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第10話 舞踏会
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舞踏会当日、準備をするために部屋に来てくれた侍女たち。
ワゴンに積まれたメイクやヘアセットの道具、普段は使わないコルセットやパニエなどを見て今回も始まるのか、と気合いを入れる。
そして、持っていたドレスを見て驚いた。
「あの、このドレスは?」
「シオン様が今日のために仕立てられたのですよ」
「そうだったのですね。知りませんでした」
結婚した当初、一着だけドレスを仕立てた。とても良いものだったし、二回しか着ていないので今回もそれを着るものだと思っていた。
けれど、今思えば失礼だったかもしれない。
昨年の舞踏会の前にドレスを仕立てないかと尋ねられた時、まだ着られるからと断ってしまった。
公爵家の妻が公の場でドレスを着回すなんて、体裁が悪かったかも。
実家ではドレスはボロボロになって着られなくなるまで着崩していたから、そんな考えに思い至らなかった。育ちって大事だよな。
シオン様も私がいらないと言えばそれ以上は何も言わないから、気づけなかった。
普段は既製品のシンプルなドレスを着ているだけだし、今後は身なりにも気をつけないといけないかも。
そんなことを考えながら、私はされるがままにどんどん準備は進んでいく。
コルセットをこれでもかと絞められ、何枚もパニエを重ねる。
そして、新しいドレスに袖を通す。
「素敵……」
オフショルダーに、Aラインのデザインは、スタイルをよく見せてくれる。
広がったスカートの裾には細やかな刺繡があしらわれていてとても上品だ。
そして、シオン様の瞳と同じスカイブルー色の生地。
「もっと素敵になりますよ」
侍女は私をドレッサーの前に座らせると、メイクとヘアセットを同時に進めていく。
彼女たちの手際は素晴らしく、あっという間に仕上がった。
最後に先日買ってもらったネックレスを付けて完成だ。
「ティア様、とてもお綺麗です」
「シオン様もきっと喜ばれると思います」
鏡に映る自分が自分でないみたいだ。
しっかりと着飾るだけで随分と違うものなのだと感心する。
ここまで変わるなら、シオン様も着飾ってくれって言うよね。
これで、シオン様の妻として見劣りしない。
「綺麗にしていただいて、ありがとうございました」
「舞踏会、楽しんでくだいね」
侍女たちは満足そうに部屋を出ていった。
そしてすぐにドアがノックされる。
返事をすると、シオン様が入ってきた。
「シオン様、新しいドレスありがとうございます」
「うん。とてもよく似合ってる」
「こんなに胸元が開いたデザインは初めてなので少し恥ずかしいです」
「僕は、このデザインにして良かったと思ってるよ」
シオン様はそう言い、ネックレスにそっと触れた。
そうか、私が選んだこのネックレスに合わせてデザインを考えてくれたんだ。
「シオン様のおかげで、胸を張って舞踏会へ行けます」
感謝の意を込めてカーテシーをした。
シオン様は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑み、手を差し出してくる。
「行こうか」
私たちは馬車に乗って、王宮へと向かった。
舞踏会の会場である大広間にはすでにたくさんの貴族たちが集まっていて、それぞれ談笑したり、挨拶を交わしている。
壇上には長い白ひげが特徴の国王を中心に王族が座っていて、その下には騎士たちが立っていて、警護をしていた。
何度来てもこの雰囲気はなれないな。緊張する。
「ティア、もっと肩の力を抜いて」
「はい……」
そんなに気を張らなくても、見知った人と軽く挨拶を交わし、国王の挨拶を聞き、パートナーとダンスを踊るだけだ。
わかってはいるけれど、雰囲気にのまれてしまう。
「見て、国王の口元。きっとあれはワインを飲んできているな」
「あ……おひげが少し赤いですね」
「国王は厳格そうに見えるけど、実はあがり症なんだよ。だから緊張を和らげるためにワインを飲むんだ。毎度国王のひげを確認するのが楽しみなんだよね」
「そんなことを楽しみにしてらしたなんて知りませんでした」
シオン様の話に思わず笑ってしまう。
国王様のひげなんて気にしたことなかったな。
言われたら、つい見てしまう。
いけない、と思いシオン様に顔を向けると、目が合った。
二人でクスリと笑い合う。
なんだか、さっきまでの緊張が嘘みたいに和らいできた。
こそでふと、会場の隅に立つクラウド様が目に入った。
少し見ていると、目が合った。けれどすぐに逸らし、会場の様子に集中している。
警備のお仕事大変そうだな。
クラウド様は今まで一度も舞踏会でダンスを踊ったことはないと聞いている。
女性からそれなりに人気はあるし、お声をかけられたりもしているそうだけど、仕事があるからと全てお断りしているのだ。騎士だからといって踊ってはいけないわけではない。
他の団員たちは仕事をしながら交代で婚約者や奥様たちと踊っているのに。
今も、可愛らしいご令嬢に声をかけられていたが、断っているようだった。
「やっぱり、シオン様以外とは踊りたくないのかしら……」
「ティア? どうかした?」
「あ、いえ……。クラウド様、お忙しそうだなと」
シオン様は少し顔を歪めたあと、クラウド様の方を見る。
「クラウドは仕事一筋人間だから、結婚する相手は大変だろうね」
またご令嬢に声をかけられる姿を見て、眉をひそめる。
嫉妬、しているのだろうか。
愛する人が他の人から言い寄られたら嫌だよね。
でもそれって、クラウド様も同じ?
愛するシオン様が私とダンスを踊る姿なんて見たくないのかも。
だからさっきもすぐに目を逸らしたんだ。
なんだか申し訳ない。
そうだ、いいことを思いついた。
この舞踏会、せっかくだからお二人に楽しんでもらおう。
ワゴンに積まれたメイクやヘアセットの道具、普段は使わないコルセットやパニエなどを見て今回も始まるのか、と気合いを入れる。
そして、持っていたドレスを見て驚いた。
「あの、このドレスは?」
「シオン様が今日のために仕立てられたのですよ」
「そうだったのですね。知りませんでした」
結婚した当初、一着だけドレスを仕立てた。とても良いものだったし、二回しか着ていないので今回もそれを着るものだと思っていた。
けれど、今思えば失礼だったかもしれない。
昨年の舞踏会の前にドレスを仕立てないかと尋ねられた時、まだ着られるからと断ってしまった。
公爵家の妻が公の場でドレスを着回すなんて、体裁が悪かったかも。
実家ではドレスはボロボロになって着られなくなるまで着崩していたから、そんな考えに思い至らなかった。育ちって大事だよな。
シオン様も私がいらないと言えばそれ以上は何も言わないから、気づけなかった。
普段は既製品のシンプルなドレスを着ているだけだし、今後は身なりにも気をつけないといけないかも。
そんなことを考えながら、私はされるがままにどんどん準備は進んでいく。
コルセットをこれでもかと絞められ、何枚もパニエを重ねる。
そして、新しいドレスに袖を通す。
「素敵……」
オフショルダーに、Aラインのデザインは、スタイルをよく見せてくれる。
広がったスカートの裾には細やかな刺繡があしらわれていてとても上品だ。
そして、シオン様の瞳と同じスカイブルー色の生地。
「もっと素敵になりますよ」
侍女は私をドレッサーの前に座らせると、メイクとヘアセットを同時に進めていく。
彼女たちの手際は素晴らしく、あっという間に仕上がった。
最後に先日買ってもらったネックレスを付けて完成だ。
「ティア様、とてもお綺麗です」
「シオン様もきっと喜ばれると思います」
鏡に映る自分が自分でないみたいだ。
しっかりと着飾るだけで随分と違うものなのだと感心する。
ここまで変わるなら、シオン様も着飾ってくれって言うよね。
これで、シオン様の妻として見劣りしない。
「綺麗にしていただいて、ありがとうございました」
「舞踏会、楽しんでくだいね」
侍女たちは満足そうに部屋を出ていった。
そしてすぐにドアがノックされる。
返事をすると、シオン様が入ってきた。
「シオン様、新しいドレスありがとうございます」
「うん。とてもよく似合ってる」
「こんなに胸元が開いたデザインは初めてなので少し恥ずかしいです」
「僕は、このデザインにして良かったと思ってるよ」
シオン様はそう言い、ネックレスにそっと触れた。
そうか、私が選んだこのネックレスに合わせてデザインを考えてくれたんだ。
「シオン様のおかげで、胸を張って舞踏会へ行けます」
感謝の意を込めてカーテシーをした。
シオン様は一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑み、手を差し出してくる。
「行こうか」
私たちは馬車に乗って、王宮へと向かった。
舞踏会の会場である大広間にはすでにたくさんの貴族たちが集まっていて、それぞれ談笑したり、挨拶を交わしている。
壇上には長い白ひげが特徴の国王を中心に王族が座っていて、その下には騎士たちが立っていて、警護をしていた。
何度来てもこの雰囲気はなれないな。緊張する。
「ティア、もっと肩の力を抜いて」
「はい……」
そんなに気を張らなくても、見知った人と軽く挨拶を交わし、国王の挨拶を聞き、パートナーとダンスを踊るだけだ。
わかってはいるけれど、雰囲気にのまれてしまう。
「見て、国王の口元。きっとあれはワインを飲んできているな」
「あ……おひげが少し赤いですね」
「国王は厳格そうに見えるけど、実はあがり症なんだよ。だから緊張を和らげるためにワインを飲むんだ。毎度国王のひげを確認するのが楽しみなんだよね」
「そんなことを楽しみにしてらしたなんて知りませんでした」
シオン様の話に思わず笑ってしまう。
国王様のひげなんて気にしたことなかったな。
言われたら、つい見てしまう。
いけない、と思いシオン様に顔を向けると、目が合った。
二人でクスリと笑い合う。
なんだか、さっきまでの緊張が嘘みたいに和らいできた。
こそでふと、会場の隅に立つクラウド様が目に入った。
少し見ていると、目が合った。けれどすぐに逸らし、会場の様子に集中している。
警備のお仕事大変そうだな。
クラウド様は今まで一度も舞踏会でダンスを踊ったことはないと聞いている。
女性からそれなりに人気はあるし、お声をかけられたりもしているそうだけど、仕事があるからと全てお断りしているのだ。騎士だからといって踊ってはいけないわけではない。
他の団員たちは仕事をしながら交代で婚約者や奥様たちと踊っているのに。
今も、可愛らしいご令嬢に声をかけられていたが、断っているようだった。
「やっぱり、シオン様以外とは踊りたくないのかしら……」
「ティア? どうかした?」
「あ、いえ……。クラウド様、お忙しそうだなと」
シオン様は少し顔を歪めたあと、クラウド様の方を見る。
「クラウドは仕事一筋人間だから、結婚する相手は大変だろうね」
またご令嬢に声をかけられる姿を見て、眉をひそめる。
嫉妬、しているのだろうか。
愛する人が他の人から言い寄られたら嫌だよね。
でもそれって、クラウド様も同じ?
愛するシオン様が私とダンスを踊る姿なんて見たくないのかも。
だからさっきもすぐに目を逸らしたんだ。
なんだか申し訳ない。
そうだ、いいことを思いついた。
この舞踏会、せっかくだからお二人に楽しんでもらおう。
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