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第三の世界
家族とラムスー2
しおりを挟む「それで…?」
リンが淡々と話す家族の話を聞いている内にすっかりスープは冷めきっている
「ああ、その日の素材集めは絶好調。いつもはなかなか見つからない素材も結構集まって、帰って2人に自慢しようと思って帰ってきたら家の中がグシャグシャだった。
テーブルには溢れたり下に落ちたりしてはいたけどまだ手をつけてない食事が3人分並べられてあった。でも一階に父と母の姿は見えなかった。
嫌な予感がして俺は慌てて二階へ上がった。そしたらそこに2人が倒れてた。
父は母を守るかの様に覆い被さって腹から血を流して死んでたよ」
「…っ!」
相変わらずスープをクルクルとかき混ぜながら話すリンの表情は無く、本当に淡々と話していた。
「駆け寄って声をかけた。すると母はほんの少しだけだけど、息があった。
急いで王宮から貰ってきた『神の雫』を飲ませようと口元まで運んだんだ。でも飲ませる間もなく俺を薄目で見て一瞬微笑んで、母も死んだ」
静かな家にリンがスープをかき混ぜ、スプーンと皿が擦れる音だけが響く
「あ、ちなみに神の雫ってのはレイチェルが昨日王宮で目に塗ったあれだよ。
この世界では唯一の万能薬で、母なる樹の若葉についた朝露を集めた物だ。母なる樹の所へは別に俺でも行くのは許されてるが神の雫を集めるのは選ばれた者だけだ。
飲んでも塗っても何にでも効く」
そしてリンはふっと口元に弧を描く
「流石に死人には効かないけどな」
後々王宮の人達が調べた所、リンの両親の死因は身体についた刃物の傷ではなく『ラムスが身体から無理矢理取り除かれた事』によるものだった。
リンが来た時は両親が折り重なっていたからすぐには気付かなかったが2人ともお腹からラムスが取り除かれていたらしい。
ーーああ、だから…
リンが私のお臍を初めて見た時、何故あれ程慌てていたのか理解した。
知らなかったとは言えリンのトラウマとも言えることを思い出させてしまったのだ。
今もこうして辛い話をさせてしまっている。
「リン、話してくれてありがとう。それから辛い事を思い出させてしまってごめんなさい…」
「いや、気にすんな。会ってすぐのお前にこんな重たい話するのもどうかと思ったんだけどな、その内わかるだろうしな」
静かな部屋に外で遊ぶ子供達の声が入ってくる
「さ、食べてしまおうぜ。もう完全に冷めちゃったけどな」
ははは、と笑うリンはそのまま冷たくなっているであろうスープを口に運ぶ
「ん」
「それからな、レイチェル。念の為に言っておくが俺のこれは空元気とかじゃなくて本当にもう大丈夫なんだ。だから心配すんな。それに近所のみんなも助けてくれるから俺平気なんだ。両親の事が恋しくないって言うのは多分これから先もないけど、悲しんで何もしないよりは少しでも元気に過ごして2人に胸張ってちゃんとやってるって言える男になるんだ」
「そっか」
「ああ。とりあえずこれ食ったら明日の事を決めよう。神殿か王宮に行くんだろ?」
「うん」
「じゃ、さっさと食べちゃわないとな。どっちがいい?」
「…神殿も見てみたい」
「わかった。明日ついでに近所にも挨拶がてら回るか。今日はたまたま会った奴らだけだったからな」
「ええ」
洗い物をして明日の予定を決め、リンのお母さんの物だという寝間着を借りる
「悪いな。近い内に王様がレイチェルに必要最低限の物は届けてくれるって言ってたからそれまでは母さんの着ててくれ」
「ありがとう。その、リンは私がこれを着ても大丈夫…?」
するとポンポンと頭を撫でられた
「大丈夫だよ、ありがとな」
ーーわ、私より子供なはずなのに子供扱いが多い…
しっかりしなくてはと心に誓い、二階に衝立を置いて眠りに就いた。
「やっほーおはよー」
元気な声が聞こえ目を開けると、逆さまに私の顔を覗き込んでいるリンの姿があった。
「…おはよう、何してるの?」
「ん?レイチェルの寝言がすげーから見に来てた」
ーー衝立の意味…
ん?ちょっと待て、何か不安な言葉が聞こえた
「ね、ねぇ。ちなみになんだけど私寝言でなんて言ってた…?」
「んー何か呪文みたいなのいっぱい言ってたぞ?」
「呪文?」
「うん。まず、ぎょざーだろ?らめん、てーしーはん?と、からぎゃ!」
ーー餃子にラーメン、天津飯、唐揚げか
「…忘れて」
リンに言われて思い出した。確か友達と遊びに行った帰り道、お腹が空いたので何か食べようとなり結局お洒落なカフェではなくがっつり食べられる中華屋さんに入って色気より食い気を取ってしまった夢だった。
ていうか実際にあったやつだなこれ。
「ふーん、なんか大切なことだったか?」
「いやー…なんていうかただただ私の食い気が元気だっただけというか…これ全部食べ物の名前なのよ」
私の返事を聞いたリンはお腹を抱えて笑いだした。
「全く、レイチェルはまだまだ子供だなぁ!」
「リンには言われたくない…」
着替えと朝食を済ませて近所に軽く挨拶をする。皆「ようこそ」「困った事があれば言ってね」と優しい声を掛けてくれた。
が。
仮にも昔虐殺された一族なのに、こんな明らかに不審な余所者をホイホイと受け入れてしまっていいのだろうか。
ーーこんな発想する私の根性が捻くれてるだけかしら
何だか絶滅したドードーみたいな危機感の無さを感じてしまう。
この危機感の無さに私が助けられているのは紛れも無い事実なのだが。
ーーん?何か引っかかるな
ふと何かが頭をよぎった気がするがリンが肉屋でまた雲蛭を買おうとしているのが見えて全部吹っ飛んだ。
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