産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生1学期

5月7日(金)曇り 岸本路子との交流

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 今日は部室へ行く日だ。GW中は歓迎会を除くと完全に部活動は停止していたから、学校に来るのと同じくらい久しぶりになる。でも、こちらは気軽に行けるからそれほどテンションは下がっていなかった。

 部室に入ると、いつも通り黒板前に森本先輩がいて……机に額をつけていた。

「おー ウーブくん久しぶりー」

「お久しぶりです。……ぐったりしてますけど大丈夫ですか?」

「いやー これは大丈夫じゃないよー 五月病だわー」

 どうやら五月病はかなり蔓延しているようだ。こればっかりは予防のしようがないから難しい。

「もー 森ちゃん部長しっかりー!」

 そんな森本先輩を目の前で鼓舞するのはソフィア先輩だ。たぶん、今までのミーティングにもいたけど、僕がきちんと認識してから部室で会うのは初めてになる。

「ソフィア先輩も来てたんですね」

「あっ、ウーブ君! 今、珍しくいると思ったでしょー!?」

 顔に出したつもりはないけど、そう見えたらしい。正解だ。

「ソフィア、ウーブ君がいない他の曜日なら来てたから!」

「そうなんですか?」

「うんっ! 森ちゃん部長が寂しくないようにねー」

 そういえば、僕はミーティングがある予定の日しか来てないけど、他の曜日も自由に部室へ来ても良かったことを思い出す。ということは、森本先輩はほとんど毎日部室へ来ているのか。

「別に寂しくないよー」

「本当は嬉しいくせに~」

 なんだかんだ仲の良さそうな二人を見ながら部室内の席に座ろうとすると、岸本さんが既に来て座っていた。

「産賀くん、ちょっといい?」

 そして、僕が座る前に呼びかけられたので、岸本さんの隣の席へ座った。わざわざ呼ばれたということはGW前に約束したあの話だろう。

「今日は聞きたいことがあるの。その……男子について」

「うん、大丈夫だよ。僕が答えられる範囲であれば」

「それじゃあ……男子の一人称についての質問。多くの男子は一人称が”俺”になると思うのだけれど、それがいつ頃からなるのかと思って」

「なるほど。僕の場合は――」

「あっ!?」

 喋ろうとした僕を岸本さんは急に遮る。そして、慌てて喋り始めた。

「ご、ごめんなさい! 別に産賀くんの話をいつもよく聞いていないわけではなくて、キャラクターとして”俺”の使う人そうでない人がどうしているのか考えていたらこれは質問しようという思考が先行してて、よく思い出してみれば産賀くんは……」

 てっきりわかった上で聞いているのかと思ったけど、そうではなかったらしい。前々から思っていたけど、岸本さんは少し天然なのかもしれない。

「気にしてないよ。それに僕も自分のこと”俺”って言ってた時期があったし」

「そ、そうなの?」

「うん。小学校低学年の時はよく覚えてないけど、高学年の頃は確実に”俺”って言ってたよ」

「どうして”俺”になったか覚えてる?」

「うーん……周りが”俺”って言ってたのと、後は漫画やアニメに出てくる主人公が”俺”って言ってたからだと思う」

 そして、恐らく周りの男子も何かしらの作品に影響されているのが大きな原因だと思う。今思い返しても少年というか小学生男子向け作品の主人公たちは、「いけっ! 俺のなんとかかんとか!」と言っていた覚えがある。

「そうか、男子は周りと見る作品に影響されるのか……じゃあ、どうして今は違うの?」

「それは……合わないと思ったからかな」

「合わない……?」

「ほら、”俺”って言うと強気な感じとか、リーダー気質な感じとかあるじゃない? それと比べると”僕”は控えめな感じや主張し過ぎない感じがあると思って。だから中学生になってから”僕”に変わった……というか変えたんだ」

 それは岸本さんが参考にして創り出そうとしている登場人物にも言えることだと思う。一人称は登場人物のイメージさせる要素として大きな影響力がある。
 ただ、現実的に考えると、一人称の選択肢はそれほど多くないから、その中で僕を僕らしく表せるのは”僕”だったというわけだ。

 だけど、岸本さんから返ってきた反応は意外なものだった。

「産賀くんって……控えめなの?」

「えっ? そう……だと思ってるけど」

「そうなんだ……ありがとう、かなり参考になった」

「これくらいなら全然。良かったら男子の友達からも聞いてみようか?」

「そうして貰えると嬉しいわ」

 そう言い終わった岸本さんはメモを取っていたノートを見ながら考えに耽っていった。こういう根本的なところから考えているところを見ると、かなりの気合いを感じる。
 
 一方の僕は……まだ何を題材にするかも決まっていない。主人公の一人称を考えるのはまだまだ先の話になりそうだ。
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