可愛い子が押し掛けて来たけど信用しても良いのだろうか

サクラギ

文字の大きさ
18 / 24

18 昔馴染みと未来の友人

しおりを挟む
 顔を見られないように荷物を持ち出し、社を後にする。

 マールにどう説明したものかと悩んで歩いていると、隣にすっと黒塗りの車が平行して来る。

 さっきの今だ。
 車に乗せられて、連れ去られたら。それだけは絶対に避けなければ。

 運転席の窓が下げられる。
 警戒している私の前に現れたのは見知った顔で。あからさまに安堵の息を吐いた。

「よう、アレス」

 狼の獣人。軽薄そうな態度が昔のままで、一気に懐かしさを覚えた。

「良い感じにやられたな、乗れよ」

 口元をトントンしながら言われ、こいつ、事のあらましを知っているなと思う。

 後部座席に乗り込み、ウォルが乗っているのを知る。

「すでに把握済みですか」

 ウォルの話はマールから聞いているだけで、実際に会うのは、最初に会った蜂蜜の宿以来だ。

「ジラル領の領主に領を潰すと伝えろと言われましたが?」

「すでに軍が動いている。問題の娼館も摘発済みだし、孤児を売っていた経営者も逮捕済みだ」

 存在の格が違う。ウォルが領主かどうかは知らない。だがそんな肩書きなど必要のないくらい、ウォルには人脈があり、一声で動く機関がたくさんあるのだろう。

「ミルルくんの居場所も見張りを入れてある。安心して良い」

 それは私の家を把握済みという事か。まぁ、これでミルルが連れ出されましたじゃ何の意味もない。有り難く行為を感謝する。

「ありがとうございます」

「いや、ミルルくんに何かがあれば、ユートが悲しむからね」

 そういう理由か。なるほど、わかりやすい。

 ウォルがフッと笑う。
 何かと思えば、親しげな表情のウォルが私を見ていた。

「アレスくんとはきっと長い付き合いになると思ってね」

「あぁ、そうですね。そうなれば良いなと思いますよ」

 ミルルとユートの仲は兄弟のようだ。きっとずっと仲良く暮らして行くのだろう。

「まずはお互いの相手を射止めないと、だな」

「そうですね」

 二人で苦笑いをする。

「さきほどの社だが、上部をすげ替えて経営は続く。安心して務めると良い」

「社全体ではなく、社長の個人的な犯行でしたか?」

 そう聞くと、苦い顔になる。

「まぁ、資金的に言えば社も黒だが、職を失いたくはないだろう?」

「そうですね。社員は良いヤツばかりですし。助かります」

 運転席の男がクックッと笑っているから、思わずシートの背を蹴った。

「痛えよ、アレス!」

「笑うな、ルフ」

 ルフ、ルフレッドは、10代の頃にいた軍学校の宿舎仲間だ。同じ時間を過ごし、同じような悩みを抱えていた。

「ウォルさんの運転手なのですか?」

 ルフもまた貴族の出で、家を嫌い、逃げ出したくちだ。

「護衛兼運転手かな。時に情報収集にも向かってもらう」

「何でも屋だよ」

 ルフが悪態をつく。
 車は私の自宅マンションの前に停まる。

「10日ほど休みなさい。その間に片付けておく」

 どのみち年末年始休暇だ。
 このタイミングを見ての行動なのだろう。

「ありがとうございました。失礼します」

 車を降りて頭を下げ、ドアを閉める。
 マンションの周りには見知らぬ男がひっそりといる。住人でもわからないくらい、風景に溶け込んでいる様は、流石だと思う。

 マンションを見上げ、息を吐く。
 ミルルが無事で本当に良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される

水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。 絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。 長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。 「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」 有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。 追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!

処理中です...