産賀良助の普変なる日常

ちゃんきぃ

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2年生1学期

4月6日(水)晴れ 勧誘は難しい

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 入学式の水曜日。自分が入学した時はこの式がどんな風に見えていたのだろうかと思い出すために日記を遡ってみたけど、入学式のことは一切書かれていなかった。
 それについて自分で言い訳するけど、当日は新しい環境になることやクラスに知り合いがいるかどうかなど、式よりも意識してしまうことが多かったせいだと思う。

 だから、在校生の席で冷静に見られる今年こそ入学式の様子を記しておきたい……ところだったけど、僕にとって今日のメインは入学式が終わった後になる。

「3年生の皆さんも集まって頂きありがとうございます。事前にお知らせした通り、それぞれの位置で30分ほど配布して貰って、その後はもう一度ここに集まって次の動きを決めたいと思います」

 文芸部の部室で部長の岸本さんがそう呼びかける。
 とうとう新入生を勧誘する本番がやって来てしまった。今日から一週間くらいは部室も常に開いて待ち構えることになるけど、まずは初日で文芸部の存在を知って貰わなければならない。

 そんな中、僕と同じく中庭でチラシを配ることになっている水原先輩が話しかけてきた。

「新入生の中には同性じゃないとチラシを受け取りづらいという子もいる。だから、産賀はなるべく目についた男子へ配るようにしてくれ」

「わかりました」

「まぁ、私としては意欲がある子が入ってくれればそれでいいんだが、男子部員もちょっとは増えた方がいいだろうしな」

 水原先輩の言う通り、現在の文芸部の男子は僕と藤原先輩だけになっている。本当は3年生(正確に言うと2年生の時)にも男子がいたけど、中学の時の僕と同じように幽霊部員となって蒸発してしまった。
 そんな状況であるからこそ、今後も男子が入りやすい環境を作るには今年1人でも男子を確保したいところだ。

 その意気込みを抱きながら入学式後のホームルームを終えた新入生を中庭で待ち始める。

「サッカー部はマネージャーも募集中です!」

「男女共に人気のテニス部で一緒に楽しい青春を過ごしませんかー!」

「吹奏楽部は初心者も歓迎します! 楽器に興味がある人はこの春からぜひ!」

 しかし、他の部活も大集合した中庭は僕が想像していたよりも凄まじい場所になっていた。
 呼びかける声が飛び交っているから、普段の声出ししている部活の方がよく声が通るし、道具がある部活ではパフォーマンスを行って目を引いていた。

「こんにちは、文芸部です! よければチラシだけでも……」

「あっ、大丈夫っす」

 その中で特にパフォーマンスができず、人数的にもそれほど多くない文芸部は埋もれてしまうし、チラシを差し出したとしても受け取ってくれないことの方が多かった。

 それでも諦めずに居座ること30分後。部活見学に行った人以外は恐らく帰宅してしまった中庭には、チラシを余らせてしまった僕がいた。

「すみません……全然配れませんでした」

「気にしなくてもいい。あれだけたくさんの部活があれば受け取るのも面倒だと思うのも当然だ。とりあえず下駄箱前と合流しよう」

 敗北感を味わいながらそのまま集合場所へ戻ると、先輩方は元気そうだったけど、露骨に落ち込んでいる岸本さんを見て状況を察する。

「わたしの声……かき消されてました。本当にすみません……」

「いやいや、全部配れるわけじゃないから全然大丈夫! ソフィアが話した限りだと見学に行きたいって子もいたし……後日行くって話になっちゃったけど」

「……沙良からの報告。今のところ部室へ直接来た新入生はいないらしい」

「そ、そうですか……」

「そんなに落ち込まないでも大丈夫だ。入学式からすぐに部活を決めようとする方が珍しいから、明日以降に来てくれる可能性は全然ある」

 岸本さんに対してソフィア先輩と水原先輩はポジティブな言葉をかけ続ける。

 自分の時を思い出してもすぐに部活を決めることはなかったから、先輩方の言うことは正しいと思う。
 でも、他の部活の動きを見てしまうと、もっとやり方があったのかもしれないと思ってしまうし、新しく部長と副部長になった僕と岸本さんは責任も感じていた。

 そんな僕の様子を察してくれたのか、藤原先輩が近づいて声をかけてくれる。

「……産賀くん」

「藤原先輩。こっちはチラシ貰ってくれる打診は少なかったです……」

「こっちも……あんまり配れなかった。でも……1人、オレに今後の活動のこと……聞いてくる子がいた」

「本当ですか!?」

「……確証はないけど……興味はある風だった。来てくれると……いいな」

 それから部室に戻ったけど、この日はそのまま解散することになった。
 
 手応えのないまま明日以降も部室を開くことになるのは不安しかない。
 でも、全く配れなかったわけではないから、一人でも興味を持ってくれた人がいると信じておこう。
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