本来死ぬはずの騎士様を庇って、聖女見習いの私は魔力を失いました。――生存した彼が過保護すぎて、ずっと曇っている。

藤 ゆみ子

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第2話 禁術からの目覚め

「――ナ、リアナ」

 何度も名前を呼ばれた気がして、目を開ける。
 視界に飛び込んできたのは見たこともない煌びやかなシャンデリアと、上質な天幕のレース。
 もしかしてここ、天国なのだろうか。
 だって私、ドラゴンに禁術を使ってその後……死んだ、はず。

「リアナ!」

 けれどすぐに聞きなれた声がして優しく抱きしめられた。
 
「サイオス、様?」
「目が覚めて良かった。体はつらくないか? どこか痛いところは? 手足に痺れはないか?」

 サイオス様は私を抱きしめたまま息が荒くなるほどに言葉を続ける。

「あの、私はいったい……」

 ゆっくりと起き上がると、サイオス様は心配そうに私を見つめてくる。

「ドラゴン討伐から十日間、ずっと眠っていたんだ。もう目が覚めないのかと心配した」

 あれ私、死ななかったんだ。
 そして、ドラゴン討伐を終えて戻ってきたんだ。
 
「サイオス様、騎士の方や他の聖女はみんな無事だったのでしょうか」
「リアナ……自分のことより周りの心配をするんだな。君のおかげでみんな無事だった」

 禁術って、命と引き換えに使うものだって書いていたけどそうじゃなかったのかな。
 そして、みんなを助けることができた。
 この国も守ることができた。

「本当によかったです」

 けれどサイオス様は悲痛な表情を浮かべる。

「だがリアナ……君にはもう、魔力がないんだ」

 それはわかっている。
 たしかに体が重いし、今まで感じたことのない鈍さがある。
 これが、魔力を失うということなのだろう。

 でも理解した上で禁術を使ったし、本来なら死ぬはずだったのに生きているということは奇跡に近い。
 魔力がない人なんてこの国にたくさんいる。
 もう聖女にはなれないけど、これからは普通に生きていけばいい。

「大丈夫です。命があるだけありがたいことですので」
「守ってやれずにすまなかった。俺のせいで、俺が不甲斐ないせいで、リアナは魔力を失ってしまったんだ……」

 サイオス様は申し訳なさそうに頭を下げる。
 死ぬはずだった私がこうして生きているということは、きっと彼のおかげなのだろう。
 そんなに責任を感じなくてもいいのに。
 
「サイオス様のせいではありません。それに、みなさんを助けられたのなら、私の魔力を差し出すなんてなんてことありませんから」
「リアナ、俺はどうやって君に償えばいいのだろう」
「償いなどいりませんよ。どうかサイオス様はこれからもこの国を守っていってください」
「わかった。この命に代えてでも君を守ると誓おう」

 ん? 私、この国を守ってって言ったんだけどな。
 なんか意味違ってない?
 それに命は大切にしてほしい。せっかく私が救ったのだから。

「……ところで、ここはどこでしょう?」

 病院でもないし、教会にある私の部屋でもない。

「ここは俺の屋敷だ」

 ということは、ウォルマート公爵家?
 どうりで高級そうなものばかりある部屋なわけだ。

「眠っている間、随分とお世話になってしまったのですね。でも、もう目が覚めましたし教会に戻ります。ありがとうございました」
「それはだめだ」
「え? どうしてですか?」
「リアナは一生、ここで俺が面倒をみる」
「そんな! これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「迷惑だなんてあるわけないじゃないか。君は魔力を失ってしまった。体にどんな不調が起こるかわからないし、危険な目に合わせるわけにもいなかない。それに、教会に戻ってどうするんだ?」

 そうだ。私にはもう魔力がない。
 治癒魔法が使えなければ聖女にはなれないし、教会で働くことはできないんだ。

 だからって、一生サイオス様のお世話になるわけにはいかない。

「どうするかはわかりませんが、一度戻って、神官長様とお話をしようと思います」

 私はベッドから立ち上がろうとした。
 けれどその瞬間体がふらついて、サイオス様に抱き留められる。
 そしてもう一度ベッドに寝かされた。

「神官長とは話をつけてある。リアナのことは俺に任せると言ってくれた。それにまだ体調が戻っていないだろう。お願いだから今はここでゆっくり休んでくれ」
「わかりました……」

 いつもはキリッとした表情のサイオス様に悲し気に懇願され、大人しくベッドに体を沈めた。

 それからウォルマート公爵家で療養生活が始まった。
 体が本調子ではないため眠っていることが多いけれど、目を覚ますと必ずサイオス様がいる。
 仕事が忙しいはずだからそばについていなくてもいいと言っても、気にしなくていいと言う。

「リアナ、はい口を開けて」
「あの、サイオス様。自分で食べられますので」
「だめだ。体も手も足も全て休めなければいけない」

 結局お皿を渡してくれることはなく、羞恥心を抱えながら食事をした。

 そんな甲斐甲斐しいお世話を受けて数ヶ月、魔力のない身体に慣れてきたのかもうすっかり体調は良くなった。

 このままいつまでもベッドの上で過ごすわけにはいかない。
 私は教会へ行くことにした。
 討伐から帰って一度も顔を見せていないし、今後の生活について相談したいこともある。
 サイオス様はさすがに仕事が忙しいらしく今はいない。
 私は使用人に教会へ行くことを告げて、公爵家を出た。

 教会へ行くと、神官長様や他の聖女たちが驚いた顔で私を見る。
 けれどすぐに駆け寄って抱きしめてくれた。

「リアナ、無事で本当によかった」
「魔力がなくなったって聞いて、もう動けないのかと思っていたけど元気そうね」
「サイオス様にもよくしていただいて、体調はもうすっかりよくなりました。魔力は、戻りませんが……」

 私はもう、みんなと一緒に聖女として働くことはできない。
 すると神官長様に、こっちにおいでと呼ばれた。

 ついて行った先は私の部屋。
 もう何か月も帰っていなかったのに、そのままだった。

「リアナ、禁術を使っただろう」
「神官長様……わかっていたのですね」

 いつも穏やかで、どんな時も優しく見守ってくれる神官長様だけれど、こういったことは全部見透かされている。

「禁術を使うことは、罪を犯すということ。でもそれによって多くの命を救った。私は何も言わないよ」
「ありがとうございます……」
「これからどうするんだい?」
「サイオス様にずっとお世話になるわけにはいかないので、働きたいと思っているのですが、かと言って行くところもなく、どうすればいいか悩んでいます」
「リアナが望むなら、いつでも帰ってきていいからね。ここはお前の家なのだから」

 できることならば、ここに戻ってきたい。
 治癒魔法は使えないけど、簡単な怪我の手当てや介助、掃除などの雑務はできる。

「神官長様、私またここで――」

 ――バンッ

 その時、部屋のドアが勢いよく開き、焦った表情のサイオス様が入ってきた。
 一目散に私のところへ来ると、苦しいくらいにぎゅっと抱きしめられる。

「リアナ、どうして出ていったんだ」
「え……? 出ていったというか、教会へ行くと使用人の方にお伝えしていたのですが……」
「何か不自由なことがあったのか? 気に入らないことがるのか? それとも俺のそばにいるのが嫌になったのか? 目の届くところにいてくれないと心配なんだ。君の望むことはなんでもするから、お願いだから戻ってきてくれ」
「え、ええっと、ちょっと話がよくわからないのですが」

 抱きしめられたままどうすればいいか困っていると、神官長様がサイオス様の肩をポンポンと叩く。

「とりあえず、今日はもう帰って二人で話をしておいで」

 神官長様の言葉で冷静になったのか、サイオス様はやっと離してくれた。
 そして二人で公爵家へと戻った。
 お屋敷に入るとすぐに私のために用意してくれている部屋と行き、ベッドに座らされる。

「リアナ、これから俺が一生面倒をみると言っただろう。どうして教会に?」

 サイオス様は私の足元に跪き、両手を握って見上げてくる。
 一生面倒をみてくれる、というのはとてもありがたい話ではある。
 けれど、サイオス様がそこまで責任を負わなくてもいいし、私自身、ちゃんと自分の力で生きていきたい。
 そのことを伝えると、跪いたまま私の膝にコテッと額を乗せた。
 
 強くて頼もしい人だと思っていたけれど、可愛いところもあるんだな。
 私は思わずその頭を撫でていた――
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