産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

文字の大きさ
169 / 942
1年生2学期

9月19日(日)晴れ 長い長い体育祭

しおりを挟む
 延期された体育祭本番。台風が通り過ぎた形跡はほんの少しだけ吹く風だけで、むしろのそれが秋の天気と相まってちょうど良い陽気になっていた。開会式前に会場準備をする必要があるので今日のスケジュールは全体的に30分程ズレることになる。
 それでもなるべく早く始めたいと考える先生や体育委員のやる気のおかげかテント設営やグラウンドの線引きなどはスムーズに進んでいった。

 その数分後、最初の行進が始まり、開会式の列が形成される。その途中で来賓席に目をやると、人数的には多くもなく少なくもなくという感じだった。急な予定変更だったけど、日曜日は比較的来やすい人も多いと思うから変更の影響は少なそうだ。
 実のところ、僕は両親にはあまり出番がないことを伝えていて、来るにしても部活対抗リレーや体育祭全体として見せ場になるダンスの時間帯にすべきだと言っておいた。もしかしたら他の親御さんもそういう考えの人が多いのかもしれない。

 午前中の種目が始まると、僕は応援席に根を張ることになった。というのもムカデ競争は午後からの種目で、部活対抗リレーは昼食前、フォークダンスは最後の種目になるから午前中は何もすることがないのである。

『続いての種目は100m走です』

「ま、松永くんが出るやつだ。が、がんばれー!」

 そんな中で僕は大倉くんと一緒に松永や本田くんを始めとするクラスのみんなの活躍を眺めていた。始まってみれば僕もみんなの競い合う姿を見て、喜んだり残念がったりしていたから先日松永に言われたように祭を楽しめている。

「ぽんちゃん、大山ちゃんの体操着姿って……どう?」

「……ノーコメントだ」

「もー むっつりなんだからー」

 ただ、女子の活躍については松永の発言を聞いてからしっかり見ていいかわからなくなってしまった。練習から男女一緒だったけど、激しく動く姿は見ていなかったし、普段の体育は別れて授業をしているからそんなに意識していなかった。でも、本番で動く姿を見ると、雑念が混じってしまう。僕は本田くんを責められない。

「おっ、りょーちゃん。あれ、清水さんじゃない?」

「……あっ、本当だ」

「しっぽ取りかー 清水さんって運動神経いい感じ?」

 そう聞かれても僕は清水先輩が歩く姿ばかり見てきたから運動できるかどうかはわからなかった。足腰は丈夫な気がするけど、それがしっぽ取りに活かされるのか。

「おー! 清水さん、凄いじゃん!」

 僕がそんなことを考える中、しっぽ取りが始まっていくと、清水先輩は素早く動いて一人、また一人としっぽ代わりの鉢巻を奪っていく。それは足の速さだけでなく、取り合う際の駆け引きも上手く立ち回っている感じがした。

「清水さんがいる方が勝った! 別チームだけど!」

 僕よりも松永が大きくリアクションを取っているけど、僕も普通に驚いていた。結果的に清水先輩はその試合で一番多くしっぽを獲得したのだ。チーム内でハイタッチを交わしていく清水先輩を見ると何だか不思議な気持ちになる。夏休みまでに色々話しているつもりだったけど、清水先輩について知らないことはまだまだあるらしい。



 午前中の種目が終わり、僕ら4組が属するチームが暫定2位となった昼食前。そのチーム戦には関係ない部活対抗リレーの時間がやって来た。メインである運動部対抗の前に僕たち文化部は走ることになるので、直前の種目が終わる前に集合する。

「えー それじゃあ先日決めた通り、ソフィア・あたし・シュート君・ウーブ君・汐里の順番で行きますが、いいですかー?」

 森本先輩の言葉に僕ら4人は頷く。作戦としてはこの中では一番早いソフィア先輩がリードして、そこから一番自信がないと言っていた森本先輩から遅い順から人が走っていくというものだ。その作戦上、僕は4番目に配置されてしまったけど文句は言えない。

 入場のために整列が始まると、文化部の代表が集まっていく。文芸部の他には吹奏楽部、美術部、茶道部、パソコン部、将棋部が参加していた。

「おお、良助じゃないか」

「し、清水先輩!?」

 その走者の中でに茶道部の代表として清水先輩がいた。並んでいる列で僕の隣ということは同じ4番目の走者になる。

「リレーに参加するとは知らなかった。お手柔らかに頼むよ」

「は、はい……」

 先ほどの活躍を見てしまうと、こちらの台詞と言いたいところだ。清水先輩は僕が走っているところを見たことがないだろうから早いと勘違いしているのかもしれないけど、恐らく僕は清水先輩より早く走れない。

 そんなことを考えているうちに、入場が始まりスタート地点へ向かって行く。第1走者が定位置に着くと、それぞれがバトン代わりになるものを掲げた。茶道部はお茶を立てるやつ(茶筅というらしい)、吹奏楽部は管楽器(たぶんサックス)というように大きさはかなりバラついていた。その中で文芸部は先人に習った辞書にしており、サイズ的にはバトンに近い感じだ。

『それでは文化部の皆さん、位置について。よーい……ドン!』

 第1走者が走り始めると、その中でソフィア先輩は一つ抜けていく。自信があるのは本当だったようで、リードを保ったまま第2走者の森本先輩に繋いだ。それから森本先輩はちょっとずつ追いつかれながらも3位で藤原先輩へ辞書を渡した。

 レーンに入ると、隣で清水先輩が準備体操を始める。一方の僕はそんな余裕はなく、そわそわしながら藤原先輩の様子を見ると、3位の位置は変わらないまま走っていた。現在1位の吹奏楽部にバトンが渡った後、もう一つの部活とほぼ同じタイミングで藤原先輩から僕へ辞書が渡される。

(って、2位は茶道部だったのか!?)

 茶筅が小さくて隣で走り始めた清水先輩を見てから僕は気付いた。そして、ほぼ同時のスタートだったはずなのに、清水先輩は僕から少しずつ距離を離し始める。明確に見えているわけじゃないけど、走るフォームは非常に綺麗に見えた。

(これ以上離されるわけには……!)

 いつの間にか謎の闘争心が沸き上がっていた僕はその後ろ姿を必死に追って行く。何とかそれ以上の距離を離されないために進んでいくと、いつの間にか最終走者が目の前に見えていた。

「水原先輩、お願いします!」

「まかせろ!」

 辞書を渡した僕はそのまま走り抜けて中央に捌けていく。こんなに息を切らして走ったのは久しぶりかもしれない。それくらい体へ疲れがどっとやって来た。

「良助、やるじゃないか」

 呼吸を整えている僕に清水先輩は話しかける。息は切れているけど、僕よりはまだ余裕がありそうな感じだ。

「いえ……ふー……清水先輩、めちゃくちゃ……早かったです……」

「ははっ。ちょうど良助と同じタイミングで走り出したから何だか負けられないと思ってな」

「な、なんでですか……?」

「うーん……なんとなく?」

 僕は思わず聞いてしまったけど、恐らく僕が必死に走ったのも同じ理由なのだろう。知り合いだからこそなんとなく無様な姿を見せるのが嫌だった。先行する清水先輩の後ろ姿を見ると、自然とそう思ってしまったのだ。

『吹奏楽部が今ゴール!』

 僕がようやく息が整った頃に文化部の部活対抗リレーは決着がついた。結果は第2走者以降は順位は固定されて、文芸部は3位に終わった。順位としてはよく走れた方だけど、体力がありそうな吹奏楽部はともかく、茶道部が意外な精鋭揃いだったのは多くの人が驚いているに違いない。

「ウーブくん、すごかったねー!」

「ああ。産賀のおかげで大きく離されずに済んだ」

「そ、それほどでも……」

「これは来年もウーブ君に走って貰わないとなー」

「こら、沙良。今は来年の話じゃないだろう」

 でも、それ以上に驚いたのは僕の走りが評価されていたことだ。僕としては夢中になっていたので早さを感じる暇はなかったけど、貢献できていたのなら良かったと言える。



 運動部の部活対抗リレーでテニス部の走者として参加した松永の活躍を見届けた後、昼食を取り終わると、体育祭は午後の種目へ移る。

 まずは応援団とダンス履修組が披露する時間だ。体育祭の中でも一番華やかさがある演目で、息の合ったパフォーマンスが繰り広げられた。恐らく、その中には大山さんや栗原さんが混じっているのだろうけど、目まぐるしく変わるフォーメーションに目が追い付かなかった。

 そして、僕がクラスで唯一出場するムカデ競争では……

「かけ声合わせるぞー」

 先頭の指示に従いながらテンポよく進んでいった。足の早さや体力が必要ない代わりにムカデ競争は上手く合わせる必要がある。それほど難しいことではないけれど、4組の男子連合は息が合っていたのか、2位を獲ることができた。ただ、これに関しては自分の活躍というよりは先頭で指示したり、大きな声を出してくれたり人たちのおかげだと思う。

 それから体育祭の定番である玉入れや綱引き、盛り上がり的には一番である男女混合スウェーデンリレーやチーム対抗400mリレーなど次々と種目が終わっていく。

『次の種目が最後の種目になります。全校生徒によるフォークダンスをお楽しみください』

 そう、残すは色んな意味で問題のフォークダンスだ。男女別々の出発点に別れて待機を始めてからグラウンドへ入場していくと、今回も二回の練習では会わなかった女子の前に到着する。でも、その女子はちゃんと手を出してくれたので、僕は遠慮しがちに手を握りながら踊り始める。

 うろ覚えのステップを踏みながら動きを繰り返しているけど、対面する女子はどの子も何とも言えない表情だった。よく知らない男子と踊らされるとそうなる気持ちはわかる。それでも来賓の前だからきちんと踊らないといけない。やっぱりこの時間は何のために踊っているんだろう。そんな疑問が出ている時だった。

(あっ……)

 僕の目の前に岸本さんが突然現れる。さっきまで踊っていたのは1組の女子と違う……と言えるほど他の女子の顔をよく覚えてないので、岸本さんが見えるまで僕は心をここにあらずだったみたいだ。

 すると、岸本さんが手を差し出してくれたので、僕はその手を取った。

「産賀くん、部活対抗リレーお疲れ様」

「えっ? あ、ありがとう」

「あっ、ごめん……今はあまり喋らない方がいいわよね」

「そ、そうだね。それじゃあ、踊ろうか」

 何故かぎこちない会話を交わしながら僕は今日一番慎重になりながらステップを踏んでいく。さっきのリレーと同じように知り合いの前だと無様な姿は見せられない。上手く踊れる自信はないけど、岸本さんの迷惑にならないように踊り切った。

 そして、その順番を最後に曲は止まる。通しでちゃんと踊り続けると結構長く感じたけど、最後の最後でそれらしい踊りができた気がする。

「産賀くん、改めてお疲れ様」

「岸本さんも。玉入れの時活躍してたね」

「み、見てくれてたの!?」

「えっと……見間違えじゃなければ。途中で球を渡す方に切り替えて……」

「う、うん。わたしで間違いないわ……」

「良かった。あっ、そろそろ……」

「産賀くん……良かったらまたLINEや部活で今日のことを話しましょう」

 僕はそれに頷くと閉会式の列形成に向かって行く。感想を言われるほ活躍してないと思っているけど、体育祭全体の感想なら話せることは色々ある。

 最終的なチーム順位は2位と結果だけ見れば僕の関わった部分で1位になることはできなかったけど、少ない出場種目の中でも妙に満足感はあった。それはつまり、高校の体育祭もなんだかんだ始まって終われば悪くなかったと思っているし、今回に限って言えば楽しむ気持ちを持って挑んだから楽しめたと言える。

 こうして、長い長いと思っていた体育祭は終了した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、寺内勇人は高校三年生。妹の茜は高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...