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第三の世界
双子
しおりを挟む王宮で王様とリンに、私の能力は魔力なのではと言われた次の日。私はいつもより少し早めに目が覚めた。
ーーもし、リンに出てけって言われてもちゃんと笑顔で今までのお礼を言おう
「よし」と気合を入れて着替え、衝立の向こう側を見ればベッドにリンは居なかった。
ーーもう起きてるのね
タンタンタンと階段を降りる。いつもならリンが先に起きた場合はすぐにでも声をかけてくる筈なのに今日は声がかからない。おかしいなと思って階段を降りきって見てみればリンはこの家唯一の机に突っ伏したまま眠っていた。机には薬箱だろうか、年季の入っていそうな箱が置いてあり中に色々な瓶やら小さな木製の容器が沢山見える。
「リン、おはよう。もしかして体調悪い?」
声を掛けるとリンは少し唸った後に薄目を開ける
「あれぇ…レイチェルまだ寝てなかったのか?」
「何寝ぼけてるのリン、もう朝よ」
どうやら体調が悪い訳では無かったことに安堵し、とりあえず朝食の準備を始める。
「ぐああー身体中がいてぇー」
伸びをするリンが言うには昨日考え事をする間に眠ってしまったのだと言う。その後、素材集めに向かったがいつもはずっと話しているリンがやけに大人しかった。これはいよいよ出て行かないといけないなと思っていると、リンが話し出す。
「なあ、レイチェル。レイチェルが空の世界の前にいた絵の世界って所で使った能力?っていうのは本当に『魅了』だったのか?なんかもっと他の力だったりしなかったか?」
「え………」
「ああ、いや悪い。なんて言うか昨日もざっくりは聞いたけどどんな感じかなーって…」
「そ…うね…」
なんと言ったらいいのだろうか。私が直接目にしたのは第3王子のヴォルフオル1人だったが、オルトスが言うには皆私の話になると恍惚とした表情で私を欲しがり、とても正気には思えない様子だったそうだ。私が関係していないとそこまで酷いことにはなっていなかった様で、一応国もちゃんと回っていた。と、思う。私見てないけど。
オルに関しては本当に人が変わってしまったとしか言いようが無かった。意思疎通ができる様でできない。オルの様でオルではない何かに取り憑かれている様な不気味さがあった。そもそも『魅了』と言い出したのだって研究バカだ。
そういえば植物にはそこまで変なかかり方はしなかった気がする。道案内や、木の実や果物を分けてくれたりしたし概ね希望通りの能力のかかり方だったと思う。
ーーあれ?でも植物にかけたのって最初の道案内の時だけだっけ
なんだか少し前の事なのに色々と必死だったせいか記憶が曖昧になっている。
ーー食べ物分けてって木に能力使ったっけ…?
とりあえずリンには曖昧な部分を含めて改めて説明した。少し考えたリンは「人を癒す能力とかではなかったか?例えば傷が治ったり…」と言っていたがそんな覚えはない。どちらかと言わずとも傷を治す以前に精神を狂わせる系の能力だった。首を振る私を見てリンは「そっかぁ」と言っていたがどうしたのだろうか。
素材集めもそこそこに切り上げ、家に帰ってリンに仮眠を勧める。大丈夫だとは言っていたが心なしかいつもより口数も少ないし、きっと眠たいのだろう。家事は完璧ではないが粗方出来るようにはなってきたし、リンをベッドに追いやった。程なくして2階から1階にある台所まで聞こえてくるくらい豪快なイビキが聞こえてきたので思わず吹き出した。
そのまま、何日かが過ぎた。結局私が危惧していた「出て行ってくれ」という言葉はリンからは出ず、むしろ「ここがお前のホームだぞレイチェル!」と訳の分からない事を言っていたがまあ何となく嬉しかったのでお礼だけは言っておいた。
コンコンコン
「「リーーーンーーー!レイチェルー!!いーまーすーかーーーー?」」
台所でベリーパンケーキを焼いていると、ノックと共に可愛らしい揃った声が聞こえる。リンは奥で素材を綺麗にしているので火を消して扉へと向かう。
「いるわよ。こんにちはリル、ロイ」
「「こんにちはレイチェルー」」
ーーててて天使!
顔はそっくりなのに、ちゃんと男の子と女の子だとわかる可愛らしい双子。デンショバトとしてよくうちに来てくれる活発そうな男の子のリル、大きな瞳をキラキラとさせて何にでも興味を持つ女の子のロイはここ数日でもうすっかり私にも慣れてくれた。
「きょうはねー!おうさまのおてがみ持ってきたのー」
ーーぎぁあああ可愛いいい
少し皺の入った封筒を斜めがけしている自分のバッグから取り出すと私に差し出してくれるリル。
「ありがとうリル、ロイ。ちょっと待ってね、さっき焼きあがったのがあるから」
そう言って平静を装いつつ先程焼いていたパンケーキをムォルムという大きな葉っぱで包んで2人に渡す。この世界にラップやアルミホイルなんて物はない。昔、日本でおにぎりを包むのに使われていた竹の皮の様に防腐効果がある植物で包む事が多いがその代表が今私が使った『ムォルム』というイチジクの葉っぱの様な形の植物だ。これも素材集めの1つに入っており、沢山摘んで買い取ってもらう物の1つだ。
「わーありがとうレイチェルぅ!おうさまのところでもお菓子もらったけどいいのー?」
「いいのいいの。たまたま作ったのがあったから」
基本的にはデンショバトの子供達への謝礼は手紙や伝言を送る方がする。受け取る側は手紙を受け取って終わりだ。しかし受け取る側がご褒美をあげてはいけないというルールもない。つまり!少々卑怯な手だとは分かっているが私はさっさと2人にそのやわやわほっぺを触らせて貰える関係へ成り上がる為分かりやすく点数稼ぎをしている。
ーーふっふっふっふ。子供って好きだけど、いつも何故か泣かれちゃう事が多かったのよね。今回は先手必勝よ!
あと2.3回くらいお菓子をあげればほっぺを触らせてくれるだろうか。なんなら抱っこもさせて欲しい。しかしここ最近リルとロイが来るかもしれないと思って毎日甘いものを作っていたので毎日朝食が渡す事のなかった前日のパンケーキなので流石に飽きてきた。
ーーもーちょい日持ちするやつ作るか…
「レイチェル、王様なんてー?」
「えっとねー」
ガサガサと手紙を開くと
リン、レイチェルへ
専門家の都合がついたので近い内に王宮においで。できれば今日おいで。
と書かれていた。
ーーん、今日……
「今日?!」
叫ぶ私の後ろで手紙を覗き込んだリンが「ラッキー。晩飯作らなくていいなー」と呑気な事を言っている。現在はもう夕方。時計がないこのざっくりした世界で具体的な時間指定は無いもののもう既に地球で言うと17時半頃だ。
ーーなんでこの世界の人たちってこんなに伸び伸びしてるのかしら…
とりあえず先程のパンケーキが乾燥してパサパサにならない様、急いでムォルムで包んで出発の準備をする。
ーーちょっとあれだわ、事前通達ってものを取り入れて貰わないとだわ
戸締りや火がついていないかなどを確認して回りながら、私は密かな決意をした。
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