異世界めぐりの白と黒

小望月 白

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第二の世界

聞き覚えのない名前

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ずっと血が止まるのではないかと思うくらい強く握られていた腕の力が緩み、腕が解放される



ーー明るい所で見たら手形の青あざできてそう



サランが足を止めたタイミングで周りを見ると知らない回廊だった。景色からして5階くらいの高さだろうか。



「ここは……?」



するとサランは先程の剣幕がすっかりと消え去り、とても楽しそうにくるりとこちらを向いた


「ふふふ。ここはやっぱり来たことがないでしょう?一応まわり道をしてどこに向かうかわからない様にはしたけど、そんな手間要らなかったわね」



「サラン……?」


するとサランは天井を見上げながらケラケラと笑う



「本っ当に覚えていないのね!びっくりだわ!」


そう言って彼女は一歩、また一歩と後ろへと下がり私との距離を開ける



「何の事?」



私の言葉にサランは舌打ちをする


「もういいわ。色々と予定が狂ったけど最終目標を達成できるんだもの。些細な事だわ」



そしてサランがまた一歩、私から離れた。すると回廊にヒタヒタと足音の様な物が聞こえる




ーーどこから……




嫌な予感がして勢い良く振り返る。するとそこには青白い顔の死神の様な男が立っていた




「いっ!」



慌てて横へ避けて男から距離を取る。しかし男は全く慌てた様子を見せる事なくふらりと顔だけ私の方を向く



ーー逃げなきゃ



すると少し離れた場所からサランの楽しそうな声がする



「あはははははっ!楽しんでねレイチェル!ゆっくり、ゆっくり苦しみながら死ぬといいわ。あの方の様にね!」



あの方、と言われても全く誰の事を言っているのか見当も付かないがサランとこの男が私を殺そうとしているのはよくわかる。



ゆらぁり
ゆらぁり



まるで亡霊かの様に生気の無い顔をした男はズルズルと動きにくそうな服を引きづりながらこちらへ近づいてくる



前には男、後ろにはサラン。
一か八かサランの方へ全速力で走ってみてもいいが向こうだって何かしら刃物なり何なり持っているだろう。
それにこの男に背を向けるのは危険すぎる気がする



ーーどうすれば……!



何かないかと男を見据えながらドレスを触る。すると隠しポケットの辺りで何か硬いものが当たる



ーーあっ、これ……




そんな怖いものいらないと言っているのに、研究対象を提供した分け前くらいは持っておけと無理矢理オルトスに言われ、アリネスには「もしもの時の為に肌身離さず持っておいて下さい」と言って私が着るドレスのポケットにいつも勝手に忍ばせていたランカの成分小瓶





ーーでもこれ毒だってオルトスが……



しかしそんな事を考えている暇もなさそうだ。少し身体を捩り隠しポケットに手を入れているのを見えにくくする



ーーあった



ポケットの中で右手に小瓶が当たる
そのままジリジリと後ろに下がりながら小瓶の蓋を開ける



ーーこれ、ポケットから出すのに失敗したら私の手が毒液だらけになるわね




怖い事は今はあまり考えないようにしよう。どちらにしてもこれを失敗すればその時点で詰みだ。




スッ



男がズルズルの服の陰から一振りの劔を出し、私へと振り上げる。
余程私が逃げないと思っているのかその動きは酷くゆったりとしているが、今は何も考えない



ーーごめんなさい




毒だとわかっていて小瓶の中身を男に向かって投げつけるかの様にして振り掛けた。
オルの言っていた『成分』がどれ程のものかはわからないが、人1人殺してしまえる程の物だったとしても私は今生きる為にこの人の命よりも自分の命を取った。
きっとこの記憶はずっと私の心に留まるのだろう。





「ぐ……ギャアアァ!」





私の振りかけた液が見事に顔へとかかった男はすぐ様自分の服で顔を拭うがどうやら目に入ったらしい。しきりに目を擦っている。



ーーもしかして即効性はない?!




しかし目を擦っていた男は突然劔を落とす



「?」



そして「あ゛ぁ゛、う゛あ゛ぁ!」と言いながら闇雲に手をブンブンと振り回し出す



「おい!何してる!さっさとレイチェルを殺せ!」




かなり離れた場所からサランの声が聞こえる。しかし男は自我を失った様にぶつぶつと何かを呟きながら腕を振り上げては何かを叩き潰す様な動きを繰り返している。そしてその動きもすぐに止まり、男は受け身も取らずに回廊へと倒れ込む



ーー毒が………回ったのかな




床に突っ伏したまま細かく痙攣した男はその後動かなくなった。その姿を見た瞬間身体中がどくんと音を立てた様な気がした。
気付けば私の背中には沢山の汗が伝っていた。



「おい、何をした」



サランの怒鳴り声と共に怒りを露わにする足音が近づいて来る




ーーもう瓶の中身は全部無くなった




ポケットの中身はもうハンカチと、夢の中から持ってきた2つのペンダントくらいだ。




「ちっ、やっぱりここの人形は出来が悪いと言うのは本当ね」




そう話すサランとの距離は約2メートル。そして侍女服のポケットからサランが取り出したのは短剣だった。



「この身体動き難いんだけど仕方ないか」



慣れた手つきでパシパシと短剣を放ったり掴んだりするサラン。その目はギラギラとしていて、その瞳に宿っているのはまさしく『殺意』だった。




「あの方の……ディードレーヤ様の仇を取ってやる」



「ディー……ドレーヤ………」



聞いた事がないはずのその名に、確かに私の中の何かが音を立てて崩れて行く。



ーーディードレーヤ………?


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