勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子

文字の大きさ
24 / 28

第24話 決意

しおりを挟む
 翌日、シオン様が領地から帰ってきた。
 野菜をたくさん持って帰ってきてくれて、いっぱい食べようねと笑ってくれる。
 その笑顔をみて、胸が苦しくなった。

 嬉しい。でもこれ以上、役立たずの私に気を遣わせるわけにはいかない。
 お疲れの様子だったけれど、私は話を切り出すことにした。

 夜、ベッドに入る前にシオン様に話があると持ちかけた。
 並んでベッドに腰掛ける。
 シオン様は変わらずにこやかな顔で私を見る。
 ずっと、仮面を被っているような微笑みが好きではなかった。でも、この微笑みはシオン様の優しさなのだと今ならわかる。

「ティア、話しって?」
「シオン様、私は……きっともう、魔法を使うことができません。グラーツ家にいる理由がなくなったのです」
「どうしてそんなこと言うの? たとえ魔法が使えなくても、仕事ができなくても、ティアは僕の妻だよ。それが、ここにいる理由だよ」
「ですが、私がシオン様と結婚した理由は領地のためです。何もできない私に、妻である資格などありません」
「結婚した理由はそうだったかもしれない。でも、その役目が果たせなくなったからといって僕はティアを必要ないなんて思わないよ」

 シオン様は優しい。
 役に立たなくなったからといって追い出すようなことはしないとわかっている。
 ただこれは、私の弱さだ。

「私、自信がないんです。シオン様の妻でいる自信が……。領民たちにも顔向けできません」
「彼らはそんなこと気にしないよ。みんな、ティアの力じゃなくて、ティア自身のことが好きなんだから」
「私も、みんなのことが好きです……」

 俯く私の手を握るシオン様。
 覗き込んでくる表情は真剣だった。

「心配かけるといけないと思って言ってなかったんだけど、実はティアが魔法を使えなくなったのには原因があるんだ」
「どういうことですか?」
「ティアが刺されたときに使われた短剣は、魔道具だったんだよ。刺された者の魔力を奪う闇魔道具だよ」
「闇、魔道具……私の魔力は元に戻るのでしょうか」
「それがまだわからないんだ。いろいろ調べてはいるんだけど、有力な情報は掴めていない。黙っていてごめんね」

 元に戻る方法を探してはいるものの、私に期待させたり、変に不安にさせたりしないように黙っていたそうだ。
 薬師や魔道具師などに話を聞いて回ったりもしてくれたらしい。
 最近出かけることが多かったのは、そのためだったんだ。

「私のためにいろいろとしていただいてありがとうございます」

 魔道具のせいだなんて知らなかった。体調を崩したことで、魔力の巡りが変わって魔法が使えなくなったのだろうかと思っていた。
 もし、何かわかれば私の魔力は戻るのだろうか。

 そうすればまた、シオン様の妻として役に立つことができる?
 今まで通り、一緒にいることができる?

 ――何を、考えているんだろう。
 そんなもしもの話をしたって、どうしようもない。
 それに私は自分から別れを告げるって決めたじゃない。
 
 私が役立たずだからじゃない。たとえそれでもいいと言われても、私はもう決めたたんだ。

 シオン様の幸せを願って、離れることを。

「シオン様、私と離縁してください」
「ティア……どうして? 魔法が使えないことをそんなに気にしてるの?」
「違います。愛する人と一緒にいるべきだと思うからです」

 シオン様の表情が変わった。
 ずっと、優しく諭すように話していたのに、まるで色を失ったような瞳で私を見る。

「愛する人と……? それが、ティアの願いなの?」
「はい」

 シオン様が、愛するクラウド様と人生を共に歩むことが私の願いだ。

「そっか。そう、だよね。……わかった」

 悲しそうに受け入れるシオン様の声に、涙が溢れそうになるのを堪える。
 ここで泣いたらだめだ。
 私が告げた離縁なのだから、毅然とした態度でいなければ。

「明日、荷物をまとめて出て行きます。今日はもう、寝ましょう」

 シオン様は黙ったまま頷くとベッドに入った。
 私も隣に寝転ぶ。肩と肩が触れそうな距離。いつの間にかこの距離が当たり前になっていた。
 この温もりが幸せで安心した。それも、今日で最後。
 私から手放すのに、苦しくて寂しくて、朝が来なければいいなんて身勝手な考えが浮かぶ。

 シオン様は、どう思っているだろう。
 少しは寂しいと思ってくれているだろうか。
 クラウド様と幸せになって欲しいけれど、私のこともたまには思い出してくれるといいな。

 本当は離縁しても、肥料を作り続けてグラーツ領のためにずっと働くつもりだった。
 でも、もうそれさえできない。
 私たちはこれからなんの関係もなくなるんだ。

 私は、一人で生きていくんだ。

 目を閉じると、我慢していた雫が一粒流れ落ちていった。

 誰かを想い、涙を流す理由がわかった気がする。
 これが、愛するということなんだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『選ばれなかった令嬢は、世界の外で静かに微笑む』

ふわふわ
恋愛
婚約者エステランス・ショウシユウに一方的な婚約破棄を告げられ、 偽ヒロイン・エア・ソフィアの引き立て役として切り捨てられた令嬢 シャウ・エッセン。 「君はもう必要ない」 そう言われた瞬間、彼女は絶望しなかった。 ――なぜなら、その言葉は“自由”の始まりだったから。 王宮の表舞台から退き、誰にも選ばれない立場を自ら選んだシャウ。 だが皮肉なことに、彼女が去った後の世界は、少しずつ歪みを正し始める。 奇跡に頼らず、誰かを神格化せず、 一人に負担を押し付けない仕組みへ―― それは、彼女がかつて静かに築き、手放した「考え方」そのものだった。 元婚約者はようやく理解し、 偽ヒロインは役割を降り、 世界は「彼女がいなくても回る場所」へと変わっていく。 復讐も断罪もない。 あるのは、物語の中心から降りるという、最も静かな“ざまぁ”。 これは、 選ばれなかった令嬢が、 誰の期待にも縛られず、 名もなき日々を生きることを選ぶ物語。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

婚約破棄されて去ったら、私がいなくても世界は回り始めました

鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。聖女フロンこそが、真に王国を導く存在だ」 王太子アントナン・ドームにそう告げられ、 公爵令嬢エミー・マイセンは、王都を去った。 彼女が担ってきたのは、判断、調整、責任―― 国が回るために必要なすべて。 だが、それは「有能」ではなく、「依存」だった。 隣国へ渡ったエミーは、 一人で背負わない仕組みを選び、 名前が残らない判断の在り方を築いていく。 一方、彼女を失った王都は混乱し、 やがて気づく―― 必要だったのは彼女ではなく、 彼女が手放そうとしていた“仕組み”だったのだと。 偽聖女フロンの化けの皮が剥がれ、 王太子アントナンは、 「決めた後に立ち続ける重さ」と向き合い始める。 だが、もうエミーは戻らない。 これは、 捨てられた令嬢が復讐する物語ではない。 溺愛で救われる物語でもない。 「いなくても回る世界」を完成させた女性と、  彼女を必要としなくなった国の、  静かで誇り高い別れの物語。 英雄が消えても、世界は続いていく―― アルファポリス女子読者向け 〈静かな婚約破棄ざまぁ〉×〈大人の再生譚〉。

【完結】殿下は私を溺愛してくれますが、あなたの“真実の愛”の相手は私ではありません

Rohdea
恋愛
──私は“彼女”の身代わり。 彼が今も愛しているのは亡くなった元婚約者の王女様だけだから──…… 公爵令嬢のユディットは、王太子バーナードの婚約者。 しかし、それは殿下の婚約者だった隣国の王女が亡くなってしまい、 国内の令嬢の中から一番身分が高い……それだけの理由で新たに選ばれただけ。 バーナード殿下はユディットの事をいつも優しく、大切にしてくれる。 だけど、その度にユディットの心は苦しくなっていく。 こんな自分が彼の婚約者でいていいのか。 自分のような理由で互いの気持ちを無視して決められた婚約者は、 バーナードが再び心惹かれる“真実の愛”の相手を見つける邪魔になっているだけなのでは? そんな心揺れる日々の中、 二人の前に、亡くなった王女とそっくりの女性が現れる。 実は、王女は襲撃の日、こっそり逃がされていて実は生きている…… なんて噂もあって────

【完結】「お前を愛することはない」と言われましたが借金返済の為にクズな旦那様に嫁ぎました

華抹茶
恋愛
度重なる不運により領地が大打撃を受け、復興するも被害が大きすぎて家は多額の借金を作ってしまい没落寸前まで追い込まれた。そんな時その借金を肩代わりするために申し込まれた縁談を受けることに。 「私はお前を愛することはない。これは契約結婚だ」 「…かしこまりました」  初めての顔合わせの日、開口一番そう言われて私はニコラーク伯爵家へと嫁ぐことになった。  そしてわずか1週間後、結婚式なんて挙げることもなく籍だけを入れて、私―アメリア・リンジーは身一つで伯爵家へと移った。 ※なろうさんでも公開しています。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

処理中です...