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歩く
しおりを挟む人は言う
時間を止められるのなら止めたいと
しかし人にはできない
いや、できるかもしれない
できる人やものが存在するかもしれない
それは僕にも分からない
しかし、今言えることは
僕にはできる、ということだ
なぜなら、僕自身が"時間"だからだ
だから、僕が歩けば、
この世界の時間は流れる
歩くことは面白い
ゆっくり景色を見ながら歩く
じっくり足を踏み締めて歩く
時々あたりを駆け回りながら歩く
後ろ向きでスリルを味わいながら歩く
美味しいものを食べ歩きする
楽しく話しながら歩く
寂しくて落ち込みながらトボトボ歩く
泣きながらシクシク歩く
怒りながら地面をドンドン足で叩いて歩く
ルンルン気分でスキップしながら歩く
いろいろな歩き方がある
そこには
表情がある
感情がある
感覚がある
性格がある
存在がある
歩く
それは僕にとっての
最大の面白みであり、楽しみであり、幸福であり、"存在"だ
しかし、僕が歩みを止めることは決してない
それは単に僕が止めたくないからだ
止めたくないのは、
僕が時間であるがゆえのただのエゴだ
一度だけ、歩みを止めたことがある
人の僕への願望があることは知っていた
時間を止める
すなわち
僕自身が歩みを止めればいい
それは単純な好奇心でもあった
歩みを止めたら
どんな景色が見えるのだろう
どんな世界が広がっているのだろう
ワクワクした
ドキドキした
僕は歩みを止めた
すると、人の時間は止まった
人の認識し得る全ての世界が止まった
何が見えた
人が止まった
人にとっての世界が止まった
どんな世界か
僕だけしか認識し得ない
時間だけが止まった世界が
ただひたすら広がる
きっと、これは僕だけが知っているのだろう
僕が知らないだけで
他にも知っている存在はあるのかもしれない
それは僕にも分からない
この止まった世界を僕は知っている
特別なことは何一つない
それは僕自身が時間だからだ
そこは無だ
何も無い
ひたすら無だ
人を見る
確かに動きは止まる
しかし、人自身の時間は止まらない
ひたすらに流れ続ける
僕が再び歩き出すと、人も動き出す
しかし、それを認識しているものはいない
再び動き出したと認識しているのは僕だけだ
誰も時間が止まっていたという認識はない
人にとって時間に初めも終わりもない
だから途中で止まるなんてこともない
そこにはただ、
"時間"という
人の思考や記憶にある限り存在する
常に止まらない流れがあるだけだ
ここで僕は初めて悟る
止まることは無意味だと
僕が止まる
世界が止まる
僕は認識する
世界は認識しない
僕には
それが面白くない
つまらない以上に
ただの虚無だった
僕にとって
歩みを止めることは、存在しないこと
と同義である
すなわち"無"だ
時間は確かに止めた
しかし、人自身の時間は流れ続ける
そうである以上、
人の僕への願望は叶わない
ただの願望に留まるだけだ
結局、時間を止めるのは無意味だったのだ
僕が歩みを止めても、
時間の流れが止まるわけではない
ただ、僕自身が止まるだけだ
何も起こらない
何度も言う
止まることは無意味だと
僕は歩く
ひたすら歩く
食べたいから歩く
眠たいから歩く
面白いから歩く
寂しいから歩く
楽しいから歩く
悲しいから歩く
怒っているから歩く
びっくりするから歩く
嬉しいから歩く
歩く理由は
なんでもいい
なくてもいい
僕は歩く
ひたすら歩く
この先、僕がどうなるかは
僕自身にも分からない
分かってもいい
分からなくてもいい
でも、
分からないほうが面白い
僕は歩く
ひたすら歩く
歩き続けることは、
僕という存在を
人に知っていてほしいという
願望なのだろう
僕の歩みは
いつか知られるかもしれない
永遠に知られないかもしれない
知っているが気付いてないかもしれない
知らないけど気付いているかもしれない
知っているが興味はないかもしれない
知らないけど興味はあるかもしれない
なんだっていい
面白い
僕は歩く
ひたすら歩く
時には止まらなければならないことも
あるだろう
それはいつかは分からない
それでもぼくは歩みを止めない
歩くのは面白い
歩けば
表情が変わる
感情が変わる
感覚が変わる
性格が変わる
存在が変わる
変わるのは面白い
僕は歩く
ひたすら歩く
僕は僕の道を歩く
道がなければ作ればいい
とにかく
止まらない
止まれない
止まりたくない
歩き続けたい
ただそれだけだ
僕は歩く
ひたすら歩く……
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