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第二の世界
ばーん。
しおりを挟む「あ゛~~~つ~か~れ~た~」
「レイチェル様、声!」
部屋にはだらしなく手足を投げ出す様に仰向けにゼイゼイと息をつく私と、だらしない私を咎めるアリネス。現在スパルタ扇舞稽古の束の間の休憩時間だ。
身体にダラダラと流れる汗の量が多過ぎて一層の事清々しい。
「飲み物をどうぞ」
見守ってくれていたルルがすっと冷たいお茶を差し出してくれる
「ありがとう」
ゴクゴクと喉を潤すとかなりすっきりした。
「レイチェル様、とても頑張られましたね」
「?」
「先程お教えした所でこの舞は一先ず終了でございます」
「!」
「おめでとうございます!毎日頑張っていらっしゃいましたものね!」
ルルも隣で自分の事の様に喜んでくれている
「やったー!!!うん!そんな気はしてたの!やっぱりここで終わりよね?!あー長かったー!!」
もう一度パタリと転がればアリネスに咳払いをされる
「レイチェル様。いくらここが毎日清掃されているかと言ってもその態勢は淑女らしくはありませんよ」
今私達がいるのは私の部屋の1つで、馬鹿みたいに広いので特に何にも使っていなかった。なので舞の稽古場にしてもらった。
「いや、もう私限界だから。ライフゼロだから」
「ライフとは?」
「知らない」
ふぅ、と軽いため息をつくアリネス。私がちょこちょこ口走る意味不明な言葉にはもうアリネスや護衛騎士の皆は慣れている。
バアァン!!!
「レイチェル様!」
扉が壊れますよ、と言いたくなる様な勢いで入ってきたのはサランだ。
「あらサラン、どうしたの」
むくりと起き上がりルルから受け取ったタオルで汗を拭う
「レイチェル様の噂が広がっております!」
ーーああ、また……か
目を三角にして怒っているサランには悪いが別に私は気にしていないのでいい。しかしサランはどうしても許せませんといつも私の代わりに怒っている。
というのも、私が護衛騎士の皆に祈りの花を渡したあの日。つまり上級貴族のご令嬢であるマーティファ、ネロリダ、ローマニエから簡単に言えば「調子こいてんじゃないわよ!覚えてなさい!」的な事を言われたあの日辺りから私のよくわからない噂が囁かれる様になった。
ーーあれから3カ月かー。噂のレパートリーよく切れないなぁ
噂は私が
ヴォルフオルの妃になるのは私しかいないと言いふらしている
や
何もしていないか弱き貴族の令嬢に護衛騎士を使って難癖をつけて乱暴を働こうとした
や
本当は怪しい宗教の信者で、王族をその毒牙にかけようとしている
などだ。
他にも何だか想像力の豊かさに感心する程沢山身に覚えのない噂が沢山飛び交ってはサランが騒いでいる
ーー事実じゃないんだから放っておけばいいのに
何となく、というかまあほぼ確実に誰がやっているのか予想はつくが今の所実害もないし放置している。
ナーニャやヴォルフからは『大丈夫か?』という旨が書かれた手紙を頂いたが全然大丈夫だ。
「ではレイチェル様、一度全て通しましょうか」
「?」
「もう十分休まれたでしょう。せっかく最後まで覚えられたのですから身体に覚えこませましょう」
「いいいい今から?!」
もう今日は終わって湯浴みして昼食だと思っていたがそうはいかなかったらしい。
助けを求める様にルルの方を見ると「頑張って」という様に両手を胸の前でぐっとしていた。
ーー可愛いなこのやろう
諦めてアリネスの方を向き「よろしくお願いします……」と言うと「かしこまりました」と満足そうにしている。
何かを忘れている気がするがまあその内思い出すだろうと扇を手に取って稽古を再開しようとするとややヒステリック気味な声が聞こえる
「レイチェル様!」
ーーあ、忘れてたのサランか
忘レテ無カッタヨー
チャント覚エテタヨー
と思いながらサランの方を向くと鬼の様な形相をしていた。
ーー怒ってる怒ってる。めっちゃ怒ってる。
あはは、と曖昧に笑って誤魔化そうとしたがダメだった。
「どうしてレイチェル様は何もされないのですか!」
怒鳴られた
「え?だって事実じゃないし」
「事実じゃない事を言いふらされるんだから怒るんでしょう!」
「え、そういうもの?」
後ろにいるアリネスとルルに振り返りながら聞けばルルは困った様に微笑み、アリネスは真顔のまま「まあそういった方もいらっしゃいますね」と言う。
「まあ、実害ないからいいんじゃない?」
サランに言うとキーーッ!と益々怒りを露わにする
「サ、サランさん落ち着いて。ほら、お茶飲む?と思ったけどこれ私の飲みかけね」
「レイチェル様っ!」
ーーうえぇ。これ長くなるのかなぁ
怒鳴り声が好きな人は居ないと思うが私は特に苦手だ。こんな事ならアリネスのスパルタ稽古で舞を通しで何回かやった方がましだ。
ーーいや、頑張っても2回だな
ぼーっと考えていると目の前で叫んでいるサランの顔はもう真っ赤だった。
「どうしてっ!どうして怒ってやり返さないんですかっ!」
「やり返すってそんな過激な。それに噂でしょう?私実家とかが無いから別に家族に迷惑がかかるとかでもないし。気にしなければいい問題だし……」
ーー何より関わるのがもう面倒だし
人と関わるのは好きだが、こういったマイナス面で関わるもの程煩わしいものはない。
「どうやったらレイチェル様は怒るんですか?!」
「ん?どう言う意味?」
するとサランは一瞬ハッとした顔をしたがすぐに「もういいです!」と言って乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。
残された私達はぽかーんと可哀想な扉を暫く見守った。
「ねえねえアリネス」
「なんでしょうレイチェル様」
「なんていうかね」
「はい」
「今とか最近の諸々って侍女っていうか、使用人として大丈夫なの?」
サラン解雇されたりしないのかな?本当大丈夫?と逆に心配になってくる。
「いやまあ、普通に考えて論外ですよね」
ーーだよねーーーっ!
その後も私達は暫く扉を見つめるしかなかった。
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