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12 次の神子
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有力者が神子を手に入れようと願うのは、神子が力の象徴であるからだ。だからアシュが次の神子を求めるのは当然のことで、そんなことで傷ついているティアがおかしい。
その日は体調不良を理由に養成所の訓練をサボってしまった。二人部屋の宿舎の相方はゲランだ。ゲランが訓練を終えて戻って来るまでに、元気なふりをしないといけない。ゲランに心配を掛けると、アシュに伝わってしまう。現に不調を伝えられてしまっているかもしれない。
本当はわかっている。なぜ数多くいる獣人国の中で、アシュが候補に選ばれるのか。それはアシュが竜に乗って神国へ行けるからだ。
獣人で竜を飼っているのはアシュひとり。この大陸の中で竜に乗れる者は少ない。
竜国は海の向こうの島国らしく、そこに住む竜は気位が高く、人や他種族を乗せる竜はほぼいないらしい。騎竜は心を通わせると念話ができる。それはある程度の距離があっても可能らしく、アシュは時折、ぼんやりしている時があり、そういう時は騎竜と念話をしている。
アシュはティアにまるで弟のように気安く接しているが、本来ならば声も掛けられない相手だ。本当ならこんなに世話をしてもらっているのもおかしな話で、甘えだということはティアもわかっている。あと少し。そういう想いがティアにある。三年の期間の間だけ。そうしたら出て行く。そう決めていた。
「大丈夫か? ティア。どうせメシ食ってないんだろ?」
ゲランの手にトレーがある。温かなスープの香りが部屋に広がった。
「うん、ありがとう」
ベッドから身を起こし、ゲランからトレーを受け取った。
「暁の祈りで飲んで来た?」
ゲランが持って来てくれたメニューは、暁の祈りという名の居酒屋で良く食べるものだった。
「そう、神国へ行く時の打ち合わせをして来た。ティアは行かないって言っておいたよ」
「うん、ありがとう。助かる」
「寮のみんないなくなるから、アシュ様がティアは王都の屋敷かアシュ様の屋敷にいろって言ってた。どうする?」
「たった1週間だろ? ここにいる。毎日訓練しないと体が元に戻りそうで怖いからって、アシュ様に伝えてくれる?」
スープを食べたら胃がキュッと痛んだ。でも顔には出さない。おいしいねって顔をする。
「うん、わかった。伝えておくけど、アシュ様は許してくれないかもね」
それはティアの容姿が変わったからだ。元の健康的な体に戻れば、顔が兄と似てしまった。兄ほど綺麗ではないし、あんな艶のある色気はないけど、兄を幼くしたような容姿は、人目を引く。ただ獣人族の好みではないから、獣人の国での暮らしに支障はない。ティアの顔を好むのは人だ。成長が怖いとアシュに言われたこともある。
「過保護すぎだよな? 俺なんてそんな、ただの子どもだろ?」
「子どもだから心配なんだろ?」
ティアとゲランは同い年だ。同じ13歳、もうすぐ14歳になる。でも身長差は20センチ。ゲランだってティアを片腕に乗せられる。体重差など考えたくもない。
「ゲランだって同い年のくせに。子どもって言われたら嫌だろ?」
「ごめんって、怒るなよ。自分で言い出したくせにさ」
ゲランは着替えを済ますと、カーテンを一枚隔てた反対側のベッドに寝転がる。
「……ゲラン、ごめん」
「いいよ、別に。体調悪くて機嫌も悪いんだろ? もう寝る。また明日な」
「うん、また明日」
毎日きちんと食事を取ること。これもアシュとの約束だ。
健康でいること。悩みがあればちゃんと話に来ること。アシュとの約束はたくさんある。
たぶん父親のような存在なんだろう。でもそれを嫌がる悪い感情がティアの中にある。
幸せになってはいけない。
だからこれで良い。
その日は体調不良を理由に養成所の訓練をサボってしまった。二人部屋の宿舎の相方はゲランだ。ゲランが訓練を終えて戻って来るまでに、元気なふりをしないといけない。ゲランに心配を掛けると、アシュに伝わってしまう。現に不調を伝えられてしまっているかもしれない。
本当はわかっている。なぜ数多くいる獣人国の中で、アシュが候補に選ばれるのか。それはアシュが竜に乗って神国へ行けるからだ。
獣人で竜を飼っているのはアシュひとり。この大陸の中で竜に乗れる者は少ない。
竜国は海の向こうの島国らしく、そこに住む竜は気位が高く、人や他種族を乗せる竜はほぼいないらしい。騎竜は心を通わせると念話ができる。それはある程度の距離があっても可能らしく、アシュは時折、ぼんやりしている時があり、そういう時は騎竜と念話をしている。
アシュはティアにまるで弟のように気安く接しているが、本来ならば声も掛けられない相手だ。本当ならこんなに世話をしてもらっているのもおかしな話で、甘えだということはティアもわかっている。あと少し。そういう想いがティアにある。三年の期間の間だけ。そうしたら出て行く。そう決めていた。
「大丈夫か? ティア。どうせメシ食ってないんだろ?」
ゲランの手にトレーがある。温かなスープの香りが部屋に広がった。
「うん、ありがとう」
ベッドから身を起こし、ゲランからトレーを受け取った。
「暁の祈りで飲んで来た?」
ゲランが持って来てくれたメニューは、暁の祈りという名の居酒屋で良く食べるものだった。
「そう、神国へ行く時の打ち合わせをして来た。ティアは行かないって言っておいたよ」
「うん、ありがとう。助かる」
「寮のみんないなくなるから、アシュ様がティアは王都の屋敷かアシュ様の屋敷にいろって言ってた。どうする?」
「たった1週間だろ? ここにいる。毎日訓練しないと体が元に戻りそうで怖いからって、アシュ様に伝えてくれる?」
スープを食べたら胃がキュッと痛んだ。でも顔には出さない。おいしいねって顔をする。
「うん、わかった。伝えておくけど、アシュ様は許してくれないかもね」
それはティアの容姿が変わったからだ。元の健康的な体に戻れば、顔が兄と似てしまった。兄ほど綺麗ではないし、あんな艶のある色気はないけど、兄を幼くしたような容姿は、人目を引く。ただ獣人族の好みではないから、獣人の国での暮らしに支障はない。ティアの顔を好むのは人だ。成長が怖いとアシュに言われたこともある。
「過保護すぎだよな? 俺なんてそんな、ただの子どもだろ?」
「子どもだから心配なんだろ?」
ティアとゲランは同い年だ。同じ13歳、もうすぐ14歳になる。でも身長差は20センチ。ゲランだってティアを片腕に乗せられる。体重差など考えたくもない。
「ゲランだって同い年のくせに。子どもって言われたら嫌だろ?」
「ごめんって、怒るなよ。自分で言い出したくせにさ」
ゲランは着替えを済ますと、カーテンを一枚隔てた反対側のベッドに寝転がる。
「……ゲラン、ごめん」
「いいよ、別に。体調悪くて機嫌も悪いんだろ? もう寝る。また明日な」
「うん、また明日」
毎日きちんと食事を取ること。これもアシュとの約束だ。
健康でいること。悩みがあればちゃんと話に来ること。アシュとの約束はたくさんある。
たぶん父親のような存在なんだろう。でもそれを嫌がる悪い感情がティアの中にある。
幸せになってはいけない。
だからこれで良い。
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