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『失くしたリボン』3

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「それは面白いかもな!」



本日、昼休みになってやっとこさ通常会話のグレードアップが成されました!やったぜ!

登校時に会えた事で、会話が次の段階にいけました!ここからですぜ!ここから、会う回数が増えてくるので、スチルが取りやすくなると思います。



そんなに仲良しでなくても、取れるスチルはあるだろうけど、今はイベントとしてのスチル回収が必須!まだ『失くしたリボン』のスチル回収は至ってないもんね。


あれからとりあえずリボンを返してくれたキャラには出会ってないけど、特に何か悪い出来事とかには合ってないので、呪いとかはかけられていない模様。

ってか、暗殺科は実用的系だから、呪いとかは無理じゃね?薬学科なら、毒を仕込むとかありそうだけど、暗殺科が災い降り注ぐってのはどうやるんだろうか?



…アレか。罠か。



普通の淑女科のリコーリアには、罠を回避するとかそんなスキルないからね。罠ならば多分余裕で引っ掛かるぞ。
それに、リュウの攻略の為に今の女神様は容赦ないからね。チカヅクナって言われても、どんどん行っちゃうよ。でないとイベント攻略出来ないし、多分女神様はドキドキスチルを観る為にも躍起になってるだろうよ。


そして本日、2回目の。

「それは面白いかもな!」を、いただきました!


会話自体は他愛もないものだし(今日、こんな事があったんですよ程度)ゲームだからか、そのセリフが揺らがないのが面白いなと思う。
実際にいる人間なら、「何度も同じ会話振ってきて、コイツ頭大丈夫か?」とか思うだろう。こういうとこはゲームって楽だな(笑)



ともかく、2回目が貰えたということは、本日の放課後、イベントスチルが貰えることが濃厚になってきたぞ!さあ、本日から最後のダンスレッスンを終了させて、今の放課後の定番。


暗殺科へいくぞー!




ーーーーー



…ってなわけで、放課後になりました。


何がどうなるかわからない、でもとりあえず暗殺科に来てはみたけど、特に何もなし。運動場へ行っても何もなかったので、中庭に戻る。距離があるから大変だ。大分慣れて来たけれども、女神様もちょっとこの距離歩いてみ? リコーリアの年齢が16歳だから許される距離だからね? 48歳の運動してなかった私では許されない距離だから。

まあとりあえず、リュウ先輩の行きそうな所をとにかくうろつきます。


おかしいな、会話のレベルが上がったんだから、出会う確率も上がってるはず。こんなに会えないのはむしろ不思議だ。なんて思いながらも、中庭をうろついてみる。

水色の花が咲く花壇に差し掛かった所で、リュウ先輩が現れた。

が、まだこちらには気付いていない様子。けれどもとりとめて何か用事があるわけでもなさそうだ。多分用もなく適当に歩いてるだけだろう。



これまでのリュウ先輩の事を鑑みても、深い思慮のあるタイプには見えない。どちらかと言うと直情的なタイプではなかろうか。まぁいわゆる脳筋系かなと、今の段階ではそう思う。

女神様のキャラクターのこれまでを見てると、繊細なキャラはいないんではないかと、割と簡単に推測できるからね。


うお?そんな事を思ってたら体が勝手にリュウ先輩のところへ行くぞ?


「リュウ先輩!良かった、探していたんです!」

「…?…ああ、淑女科の白いのか。何か用か?」





淑女科の白いの…。



雑な覚え方だな。


…アレ?そういやー。

名前、名乗ってなかったっけ?何という初歩的ミス!では、あらためて。



「淑女科のリコーリアです。あの、先日はリボンの事でご迷惑をおかけいたしました。後輩さんが届けに来てくれて、こうして母のリボンが戻ってきました。ありがとうございました!」


ぺこんと頭を下げるリコーリアを、じっと見つめるリュウ先輩。



すると徐ろに。

するりと私のリボンを解いてしまった。

「え?リュウ先輩?」

一瞬、胸がドキリとするも、リュウは私の髪をそっと掬い上げて、慣れた手つきで三つ編みを両耳サイドに作ったかと思うと。

交差させて、私のリボンで結んでくれたのだ。

鼻の下に。

そう、鼻掛けタイプのほっかむりのように。



は?



リコーリアの中の私の表情が一気に無くなる。リコーリアはどうだかわからんけど。


そして次の瞬間。



「ぶっ!はははははははっ!!ぶひゃははははは!!」


とってもいい笑い声が、真正面から聞こえます。


「………え?………あの、リュウ先輩?コレは、一体何を……?」



さすがのリコーリアですらも、この事態に固まっているようだ。そりゃそうだ。フツーの乙女ゲームでもねぇよ! 攻略対象がヒロインにさあ! 髪の毛を掬い上げて結ってあげるまではいいよ?だけど、その髪を。女生徒の鼻の下に?昔のドロボウスタイルなほっかむりにして?大爆笑するか⁈


ねえ、コレ確か乙女ゲームだよね?


何だコレ。

いーみーがーわーかーらーん!!



「あ、ワリぃ。俺、故郷に歳の離れた妹がいてさ。その妹によくこうやって色々髪を結ってたんだよな。お前って妹に雰囲気が似てるから、ついな(笑)ぶっ…すげぇ似合ってんぜ?ぷははは!」


何だこいつ。淑女科の私に殴り殺される不名誉を貰いたいのか?
この乙女ゲームさ、ヒロインと攻略対象達を本気で恋愛に持ち込む気があるのか?
いやもう女神湯沸かし器よ。お前が言ってた「真実の愛」とやらは、本気でこのゲームで私に理解されると思っているのか?


女神湯沸かしが、私にこの話を持ちかけて来た瞬間から、女神の願い?望み?は頓挫するのは私の中では決定事項だったんだけど(それはまあ、まだこのお話が続くので、ネタバラシはしないでおきますです)それでもどんな風に私に恋愛させるのかなとか、期待がなかったかといえば、嘘になります。だって、もしかしたらあるかもしれないじゃん?私の知らないドキドキを知って、ゲームだけども恋愛的なのにならないとも言えないじゃん?なのに、これまでの出逢いですら、恋愛とかそんなものにならないシチュエーションばかりじゃん?




……。


そうだよね。なんだかそれはおかしいぞ?



「も、もう!私は妹さんじゃないから!こんな風に私で遊ばないで下さい、先輩!」


リコーリアがぷくりと頬を膨らませて軽く怒って見せる。けれども、リュウ先輩は

「ワリィワリィ(笑)」

と、軽口だ。そして。



ー スチル「からかい好きの先輩の笑顔」 ー
ー イベント「失くしたリボン」完了しました ー



と、イベント終了の天の声が入りました。


その後はキリーちゃんの所へ行き、リュウ先輩との距離が恋愛寄りよりは、友情寄り(恋愛度が高くなれば、攻略対象の名前は左上にあるリコーリアに寄っていくが、友情度が高い場合は、真上に名前が上がっていくのだ)なのを確認してから部屋に戻り。





「女神様!ちょっといいですかー!」



私の方から声を掛けた。

《はい、なんですか?リコさん。》

「本日のリュウ先輩とのスチルを見せてもらえませんか?」

《え?ええ、構いませんけれども。ああ!本日の素敵なスチルをリコさんも堪能されたいのですね!わかりました、いいですよ!さ、こちらが本日手に入ったスチルです!!》




「…………。」



そこには。


ほっかむりされているリコーリアの顔などほとんど見えない角度で、リュウ先輩のとってもいいキラキラ笑顔だけが大きく映っているスチル。


《どうですか⁈ とっても素敵なシーンだと思いませんか⁈ コレが少し心を砕いて来た相手に対する本来の彼の笑顔なのです!!もう、この笑顔のスチルを手に入れた時は、思わず笑顔の素晴らしさに喉の奥でひゅって鳴りましたよ!!》


頭の上からのキャッキャした声が聞こえているけれど、コレで確信したよ。




この乙女ゲームは、愛の女神湯沸かし器の作った攻略対象の為のゲームであって、ヒロインの為のゲームでは決してない事が…。

散々言ってた真実の愛(今この段階では、最も虚しい言葉だな…)とやらを私に教えたいとか何とか言っといて、1番したかったのは。


自分で作った乙女ゲームを、自分でプレイしたかっただけってことかーーーーっ!!



本・末・転・倒 !!



コレからもこの乙女ゲームに、私は付き合わなきゃならんのかー!! 私の為だと散々言っておきながら、私の扱いなどまるでどうでもいいこの世界にーーーーっ!!


そうして、悲しいかな。


生前からのポジティブさで、私はそのまま不貞寝する事で色々な気持ちを切り替える事にしましたとさ。



さっさと終わらせてしまおう。女神湯沸かし器が満足すりゃあ、三途の川を渡れるもんね。

じゃあ皆様、おやすみなさい。



………


……………。



くっ…殺せ!!




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