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村人の日々
005 村人と魔法使い
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ヒデヨシが農作業中
「ヒデヨシ......聞こえているか?」
草むらから小さい声でヒデヨシに問いかけるレオナルドの姿があった。
「どうしたレオナルド」
「少し君の所で匿ってくれないか?」
キョロキョロと周りを確認しながら会話を進めるレオナルド。
「あー公爵令嬢か」
ヒデヨシは察したと言わんばかりの顔をしながら農作業を止め、レオナルドを家に入れる。
レオナルドはこの村1番の魔法使いだ、しかも2つの属性適性があるため傭兵として雇われるのはほぼ確実と言っていいだろう。
そして1度でも「雇ってあげるわ」などと言われれば断る事は出来ない、となれば逃げるしかないのだ。
「ありがとう、恩に着たくは無いけど恩に着るよ」
「なんだそりゃ」
とヒデヨシは言いつつ客人用のアップルティーをレオナルドの前に差し出す。
アップルティーと言えどやはり甘味がある物は高い、普段から飲もうとするならそれこそ貴族や公爵令嬢等しか飲めないだろう。
「......やはり君のトマトの方が甘くないかい?」
「家は少々高く付くが灰を使って育ててるからな」
「それでもあのトマトの甘さはおかしいだろう」
レオナルドはアップルティーを啜りながら皮肉の様に言う。
「まぁあれだ、大事に育てたから」
「それは違うだろう」とレオナルドは言いたげだったが、言う事を止めた。
実際ヒデヨシは花よ蝶よと自らの野菜を育てているだけなので、何故ここまで差が出るのかは誰ひとりとして分かっていない。
ヒデヨシは美味しければ良いかな程度で済ませている。勿論家族もだ。
「でも流石に最近腰が痛い」
「あれだけ大きな畑を1人でやってるだけ凄いさ」
今居る家の外には1辺100m近くある広大な畑だ、昔ヒデヨシの父が他の職業で働いていた時に稼いだ金で一括払いで買った物だ。
この畑のおかげでヒデヨシ達はお金にそんなに困らない、食料にも困らない生活を送っている。
「で、どうすんだ?この後」
「公爵令嬢が帰ってから戻るよ、多分今頃僕の事を探しているだろうね」
紅茶を啜りながら答えるレオナルド。
確かにとヒデヨシも同意する。
「じゃあ昼飯も食べていくか?」
「君に世話になるのは嫌だけど頂いていくよ」
柔らかく微笑みレオナルドは同意した。
「あっれぇ?レオちゃんじゃん」
「あぁヒデヨシのお姉さブッ」
レオナルドの振り向いた先にはパンツ以外何も着ていないマーヤだ。
流石にこれにはレオナルドも吹いた。
ヒデヨシにはこういうのは普通なのだがレオナルドには刺激が強過ぎた。
ダクダクと流れる鼻血をレオナルドはハンカチで止める。
「ヒデちゃんブラジャーどこ?」
「箪笥に入ってると思う」
「無かったから」
「干してると思う」
裸の女性の体を見て何も思わないヒデヨシに対しレオナルドは、
「君って奴は......」
呆れていた。
「世話になったね」
「何時でも頼って来い」
「そんな事が無いように頑張るよ」
レオナルドは最後にニカッと笑いヒデヨシの家を出た。
夜風がレオナルドの火照った体に当たる。
「やっぱり夏でも夜は少し肌寒い」
レオナルドは少し震え帰路に着く。
ヒデヨシの家からレオナルドの家はそこまで遠くなく歩いて数分の所にある。
その為2人は一緒に育ってきた、幼馴染というやつだ。
2人が幼少の頃は仲良く外で遊んでいた。
ただヒデヨシがレオナルドの家に1度行ったことがある。
その時はレオナルドが実験をするという事でヒデヨシも見ていたのだ。
結果は失敗も大失敗。
レオナルドこそに怪我はなかったがヒデヨシが意識不明の重体となった。
すぐに街の病院へヒデヨシは連れていかれた。
レオナルドは一緒に行けなかった怖くて怖くて。
──嫌われてしまうんじゃないか。
そんな考えが子供のレオナルドの頭に過ぎった。
ヒデヨシは一命を取り留めた。
それからだレオナルドがヒデヨシに対して敵対しているかの様な態度をとるようになったのは。
だからレオナルドは今でも怖い。
──あの事でまた嫌われてしまうんじゃないか。
またレオナルドの頭を過ぎる。
だが一応ヒデヨシからは許してもらっている。
その『許す』の言葉の裏に何かがあるんじゃないかとレオナルドは思えてしまっている。
嫌われたくない。
率直な幼馴染としての感情だった。
「ただいま」
「ん、おかえりお兄ちゃん」
レオナルドに返事を返したのは銀髪ショートの顔立ちも体の成長もかなり良い少し無表情なレオナルドの妹だ。
名前はアリシア。
特徴的なのがその目だ。
右目が赤く左目が真っ黒だ。
そう真っ黒、光さえ感じさせないほど呑み込まれそうな真っ黒。
銀髪ショートで少し感情に欠けている美少女だがもう一つレオナルドにしては欠点がある、それは
「......ヒデヨシの家だ」
そう言った途端アリシアがソファから寝たまま落ちた。
「ほんと?」
「だから言いたくないんだ......」
それは、ヒデヨシの事が大好きである事。
「その外套、よこす」
「よこす理由が無いかな」
兄の外套を取ろうと引っ張るアリシア。
「何故欲しいんだい?」
ギリギリと外套を妹に取らせまいと踏ん張るレオナルド。
「嗅ぐから」
「キモイ!」
レオナルドからしたら本当にそれだけだった。
だが幼馴染の匂いでさせる訳にはいかないとレオナルドはそういった意地があるため渡す気はない。
レオナルドは1度ヒデヨシの事が好きだと知らないで渡した事があるが、妹の部屋に入った途端甘ったるい匂いがして拒否反応が発症し、その日1日は殆ど吐いて過ごした。
そして外套はグッショリ濡れて帰って来た、という事があり色んな意味で渡してはいけないとレオナルドの中で禁忌となってしまった。
そして非力なレオナルドは負けてしまった。
そして思った。
──妹なんてロクなもんじゃない。
と。
「ヒデヨシ......聞こえているか?」
草むらから小さい声でヒデヨシに問いかけるレオナルドの姿があった。
「どうしたレオナルド」
「少し君の所で匿ってくれないか?」
キョロキョロと周りを確認しながら会話を進めるレオナルド。
「あー公爵令嬢か」
ヒデヨシは察したと言わんばかりの顔をしながら農作業を止め、レオナルドを家に入れる。
レオナルドはこの村1番の魔法使いだ、しかも2つの属性適性があるため傭兵として雇われるのはほぼ確実と言っていいだろう。
そして1度でも「雇ってあげるわ」などと言われれば断る事は出来ない、となれば逃げるしかないのだ。
「ありがとう、恩に着たくは無いけど恩に着るよ」
「なんだそりゃ」
とヒデヨシは言いつつ客人用のアップルティーをレオナルドの前に差し出す。
アップルティーと言えどやはり甘味がある物は高い、普段から飲もうとするならそれこそ貴族や公爵令嬢等しか飲めないだろう。
「......やはり君のトマトの方が甘くないかい?」
「家は少々高く付くが灰を使って育ててるからな」
「それでもあのトマトの甘さはおかしいだろう」
レオナルドはアップルティーを啜りながら皮肉の様に言う。
「まぁあれだ、大事に育てたから」
「それは違うだろう」とレオナルドは言いたげだったが、言う事を止めた。
実際ヒデヨシは花よ蝶よと自らの野菜を育てているだけなので、何故ここまで差が出るのかは誰ひとりとして分かっていない。
ヒデヨシは美味しければ良いかな程度で済ませている。勿論家族もだ。
「でも流石に最近腰が痛い」
「あれだけ大きな畑を1人でやってるだけ凄いさ」
今居る家の外には1辺100m近くある広大な畑だ、昔ヒデヨシの父が他の職業で働いていた時に稼いだ金で一括払いで買った物だ。
この畑のおかげでヒデヨシ達はお金にそんなに困らない、食料にも困らない生活を送っている。
「で、どうすんだ?この後」
「公爵令嬢が帰ってから戻るよ、多分今頃僕の事を探しているだろうね」
紅茶を啜りながら答えるレオナルド。
確かにとヒデヨシも同意する。
「じゃあ昼飯も食べていくか?」
「君に世話になるのは嫌だけど頂いていくよ」
柔らかく微笑みレオナルドは同意した。
「あっれぇ?レオちゃんじゃん」
「あぁヒデヨシのお姉さブッ」
レオナルドの振り向いた先にはパンツ以外何も着ていないマーヤだ。
流石にこれにはレオナルドも吹いた。
ヒデヨシにはこういうのは普通なのだがレオナルドには刺激が強過ぎた。
ダクダクと流れる鼻血をレオナルドはハンカチで止める。
「ヒデちゃんブラジャーどこ?」
「箪笥に入ってると思う」
「無かったから」
「干してると思う」
裸の女性の体を見て何も思わないヒデヨシに対しレオナルドは、
「君って奴は......」
呆れていた。
「世話になったね」
「何時でも頼って来い」
「そんな事が無いように頑張るよ」
レオナルドは最後にニカッと笑いヒデヨシの家を出た。
夜風がレオナルドの火照った体に当たる。
「やっぱり夏でも夜は少し肌寒い」
レオナルドは少し震え帰路に着く。
ヒデヨシの家からレオナルドの家はそこまで遠くなく歩いて数分の所にある。
その為2人は一緒に育ってきた、幼馴染というやつだ。
2人が幼少の頃は仲良く外で遊んでいた。
ただヒデヨシがレオナルドの家に1度行ったことがある。
その時はレオナルドが実験をするという事でヒデヨシも見ていたのだ。
結果は失敗も大失敗。
レオナルドこそに怪我はなかったがヒデヨシが意識不明の重体となった。
すぐに街の病院へヒデヨシは連れていかれた。
レオナルドは一緒に行けなかった怖くて怖くて。
──嫌われてしまうんじゃないか。
そんな考えが子供のレオナルドの頭に過ぎった。
ヒデヨシは一命を取り留めた。
それからだレオナルドがヒデヨシに対して敵対しているかの様な態度をとるようになったのは。
だからレオナルドは今でも怖い。
──あの事でまた嫌われてしまうんじゃないか。
またレオナルドの頭を過ぎる。
だが一応ヒデヨシからは許してもらっている。
その『許す』の言葉の裏に何かがあるんじゃないかとレオナルドは思えてしまっている。
嫌われたくない。
率直な幼馴染としての感情だった。
「ただいま」
「ん、おかえりお兄ちゃん」
レオナルドに返事を返したのは銀髪ショートの顔立ちも体の成長もかなり良い少し無表情なレオナルドの妹だ。
名前はアリシア。
特徴的なのがその目だ。
右目が赤く左目が真っ黒だ。
そう真っ黒、光さえ感じさせないほど呑み込まれそうな真っ黒。
銀髪ショートで少し感情に欠けている美少女だがもう一つレオナルドにしては欠点がある、それは
「......ヒデヨシの家だ」
そう言った途端アリシアがソファから寝たまま落ちた。
「ほんと?」
「だから言いたくないんだ......」
それは、ヒデヨシの事が大好きである事。
「その外套、よこす」
「よこす理由が無いかな」
兄の外套を取ろうと引っ張るアリシア。
「何故欲しいんだい?」
ギリギリと外套を妹に取らせまいと踏ん張るレオナルド。
「嗅ぐから」
「キモイ!」
レオナルドからしたら本当にそれだけだった。
だが幼馴染の匂いでさせる訳にはいかないとレオナルドはそういった意地があるため渡す気はない。
レオナルドは1度ヒデヨシの事が好きだと知らないで渡した事があるが、妹の部屋に入った途端甘ったるい匂いがして拒否反応が発症し、その日1日は殆ど吐いて過ごした。
そして外套はグッショリ濡れて帰って来た、という事があり色んな意味で渡してはいけないとレオナルドの中で禁忌となってしまった。
そして非力なレオナルドは負けてしまった。
そして思った。
──妹なんてロクなもんじゃない。
と。
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