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『 レディースエーンジェントルミェ~ン!!! さあ、とうとうこの日がやってまいりました!! 暗殺科の若き実力者、リュウ・シュヴァルツが、淑女科一年の平民リコーリアに改めて告白するという一大イベント!! さぁ、見届けましょう!!この二人の恋の行方を!!』


暗殺科にもお調子者がいるらしい。ノリノリで司会しとる奴がおる。



しかも、花道のように。

告白する場所まで赤いカーペットまで敷かれてやんの。意外とみんな、お祭り好きなんかな?この前まで、いやそれこそついさっきまで、散々ぱら中傷的なヒソヒソしてたくせに調子のいいこった。



私が、いえまだリコーリアですね。躊躇いもなくカーペットの上を歩いて噴水の前へ。そこには既に、リュウ先輩が優しい笑顔で迎えてくれます。

周りの歓声が囃し立てる中、よく見ると他の攻略対象達も居たりする。しかも割とリュウ先輩に近い位置だ。どうやらこの3人は女神様設定で友人という事らしい。サクラ王子は頑張れよ、と。コウ先輩はお前にこんな日が来るとはな、と静かに微笑んでいらっしゃいます。ふぁっハハハハァ。



「リコーリア」



リュウ先輩が私に声をかけると、周りの音が一瞬で消え去りました。ここに集まった全ての人が、これから起こるイベントを聞き漏らすまいと固唾を飲んでいるのがわかります。そして、声をかけられた瞬間。リコーリアではなく、私、佐藤リコに意識と肉体が完全に交代しました。



「…俺は、これまでこんなにも俺の事を理解し、そして受け入れてくれる存在と出逢った事はなかった。俺の全てを受け入れてくれるリコーリア。この俺の想いを受け止めてほしい。リコーリア、愛している。学園卒業後には、どうか俺と結婚してほしい。」


そうして、私に。

リコーリアに真っ赤な薔薇の花束を膝をついて捧げるリュウ先輩。



リュウ先輩の言葉に、周りにいる女生徒からはキャアアアアア!!♡

という、歓声が上がります。


まあリュウ先輩位のイケメンから、こんな風に求婚されたらば、まあフツーの年頃の…ましてや、乙女ゲームの。中世設定な女子からしたらば。


憧れとかそんなん、めったくそあるよね?まあ、私も自分の漫画の中でそんなん描いた事あるわー。


それだけではなく。

生前の私、佐藤リコも。

ロマンチックな求婚には憧れたものさ。フラッシュモブ的なもので祝福されたいってのもあったし、そんなに派手ではなくっても、海外の人達のプロポーズのさまざまなアレコレにはたまらん位にうひゃっはーい!!な気持ちはあったしね。



だかしかし。



私は、間違えてはイカンのです。

私がここでフツーにリュウ先輩の求婚を断るのは簡単。だけど、それではあまりにもリュウ先輩が気の毒すぎる。


だって、リュウ先輩は。


愛の女神ティファーリエ様が作り上げたキャラクターですし、自分のキャラクターが可愛いからと暴走するのはわからなくもないのです。というか、自分が作ったからと、その作られたキャラクターが辱めを受けるのとはまた違うと思うのですよ。



だから。


だから。


自分も助けながら、リュウ先輩も助けなければ。   


そう思うのです。



ので。



「…申し訳ございません。リュウ先輩の求婚にはお応えできません。」


「え?」
《え?》






え?

は?

ええ?

ええええええっ?!!



ザワアアアアア!!


周りに集まりに集まった生徒達から、戸惑いの声が上がります。まあそりゃそうだよな。



「どうして⁈あれだけ人目も憚らずにリュウ先輩といちゃついていたのに⁈」

「信じられない…!!」

「どういう事だ? あのリュウを振るなんて…!」

「嘘でしょ?だって…」


ざわざわざわざわ…!


そうですよね。これまでのリコーリアとリュウ先輩の愚行をさんざん見せられてきた生徒達からしたら、今更この 求愛 どころか、求婚 を断るなどと想像もつかなかっただろう。



「リ…リコーリア…?」

リュウ先輩も、信じられないというように私と視線を交わす。私は多分、切ないとかそんな顔ではなく。純粋にリュウ先輩に対して憐れんだ顔をしていたんだと思う。だから。



「私が何故、これまで人目も憚らずにリュウ先輩と…。愚行とも呼べるお付き合いをしていたのかをお話しさせていただきます。」



花束を持ったまま、ひざまづいた姿勢で固まっているリュウ先輩の手を取り、そっと立ち上がらせた。


「リュウ先輩、貴方なら乗り越えられると信じています。」


こそり、と、リュウの耳元で私は彼にわかってもらえるようにと、言葉に力を与えるつもりでそう囁いた。

「リコー…リア?」



ひとつ息を吐いて。

私は皆に向かって声を張る。
リコーリアの私は、とても通る良い声で。



「これは女神様の思し召しです!全てはリュウ先輩の為に、私が女神様より賜った試練なのです!」



《…へっ⁈》




間抜けな声が、私の頭の中に聞こえた。





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