本来死ぬはずの騎士様を庇って、聖女見習いの私は魔力を失いました。――生存した彼が過保護すぎて、ずっと曇っている。

藤 ゆみ子

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第4話 曇天のような愛

 サイオス様と話し合った結果、ウォルマート公爵家で暮らしながら通いで教会で働かせてもらうことにした。
 治癒魔法は使えないけれど、怪我や病気に対する知識はなくなっていないし、治療以外にもできることがある。

 相変わらずサイオス様は心配性だけれど、私の決めたことを尊重してくれている。

 そして今日は他の聖女と討伐現場へ同行することになった。
 討伐と聞いて一瞬不安になったけれど、今回は中級魔物で特別危険な現場ではないそうだ。
 中級魔物の討伐なら何度も同行した。

 私はいつものように後方で聖女たちと待機する。

 しばらくすると、負傷した騎士たちが入れ替わりでやってきた。
 幸い命に関わるような大きな怪我をしている人はいないけれど、それなりに血が流れている。
 重症の騎士から聖女の治療を受け、私は軽傷の騎士の手当てをした。

「止血はしましたが、できるだけ患部を高く上げておいてください。順番に聖女が治療しますので」
「なんだよ聖女なんだろ。さっさと治癒魔法で治してくれよ」
「すみません。私は治癒魔法は使えないのです」
「治癒魔法が使えねえのにこんなとこに来てんじゃねよ。出来損ないの聖女だな」

 出来損ないの聖女。まさにその通りだ。
 いや、私はもう聖女ですらない。ただの雑用係。
 命を張って戦っている騎士からしたら、私なんて見せかけのいらない存在なのかもしれない。
 自分にはまだできることがあるなんてうぬぼれていた。

「すみません……」

 深く頭を下げたとき、シュッと剣を抜く音がしてすぐに顔を上げる。
 すると目の前には青ざめた騎士の顔と、彼の首元に添えられた剣があった。

 そして彼の後ろには剣を抜いた冷酷な表情をしたサイオス様。

「サイオス様?! 何をされているのですか?!」
「だ、団長……」

 声をかけても剣を収めることはない。
 こんな表情、見たことない。

「お前、今リアナに何を言った」
「す、すみません」

 騎士はひどく怯えている。
 怪我だってしているし、こんなところで揉めるわけにはいかない。
 
「あの、聖女様の手が空いたみたいです。あちらで治療してきてください」

 私が肩を押すと、騎士は一目散に駆けていった。
 サイオス様は騎士の背中を睨みつけるように見送ると剣を鞘に収め、私の前に膝を付いた。

「リアナ、嫌な思いをさせてすまなかった」
「いえ、私は大丈夫です」
「あいつは最近入団した新人なんだ。後できつく言っておく」
「何も言わなくて大丈夫ですので! サイオス様は戻ってください。ね?」

 やはりまだ討伐は終わっていなかったようで、サイオス様はしぶしぶ現場へと戻っていった。

 その後無事討伐を終え、全員で王都に戻った。

 公爵家へ帰ってすぐに湯浴みをして部屋で休んでいると、部屋のドアがノックされる。
 返事をするとサイオス様が入ってきた。
 この部屋にソファーはないので並んでベッドに腰掛ける。するとそっと手を握られた。

「リアナ、疲れていないか?」
「大丈夫ですよ。私はなにもできなかったですし」

 治癒魔法を使っていたときは魔力の消費でそれなりに疲れも出ていた。
 今はそういったこともなく、ただ走り回ったあとの脱力感があるくらいだ。
 本当はもっと疲れて動けなくなるくらい働かなければいけないのに。

「なにもできなかったなんてそんなことはない。リアナがいてくれるだけで力になるんだ」
「サイオス様はお優しいですね。でも、あの騎士が言っていた通り私は魔力を失った出来損ないです」
「そんなこと言わないでくれ。リアナは素晴らしい聖女だ」
「私はもう、聖女ではありませんよ。なんの価値もないのです」

 納得していたつもりだった。
 たくさんの命を救えたのだから後悔はないと。
 けれど、心のどこかで聖女の自分というものに固執していたのかもしれない。
 私にはなんの価値もないと認めるのが怖かったのかもしれない。

 でもそれを自覚した今、心の奥を締め付ける不安が押し寄せてくる。
 これから私はどうすればいいかわからない。

 その時、握られていた手をグッと引かれ、私はサイオス様の胸の中に飛び込んでいた。

「俺は、君の存在にいつだって癒され、救われているんだ。俺の大切な人をそんなふうに言わないでくれ」

 大切な、人? 私が?

 そうだ。私はいつだってサイオス様に大切にされていた。守られていた。
 
「魔力のない私でも、大切だと思ってくれるのですか?」
「当たり前だ。たとえ魔力がなくたって、俺を癒してくれるのは君だけなんだ。リアナ、きみはずっと、これからも素晴らしい聖女だよ。俺にとっての、俺のためだけの、たった一人の愛しき聖女だ。何があっても、リアナというかけがえのない聖女を守り続けていくから。だから、なにも心配しなくていい」

 抱きしめられた腕から、押しつぶされそうなほどの愛を感じた。

 私の魔力がなくなったのは自分のせいだと責めるサイオス様だからこそ、与えてくれるものがあるのかもしれない。
 
 私はいつか、この曇天のような愛にのみ込まれていく。
 そんな気がした。
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