【一章完】薬師魔女の後継者になぜか美容師の私が召喚されました~薬師のかたわら、継承されたスキルを使って美を追及したいと思います~

藤 ゆみ子

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第21話 森の秘密

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 魔術師団で、フォティアスさんと黒呪病が発現した当時の記録を探した。病気としての記録ではなく、最初の発症者の女性と黒い魔女のことについて。
 そしてわかったことがある。女性が結婚した相手は、元々黒い魔女の婚約者だったこと。
 貴族協会に、婚姻、婚約記録というものがある。いわゆる戸籍のようなものだが、黒い魔女と婚約届を出していた男性が、黒い魔女の友人である女性と婚姻を結んでいたのだ。

「これって、婚約者を奪われたということなんでしょうか?」

 婚約者を奪われた恨みが呪いになった?

「それにしては不自然なところがある」
「不自然なところ?」

 フォティアスさんが指さす資料を一緒に覗く。

 妻の方から婚姻の解消を申し出……。

 奪っておいて自分から婚姻の解消を申し出たの?
 そして、女性の最終住居地はあの森になっている。
 元々友人だったし、薬を作るための研究をしていたし、一緒に住んでいたのかな。
 でも、呪いをかけた本人と一緒に暮らしたいと思うものなのだろうか。

 資料には、感情なんて書かれていない。でも、呪いを解くためにはそこが重要だ。
 
「後は、本人に聞くしかありませんね」
「黒い魔女の居場所がわかったのか?!」
「確証はありませんが、たぶん――」


 ◇

 
 私とフォティアスさんは、一緒に森へとやってきた。
 入り口から、家までの距離が想像以上に近かったことに驚いている。

「我々が見るこの森と、レーナが見ている森では大きな違いがあるのだろうな」
「私が見ているこの森と、ジェルバさんが見ていた森とも違っていたかもしれません」

 そして私たちは、家の裏にある聖水の泉の前に来た。いつも泉で水を汲んでいるけれど、泉の向こう側には行ったことがない。
 正確には行けなかった。見る限りでは森はまだ奥の方まで続いているのに、行こうとしても泉の周りをくるくると回るだけで奥にはいけないのだ。
 まるで、この森に迷い込んだ人たちのように。

「この向こう側に黒い魔女がいるというのか?」
「私が思うに、向こう側というよりもこの下なのではないかと思うのです」
「下?」

 泉の底を指さす。発光しているような泉は、キラキラと綺麗だ。
 はじめは驚いたけれど、異世界だし、聖水だし、美味しいし、特に気にはしなかった。
 でも先日、フォティアスさんの『隠している』という言葉で抱いた疑問で、この泉をよくみてみたのだ。
 水面に森が反射して映っていると思っていたけれど、この泉の底が森なのではないかと気づいた。
 光っているように見えるのは、下が泉の底ではなく、ここのように光りが差し込む森が広がっているから。

 私は一度大きく深呼吸をして手のひらに魔力を集中させる。
 先日、魔法書を読んで家の中で少し練習しただけだから上手くいくかはわからないけど、たぶん、できるような気がする。

 手のひらの上で、魔力をかき混ぜるようにゆっくりと放っていく。すると、小さな竜巻のような風が出現した。
 それを、泉の真ん中に向かって勢いよく放つ。

 両手を使い、途切れないように、風を使って水をかき分けていく。
 けれど、思ったよりも深い……。

「そんな魔法まで覚えたんだな」

 フォティアスさんはそう言いながら私の横に立ち、手をかざす。
 すると私のものとは比べ物にならないほどの突風を巻き起こし水面は風によって真っ二つに分かれた。

「わあ! すごい!」

 底に現れたのは、やはり広大な森だった。
 でも、どうやって行けばいいのだろう。ここから飛び降りる?! こんな高いところから飛び降りて大丈夫?!

 躊躇していると、フォティアスさんは片手で風を送りながら、もう片手で私の腰を抱えた。

「行くぞ」
「え? ええー!」

 抱えられたまま泉の中へと飛びこんだ。
 落ちるー! と思ったけれど、浮いている。ゆっくりと下降し、そしてそのままストンっと地面に着地した。

「今のって、空飛んだ感じですか?」
「浮遊魔法を使っただけだ」

 浮遊魔法かぁ。私も覚えたいな。
 上を見上げると、膜に覆われたような空が広がっていた。きっとあれが泉の水面なんだろう。

 それにしても、泉の底にこんな所があったなんて。見た目は元いた森と全く変わらない。
 陽の光が射しこんだ穏やかな森だ。

 そして少し先には、小屋があった。

 小屋の横にはこじんまりとした畑があり、薬草も育っている。
 あそこで、黒い魔女が暮らしているのだろうか。

 私たちは小屋へと向かった。なんだか少し緊張する。どんな人なんだろう。何を話そう。本当に呪いを解くことができるのだろうか。いろいろな不安が込み上げる。

 小屋につき、フォティアスさんがドアをノックしようとした瞬間、後ろで物音がした。

 振り返ると、一人の女性が持っていた籠を落とし、目を見開いていた。
 真っ黒で、肩までの広がったソバージュのような髪。離れていてもわかるほどの濃いそばかす。全身が隠れる黒いローブを纏っている。

 女性は固まってしまって何も言わない。

「黒い魔女か?」
「……ジェルバさん?」
「青い魔女?!」

 ジェルバさんの名前を呼んだ私にフォティアスさんは驚いている。

 それもそうだろう。魔法で美しさを保っていたとはいえ、ジェルバさんの姿とは似ても似つかない。
 でも、きっと彼女はジェルバさんだ。

 そして彼女はその場にへたり込み、大粒の涙を流した。
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