産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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1年生2学期

10月13日(水)曇り 清水夢愛の夢探しその3

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 水曜日。文化祭の準備に時間を取られていた気がしていたけど、その期間も授業はしっかり進んでいて、来週に2学期の中間テストが迫っていた。そろそろ体育祭・文化祭と続いた浮かれた空気を切り替えなければいけない時期だ。

 でも、僕の周りでは切り替えられない話題が一つあった。

「良ちゃんさー ミスコン2位の人と知り合いなんでしょ?」

「連絡先とか知ってる感じ?」

 同じクラスの男子の中で今盛り上がっている話題。それは二日目の文化祭で行われたミスコンだ。それどころじゃなかった僕は清水先輩からのメッセージでその結果を知ることになった。

「知ってるけど、教えられないよ。個人情報だし」

「だよなー じゃあ、今度紹介してくれたら……」

「はい、そこまで~! 産賀くん困ってるじゃないの」

 二人の男子を止めてくれたのは野島さんだった。男子が引き下がったのを見届けると、僕の方に近づいてくる。

「いやぁ、思ったよりも話題になってるねぇ、清水先輩」

「う、うん。というか、何で僕が知り合いだってバレてるんだろう……」

「うーん……バレてるのは今に始まった話じゃないと思うよ? 元から一緒にいるの見かけたって言ってた人もいるし……何なら私もそういうこと言ってた一人だし」

 野島さんは申し訳なさそうな顔をする。つまり、今助けてくれたのはそれもあってのことなのだろう。

「で、でも、それはミスコン出る前の話だからね? 本当だからね!?」

「別に疑ってないから大丈夫」

「良かった~ 私も知り合いの男子から色々聞かれてるからお互い気を付けようね!」

 何を気を付ければいいかわからないけど、僕は頷いておく。たとえどんなに仲のいい知り合いでも清水先輩とほとんど繋がりがない人に連絡先を教えたり、紹介したりすることはない。そもそも僕がそんな権利を持っていないのだ。



 放課後。僕が自転車を押しながら校門に着くと、数人に囲まれる人影が見えた。

「清水さん、今から帰り? 良かったら一緒に行かない?」

「これからカラオケなんだよねー 清水さんって何歌うの?」

 それは同級生に囲まれた清水先輩だった。それがミスコンの影響力なのか、清水先輩の雰囲気が変化したおかげなのかはわからないけど、今まで見た事がない慕われ方だ。

「いや、私はこれから……あっ、良す――」

 嫌な予感がした僕はすぐに自転車に跨ってそのまま校門を抜ける。今日は連絡を貰っていないから完全に関係ないと思っていたし、この場で僕が捕まると話がややこしくなってしまう。そう考えて思わず逃げだしてしまった。

 それから5分ほど走った後、僕は一時停止する。突然走り出しから少し息が切れたのもあったけど、今の自分の行動が清水先輩に対して悪い事をしてしまったと思って思わず足を止めてしまったのだ。恐らく清水先輩は困っていて、ちょうどいいタイミングで僕を見つけたのだろうに、クラスで言われたことがよぎって自分のことを優先してしまった。

 お詫びのメッセージを入れておこう……と僕はスマホを取り出す。

「……なにやってるんだ?」

「それは今から清水先輩にお詫びを……って、うわぁ!?」

 スマホを覗き込もうとする清水先輩を見て僕は驚く。

「なんで追い付いてるんですか!?」

「ふー……それは全力で……はぁー……走ったから……だ」

「ああ、喋らなくていいです! 息を整えてください!」

 体育祭でも息切れしてなかったのに、今の清水先輩は肩で息をしていた。停止してから少し間があったとはいえ、自転車に追いつけるほど走れるなんて普通は思わない。

「……よし、もう大丈夫」

「良かったです……あの、さっきはすみません」

「ん? 何が?」

「いや、僕のこと呼んでたのに逃げてしまって……」

「なんだ、聞こえてたのか。連絡せずに待ってたから気付いてないかと思った」

「えっ? 僕に用があったんですか……?」

「ほら、ミスコンの話をまだしてなかっただろう」

 そんなことのために僕を追ってきたのかと思ってしまうけど、その答えに僕は少し安心してしまった。

 でも、清水先輩の方は訝しげな表情をしている。

「それで……気付いてたのになんで逃げたんだ?」

「そ、それはその……他の人がいたので」

「良助はそんなにシャイだったのか」

「いや、シャイではあるんですけど、そういうことじゃないというか……」

「どういうこと?」

 清水先輩は純粋な目で聞いてくる。それを説明したいけど、上手く説明できないのが僕の現状だ。

「先に話しかけていた人を優先すべきと思ったんです。それに清水先輩は結構有名人になりましたし……」

「うん? 私って有名人なのか?」

「えっ? だって、清水先輩は元々噂されてる、ミスコンで2位も取ったじゃないですか」

「噂って、あれは一部の話だろう。それに1位ならまだしも2位は大したことない。というか、良助は実際見てないんだからどんな感じがわかってないんじゃないのか?」

「確かにそうですけど……」

「……ははん。わかったぞ」

 清水先輩は何か閃いたようだけど、その顔はどちらかというと悪いことを考えているように見えた。少しだけ間を貯めてから清水先輩が言ったのは……

「良助は私が他の人ばかり構いそうでヤキモチ焼いてるんだな?」

「ぶっ!? な、なんでそうなるんですか!?」

「私が有名人で不都合になるならそういうことだろう。そして、今はわざと逃げて私をここまで追いかけさせたというわけだ」

「用があるって言ったのは清水先輩の方じゃないですかぁ!」

「それも作戦のうちだったというわけだな」

「そ、そんなわけ……」

「まぁ、冗談だけどな」

 この日、僕は初めて清水先輩を非難の目で見てしまった。元はいえば僕が悪いのだけど、清水先輩に言われてしまうと色々タチが悪い。変にドキドキさせられてしまうという意味で。

「小織のようにはいかないかー」

「桜庭先輩の真似だったんですか……」

「まぁ、それはともかくだ。私が学校のミスコンで2位を取ったくらいで何か変わることはない。正直、何を審査されていたかさっぱりわからなかったし、こういうのは私のやりたいことではないと確信した。ちょうどそのことを話そうと思ってたんだ」

「な、なるほど……」

「だが、おかげで面白いものが見れたよ。良助も可愛いところがあるじゃないか」

「勘弁してください」

「はは。でもな、良助。確かにここ数日は色んな人が話しかけてくれるし、それは悪い気はしない。ただ、それは恐らく一過性のものだと思うよ。私の性格と同じようにいきなり興味がわいて、すぐに冷めてしまう。もしも私が気に入るとすればこの話題が過ぎた後でもう一度私に話しかけてくれる人だ」

 清水先輩はそう言うと、僕のことをじっと見つめる。

「だから、話したい人はちゃんと選んでるつもりだ。時には気遣いや遠慮も覚える必要はあるのだろうが、あいにく私はこういう性格だからな」

 澄ました顔でそんなことを言える清水先輩はずるいと思った。僕は違うと言い張ってしまったけど、恐らく清水先輩に指摘されたことは全然間違ってはいない。

 以前に僕は清水先輩を独占したいわけじゃないと書き残していたけど、それは僕が清水先輩から近い立場にいたからそう言い切れたんだと思う。それが少し離れるかもしれないと思ったからミスコンのことで上手く言えない気持ちが生じた。
 だけど、僕は気持ちとは真逆に近寄らない選択を取った。それが清水先輩にとって良いことだと勝手に思いながら、自分の価値を下げたのだ。
 
 つまり、僕は清水先輩のことが……好きなんだと思う。ただ、それは恋愛じゃなくて、一人の先輩かつ友人として興味を惹かれて、なるべく傍で見ていたい人なんだ。

「……わかりました。これからは僕も少しくらい気遣いや遠慮しないようにしてみたいと思います……清水先輩のことについては」

「うむ。それでいい。そしたら……そう、ミスコンの話だ。私がなぜ2位に終わったのかというあらすじを……」

「その前に! 早速遠慮しないで遮るんですけど……清水先輩に相談したいことがあります」

「えっ。良助が私に……? いや、聞こう。私で良ければ」

 それに気付いた僕は文化祭で残してしまったもう一つのわだかまりを清水先輩に打ち明ける。清水先輩とは立ち位置は違うけど、僕がこのまま距離を置き続けると、取り返しがつかなくなってしまうかもしれない。
 でも、それは嫌だ。だって、僕はまだ彼女の感想を聞いていないし、僕の感想も伝えていない。
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