上 下
5 / 201

第1話:苦手な優等生(5)

しおりを挟む
おれの目の前にいる西森夏菜は
見た目は、
どこにでもいるような普通の女子高校生だ。

ただ、今時のおしゃれ女子みたいに
化粧をしたり、
かわいい髪型に挑戦したり等の
飾り気は全くない。

制服も着崩すことなく、
校則をきちんと守った清楚な制服姿が
西森のスタイルだ。

キリッとした表情が
真面目さと知的さを物語っていて、
男側からすると、
隙がなくて近寄りがたい女子の部類に入る。

さらに、
いつも無表情か怒った顔しか見せてないので、
気軽に声さえかけられない。

でも・・・

西森もニコッと笑えば、
年相応のかわいい女の子になると思うのだが・・・。

いやいや、
今はそんなことを考えている場合ではなく、
お説教タイムである。

「ええと・・・、西森、 
長くなる話なら職員室で聞くけど・・・」

「いえ、 
そんなにお時間は取らせませんから 」

「は・・・はい・・・」

女子高生に威圧されるおれ。 

「授業のことなんですけど、 
生徒達から邪魔されても スムーズに進めてくれませんか? 
いちいち中断していたら、 
どんどん遅れが生じてきて 
こっちに迷惑がかかっているんです。」 

はい、おっしゃる通りです・・・。 

「文系だからって、 
甘く見ないでくださいよ。 
大学受験には必要な教科なんですから」 

西森にズバズバと 
自分の「悪い点」を指摘され、心がズキズキ痛む。 

そして、ただただ謝るしかなかった。 

「ご・・・ごめん・・・ 」

西森はもう一度キッとおれをにらみつけて、 
「以後、気をつけてくださいね!」 
と強い口調で言うと、 
ツカツカと歩いて教室に戻っていった。 

こ・・・怖かった・・・。 

先生なのに、 
生徒にこてんぱんに叩き潰されるとは 
ほんと情けない。 

でも、西森の言う通り 
授業も少し遅れているし、 
生徒達に迷惑をかけていることも確かだ。 

がっくりと肩を落としていると、 
「あ、高山ちゃん! 

夏菜にお説教されていたの?」 
と、クラスの女子たちが 
わらわらとおれの周りに集まりだした。 

「別に説教されていたわけじゃねーよ」 

「じゃあ何を話していたの?」 

「授業をスムーズにやってくれないか、 
っていうお願いだ」 

「それ、説教じゃん」 

ま、確かに説教だったが・・・。 

「でも、ま、 
夏菜は勉強に必死だからね、 
私達と違って。」 

一人の女子が何気につぶやいた。 

確かに、西森の勉強にかける熱意は 
他の生徒以上のものがあることには気づいていたが、 
どういう背景が隠されているかまでは 
おれは知らなかった。 
しおりを挟む

処理中です...