元天才少女で現サボり魔の美少女は真面目な僕の爪の垢を狙っている

ちゃんきぃ

文字の大きさ
10 / 31
2.玉子焼きと散歩と掃除時間のトイレ

2.4

しおりを挟む
 屋上前の階段で式見とお昼ご飯を食べ終えた昼休み。早朝に無駄な話をしていたせいで、僕は一番重要な話を言いそびれていた。
「式見、今日の五時間は体育だ」
「知ってるわよ。それが何か?」
「体育は男女分かれてやるから、さすがにその時間は僕も見張れない。だから、ちゃんと出るようにと今のうちに言っておく」
「まるで私がいつも体育の授業をサボっているのかのような言い方ね」
 隣に座る式見は挑戦的な目で僕を見てくる。
 そう言われてしまうと、女子の体育は不可侵領域なので、式見を含めた女子が普段どんな風に授業を受けているか知る由もない。
 細身と肌の白さからスポーティなタイプではないと決めつけていたが、散歩を好むように案外体を動かすのは好きなのか……?
「じゃあ、体育は出席してるってこと?」
「よく考えてソーイチ。私は病弱な薄幸の美少女」
「薄幸かどうかは知らんが……まさか病弱を理由に見学させて貰ってるのか」
「ううん。普通にサボってる。他の授業と違いとかない」
「なんでちょっと惑わせたんだよ!?」
 僕のツッコミに式見はクスクス笑いで返す。
 今の反応で確信した。こいつの病弱設定はサボりの隠れ蓑にするための真っ赤な嘘だと。
 だが、式見は悪びれもせずに言い訳を始める。
「そもそも五時間目に体育を配置するのはよくないと思うわ。消化中の食後に運動なんてしたら、血を貯蓄しておく脾臓が収縮して、わき腹が痛くなってしまうんだから」
「あの痛みはそういう仕組みなのか」
「うん。それに食後は血糖値の上昇から眠気を引き起こしやすい。だから、眠気のある状態で授業を受けるのはかなり非効率的な行為だと思わない?」
「まぁ、それは確かに」
「つまり、食後の五時間目は教科に関わらず授業を受けるのが間違いというわけ」
「なるほ……いや、それらしいこと言って正当化しようとするな」
「らしいじゃなくて事実を言っているのに」
「事実でもサボっていい理由にはならない。あと、式見は僕と知り合う前だとゼリー飲料だったんだから、臓器や血糖値にあんまり影響ないんじゃ……」
「ゼリー飲料だって立派なご飯だから同じようになるんですぅ。そして、それを言ってしまったら、ソーイチのおかずを食べてしまった私には五時間目を合法的にサボる権利があるわ」
「あるわけないだろ。僕の厚意をサボりの口実に使うな」
 それに対して式見は新たな言い訳を模索し始めるが、僕は本題から遠ざかっていることに気付く。
 朝と同じパターンだ。僕もいちいち反応するから話が変な方向に行くんだぞ。
「話を戻すけど、次の時間は本当に頼んだぞ」
「えー、どうしようかなぁ。ソーイチが見張ってないなら出ても出なくても一緒だし」
「一緒じゃないが。出るのが普通なんだぞ」
「……じゃあ、こういうのはどう? 私が女子更衣室に行く直前までソーイチが見届ける。さすがに私も更衣室まで行ってから、やっぱりサボろうとは言いづらいわ。周りの目もあるし」
「……本当か?」
「ホントほんと。私、人生で嘘付いた回数は千回未満だから」
「基準がわかりづらいわ」
 僕が思い出せる限りだと、病弱設定の咳とこの前お花を摘みに行くと言ってサボりで、少なくとも二回は嘘を付いている。
 それはそれとして、式見が出した条件は――僕にとって非常に都合が悪い。
 体育の前には男子は教室、女子は同じ階にある更衣室で着替えをするのだが、当然ながらその時間の更衣室周辺は、男子が近寄っていいエリアではない。何か決まりがあるとかではなく、常識的に考えてのことだ。
 恐らく、式見は僕が付いて行きづらいとわかって言っている。絶賛僕の評価が下がっている中で、またあらぬ疑いをかけられるような行動はできれば避けたい。
 というか、こういう状況を考えると、僕に女子の式見の見張り役を任せるのは間違っていると改めて思う。
 それこそ、今峰のような真面目な女子に面倒を見るように頼んだ方が――いや、今峰は委員長として色々忙しいのに、式見一人分のリソースを割かせるのは勿体ないか。僕みたいな部活や委員会をやってない暇人に押し付けるのがちょうどいいのかもしれない。
「……しょうがない。五時間については式見の判断に任せる」
 だが、いくら任されているとはいえ、やっぱり女子更衣室前まで付いて行くことはできなかった。
 今の僕の評価はクラス内でちょっぴり下がっている程度だけど、のぞき疑惑までかけられてしまったら、クラスどころか校内全体で評価が下がってしまう。メンタル強度・弱の僕には耐えられない。
「ホントにいいの? 私のこと信頼してないのに?」
「そこ根に持ってるのか。まぁ、まだ信頼はしてるとは言えないけど……これから信じることはできる。元々、式見を信じて体育の授業に出席するよう言ったわけだし」
「うーん……今から信じるかぁ……」
 式見は顎に指を当てて考えるポーズを取る。僕の発言を吟味しているのだろう。
 本来なら式見が授業に出るのに僕を挟む必要は全くないんだけど――それが通用するならそもそもこんな話をしてないか。
「……わかった。ソーイチの信じる気持ちを受け取りましょう」
「あ、ありがとう」
「……よいしょっと」
 式見の発言に油断していた次の瞬間、式見はいきなり制服の裾に手をかけて、そのまま脱ごうとする。
「ちょ!? 何してんの!?」
 そう言いながらも脱ぎかけの式見に触れて止めるわけにもいかないので、僕はすぐに顔を横に逸らす。
 それと同時に数時間前のスリーサイズの話が頭によぎった。確か上からはちじゅ――って、何を考えているんだ僕は!? 今やるべきは式見が脱ぐのを止めること……なのか? そもそも今の流れから何で脱いでるの? 女子更衣室うんぬんで……信じることを信じて……それが――
「ソーイチ、なんで目を逸らしてるの?」
「な、なんでって! 式見が急に脱ぎだすから!」
「ふふふ。ソーイチ、目を開けてこっち向いて」
「なっ!?」
「私のことを信じるなら……ね?」
 そこで信じる話を持ち出すのは卑怯だと思いつつも、僕はゆっくりと目を開けながら式見の方を向く。すると――いつの間にか体操服に着替え終わった式見がいた。いや、これは……
「元から着てたのかよ!?」
「うん。私、体育がある日は最初から下に体操服を着てるの。どうしても体育に出なければいけない時用にね」
「なんじゃそりゃ……って、おい! だったら、女子更衣室に行く必要ないじゃないか!?」
「そうだけど? 私は着替えが必要だなんてひと言も言ってないし」
「こ、この――」
「あーあ。最初からソーイチが私のことを信じて任せてくれたらなー 出席する準備は万端だったのになー」
 直前まで疑いまくっていた僕の態度を責めるように式見は煽ってくる。
 僕は悪くないと思っているけど、今反論しても絶対に僕が悪いように言われるから、何を言っても無駄だろう。
「……悪かったよ。今度からはもう少し式見のこと信じる」
「おお。思ったよりも素直な反応。でも、いい心がけね」
「その代わり、僕の言うことも少しは聞いてくれよ」
「私、ソーイチが言ってることはわりと守ってる方だと思うんだけど」
「いや、昨日の五時間目は思いっきりサボったろうが」
「昨日の五時間に出席するように言われてないし、お花を摘みに行った時点で監視は外れてた」
「はいはい、わかりました。これから逐一言って見張るようにします」
「うん。ちゃんと見張ってないとダメだからね?」
 そう言った式見はなぜか嬉しそうな顔をしていた。僕を振り回してだいぶ楽しめたのはよくわかったけど――体育へ行く前に胃もたれしてしまいそうなやり取りだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。 数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。 トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。 俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...