのよ、私はずっと一緒にいたいの」

「結婚すれば?」

 マールが軽くそう言うと、ディアのおむすびがマールを襲う。もちろんラップに包んである物で、マールが受け止めて、返している。

「そんな単純な話じゃないのよ。私も冬眠タイプなら良かったのに」

「私も冬眠タイプではないが、勝手に入って寄り添うだけでも満たされる。そういうの、交渉してみたら良いよ。たまに言葉を返してくれると、格別に嬉しいから」

 そう言うと、ディアが黙る。
 え? と思ったら、マールが大きくため息を吐いていた。

「のろけか」

「あーん、悔しい、私も今度、お願いしてみるわ。アレス羨ましい」

 のろけか? 私にしてみれば単なる事実なのだが、そうか、のろけか。

「アレスくん、少し良いか?」

 昼休みから戻って来た犬鷲の課長に呼ばれる。これも珍しい。

「はい」

 マールに目配せして、さあ? という素振りを受ける。ディアも同じ仕草だ。

 課長のデスクに行くと、なぜか一緒に連れ立ってエレベーターに乗り、上階へ向かっている。課長の押した階は社長室のある階で、妙に焦る。

「私が何かやりましたか?」

 これは冷や汗ものだ。

「さて、どうかな? 私は君を同伴させろという指示を受けただけだ」

 課長も知らないらしい。

 社長室など入ったことがない。
 入社の際に、辞令を応接室で受け取った以来、たまに見かけるくらいで、挨拶だって遠くからした程度だ。

 社ビルの5階全体が社長専用で、エレベーターのドアが開くとカウンターがあり、受付嬢がいる。

 課長は受付嬢と視線を合わせるだけで素通りだ。その後ろを歩く私は緊張ぎみに視線を下げる。

 秘書課のドア横を素通りし、奥のドアへ進む。重そうな二枚扉の片方が社員の手によって開けられる。

 大窓から差し込む日差しと、高級な香水の匂いが、室内から溢れて来た。
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