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反省会の反省会4

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はい、みなさまご機嫌よう。次回に参りましたよー!


さあ、今回のスチルは。


『生贄』


ですね。前回の予告通りに参りましょう。このスチルでは何があったかと申しますと。
とうとうリコーリアも羞恥に耐え切れず、コウ先輩の事を先生に話しに行く事になりました。

まあ、前回あれだけ痛めつけられたらそうなりますわな。乙女ゲームですから、好きな相手だとは言え、あんな目に遭わされる謂れはないわけでありまして。


先生に話して、少しでも何とかしてほしいのだと。

もちろん、自分が近付いて行った事が問題ではある、けれども肉体を痛めつけられ、薬や新しく開発された道具の実験台にされるのにはとてもじゃないが我慢ができない。

だから、どうか。


先生方にコウ先輩をどうにか諌めてもらえないだろうかと。


淑女科の先生にまずは話して、先生の方から薬学科の方に打診してもらう事に。
淑女科の先生はリコーリアの話を聞き、そして前日にあった事を知ると、流石にそのような事があってはと直ぐに対処してくれる事に。
淑女科の先生は薬学科の先生に連絡を取り、リコーリアを含めて話し合いをする事になりました。

顔色の悪いリコーリアを気遣ってくれる先生は、少しでも緊張を解そうと手を握ってくれていました。


「大丈夫ですよ。わたくしが付いていますから。」
「…はい、よろしくお願いします…。」


さすがのリコーリアも、前日あれだけ痛めつけられていては、いつもの元気がありません。 
せめて、先生たちから注意を受けて、少しでも危険な行為をしないでくれれば…なんて考えています。

いやいやいやいや!!





…………ハァ、無駄だね、最後の時までリコーリアを動かす事はできないのだから、リコーリアがどう考えていても感情としてはあの危険な強引さに惹かれているのだから。


ガチャリ。


お待たせしました、と部屋に入ってきたのは薬学科の先生と、責任者らしき人物。深刻な顔のリコーリアに、淑女科の先生もいる事で。

…ん?何だか気まずそうな?



話が始まると、何という事でしょう!

あのコウ先輩は、この国の宰相の息子という事で、いずれはサクラ王子の片腕となる事がほぼ決定しているのだそう。けれど、このコウ先輩はどうにもこうにも研究熱心で、しかも歪みがあるせいか、たまに凄いことをやらかして来たのだそう。

この学園に入って来て早々、とにかく色んな生徒を相手に毒を盛るわ研修室に引っ張り込んでは実験と称して、ギリギリ許される範囲で危害を加えて来たのだそう。しかも狙われるのが大体が平民の為、泣き寝入りするしかなく、話題にしてもならないと箝口令が敷かれていたのだと。その代わり、その平民達には学園卒業後にそれなりの金額が支払われていて、大抵はそれで無理矢理納得することになっていたのだそう。それでも、それなりに被害に遭う人数が多く、耐えられずに学園を辞めていく生徒たちも多々居たのだとか。もちろん、口止めの為に誓約書と共に金を握らされて。


だから、つまり。

リコーリアも平民。しかも、これまでの生徒達とは違い、コウ先輩からはかなり気に入られていて、過去の生徒達のように、数日で多人数が被害に遭っていない事から、先生達からしたらリコーリアをコウの側に置いておけば、他の生徒達への配慮がなくなる分、気持ちも後始末も楽。だから。


「君への配慮は、学園内にいる時も卒業後も、レイヴン家からは感謝としてかなりの礼金が支払われるだろう。それに、平民の君を、貴族令嬢と学園内では同じ様な待遇にすることもできる。君を卒業後には、王家のメイドとして推薦もしてあげよう。だから。」


…だから、言わばコウ先輩の生贄として甘んじろと。


「これまでは薬学科の生徒ばかりがターゲットだったが、淑女科の生徒は君が初めてなんだ。…その、なんだね。君の方から誘ってきたとコウ君は言っていてね。…それならば、君の場合は自業自得ではないかね?それでもこうして高待遇で、と宰相様からも打診が来ているんだ。…君には申し訳ないが、コレで受け入れては貰えないだろうか?」

「リコーリアさん…。あなたが誘ったの?」
「ち、違います!だけど例えそうだとして、こんな仕打ちをされるだなんて普通は思わないじゃないですか!見て下さい、この傷はコウ先輩が電撃の出る道具を使った痕です!火傷したんです!女性の身体にこんなことする人だなんて思ってたら、近寄ったりなんか…!」

「しかし、それでも君の方から薬学科に足を向けていたのだろう?」

「そ、それは、毒を盛られてしまって、その解毒の為に…!」

「その解毒をしてもらうのを、何故薬学科の教師や医師にではなく、コウ君に頼んだのかね?君は期待して彼に会いに行ったのではないのかね?」

「女性に恥ずかしい毒を盛るような相手ですよ?先生達に言うのも、恥ずかしく、て。」

「それは理由には薄いんじゃないかね?」

「そん、な…!」


ハァ…。
と、リコーリアの隣で、付き添いの先生がため息をついた。そのため息に先生の顔を見上げると。

軽蔑したような視線で見下ろされていた。


「リコーリアさん、これはあなたの自業自得ですね。それほど今になって嫌がるのでしたら、初めに毒を盛られた後に何度も足を向けるのは確かにおかしいことです。あなたが望んだからこそ、こうなったのでしょう。もう、薬学科の先生方の仰るように、条件をのんで、少しでもいい思いをする方が良いのではなくて?」

「せ、先生…?」
「薬学科の先生がた、お騒がせして申し訳ございませんでした。リコーリアさんは条件をのむという方向でお願い致します。」

「おお、そうですか。リコーリアさん、すまないがそう言う訳だから。これからも彼を頼むよ?」

心底安心したように笑顔になる薬学科の先生たち。何も言えずに俯くリコーリアに、淑女科の先生は。


「全く、恥をかかされたわ。淑女科の生徒がどんな理由であれ、自分からそのような趣向の男性の元に足繁く通っていただなんて。…気の毒ではありますが、これはあなた自身が蒔いた種です。高待遇である事に感謝して、諦めなさい。」

淑女科の先生も、下級ではあっても貴族の位置にいる為か、どうにも上からの圧力には勝てないらしい。仕方ない事かもしれないが、ここまでが限界なのだろう。それにしても、全くあちらの言う事ばかりを鵜呑みにしなくてもいいのではないだろうか?平民の生徒とは言えもう少し生徒に向き合ってくれても、とは思うが、これはストーリーだから。その言葉で片付けられてしまうのは悲しいが、仕方ない。




「…っ…ひ…っく」

「泣いても決定は変わりません。さ、戻りますよ。」


中庭に差し掛かった時、コウ先輩が待っていたかのように優しい笑顔で声を先生にかけてきた。それはそれは、上品な仕草で。


「先生、この度はお手数をおかけして申し訳ございませんでした。薬学科の先生方からお話をお聞きしまして、リコーリアが心配で…失礼ながらここで待たせて頂いておりました。………先生…、大丈夫です。リコーリアは私の大切なパートナーです。酷い噂になるような、淫らな交際は致しません。お約束致します。それに、時間を破らせるような事もしませんし、させないようにも。…私が責任を持って、学園内と寮への送り迎えも致します。」

淑女科の先生は、その物腰にすっかり騙されてしまい、薬学科の先生達から危惧されていたこの男の異常さについては、頭の中から消してしまったようだ。


「あなたがたが、節度をわきまえた交際をすると言うのならば、問題はございませんよ。この度の事は、少々行き過ぎてしまった為の誤解があったのだとお話が付きました。…あまり恋人を誤解から泣かせてしまうような事はしてはなりませんよ?紳士淑女としての礼節を保って、お付き合いなさい。」


コウ先輩の態度に絆されてしまった先生は、「あとは2人できちんと話し合いなさい?本日の午後の授業はリコーリアさんも疲れたでしょうから、お休みしても構いません。コウさん、お約束通りにリコーリアさんを頼みましたよ?」と、2人を置いて淑女科の方へと去ってしまった。

先生の姿が見えなくなると、コウ先輩はやや乱暴にリコーリアの身体を引き寄せると、耳元で。


「…どうかな?君の事を助けてくれる人が誰もいないと言う現実を、自分で確認したその気持ちは。」

「…っ…!!」


涙ぐみ、震えながらもキッと睨みあげるリコーリアに、コウ先輩は頬を紅潮させて、心底嬉しそうに笑う。


「キミは本当に最高だよリコーリア。逃げられない悔しさに怒り、涙して、俺から離れる事が出来ない現実。言葉にならないよなぁ?それでも、その負けたくないと睨み付けるその表情は、堪らなく好感を持てるよ。…本当なら、今日もこのまま、俺の研修室に連れて行って、新しく作った強力な媚薬で悶えるキミを観察したいところだけど、俺も先生達の評判をあまり落とすわけには行かないからね。このまま寮へ送っていくよ。……明日、キミを完全に俺だけのモノにするから。…キミも、今日の気持ちを整理しておくと良い。明日からは本格的に、キミは俺だけのモノだ。」


さ…、と。身体を離し、リコーリアの背中を軽く押して寮への帰途を促すコウ先輩。

そうか…明日、告白イベントなんだな。



明日が待ち遠しいぜ、コウ・レイヴン。







リコーリアの中で、私は悪い顔で笑っていた。




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