キラー&アヴェンジャー

悠遊

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蘇りし復讐者

序章

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 広大な夜空は厚い雲に覆われ、明かりの無い森の中は少し離れた先も見えないほど暗い。
 その最中、深く傷付いた身体で弱々しく地面を這いずる青年の騎士がいた。
 身に着けている鎧は泥に塗れ、あちらこちらの損壊が激しい。激しい戦いを思わせるほど身体中傷だらけなうえに、傷口からは血が流れ続け、意識も朦朧とし始めていた。
「…は……はぁ、ん…ぐっ……うぁ……っ、だぁ」
 とうとう腕も上がらなくなった。力を振り絞るも、もはや身体が言うことを聞かず、動かす事が出来ない。
「…………このまま、野垂れ死ぬ、のかよ…」
 か細い声でそう呟いた。
 指先で地面を抉るように引っ掻き、強く握りしめた拳を震わせる。
「くそぅ……っ!! ちき、しょぉぉぉ………ッ!!」
 思い返される屈辱に涙を流し、額を地面に押し当てる。

 すると──

「よぉ。何こんなとこでビービー泣いてんだ?」

 突如声を掛けられた事に、彼は緊張で顔を強張らせ、声のした方向へ頭を動かした。
 正面に見える一本の木の根元に、誰かが座っているように見える。木陰が重なっている事も相まって姿はよく見えないが、その中で一際輝く紅い眼が、視線を釘付けにした。

「ハッ、シケたツラしてんなぁ、人間」

 影が白い歯を見せ、ニンマリと嗤った。

「だ、誰だ……?」
「俺ぁ……死にかけの魔族さ」
「魔族? まさか──ッ!!」
 と、身体を起こそうとするが力が入らず、再び倒れ伏せた。
「無理すんな。言ったろ、俺は死にかけなんだ。襲ったりしねぇよ」
 青年は顔を上げ、陰の向こうを凝視した。
 ようやく暗闇に慣れ、うっすらだが、その姿が見え始める。

 そこにいたのは、全身傷だらけで片腕の無い異形だった。

 傷の至る箇所から、血が流れ続けている。
 顔のつくりは人のそれだったが、額からは二本の角と尖った耳、腕と膝下は鱗とおぼしき外骨格に皮膜の破れた翼。何より目を引いたのは、胸にある大きな穴──何かで削り取られたような大きな傷跡だ。
「ヒデェな……」
「ドジ踏んで罠に嵌められちまってな。このザマだ……ところでその格好、さっきまで襲われてたとこの騎士か?」
「…あぁ……オルランダルの騎士、だ、ゲホッ! グッ………ぐそぉ…! バケモノどもがぁ………!! ぜってぇ、許さねぇ…全員、殺してやるゥゥゥ…ッ!!」
「…どうやら、アイツらにやられたクチか…人間が魔族に勝てるわきゃねぇ。運が悪かったな」
「そういうテメェは、どうなんだ…? そんなケガして、無事じゃねぇんだろ」
「あぁ…ダセェことに、同族にしてヤラれちまった。このまんまじゃ、俺はあと少しで死ぬ………でだ。取り引きしようぜ」
「取り、引き…?」
「このままじゃ死に切れねぇだろ? そのオルランダルを襲った首謀者を俺は知ってる。この怪我もソイツが原因だ…」
「…………それで?」
「つまり、お前と俺の敵は、一緒だ。だから、なぁぁっ……ッ!」
 異形は木に手を添えてゆっくり立ち上がり、ふらついた足取りで青年の元へ歩いた。
 近くまで辿り着き、そこでついに両膝をついて肩で大きく息をしている。
 お互いの顔がよく見え、共に辛そうな様子は一目で分かる程だった。
「…その身体をよこせ……その代わり──」
 異形が笑った。

「お前の復讐を、俺が果たしてやる」


   †
 

 アルフジャウス大陸に点在する国【オルランダル】
 その国王、ジョルディオス・マノン・デクシェント王。
 オルランダルは他国より領地が広く、山々に囲まれた土地に城と街を築き、侵攻が困難とされていた程、堅牢な場所だ。
 しかし、だからといって貿易が滞る事をせず、国は常に善政を心掛け、辺境地であっても繁栄を続けていた。
 
 今より十七年前──悲劇は突然訪れ、国王は一人の騎士に暗殺された。

 罪人の名は、ルクラティア・ハーシェル。

 彼は若くしてオルランダルの騎士となって国に忠を尽くし、地位におごることも、上に媚びることもしなかった誠実な人間だったと、誰もが口にする程の男であった。

 しかし、そんな彼が突然、国に刃を突き立てた。

 城内で起きた騒動の混乱に乗じて王と王妃、臣下達を次々に殺害。その後、上司の騎士団長によって深傷を負い逃亡。その後の捜索で、近隣の森にて彼の死体は発見されなかったものの、身に付けていた鎧が血溜まりの上で発見された。
 死体は野犬にでも喰われたのだろう。と、当時調査に当たっていた騎士の誰もがそう思っていた。
 信頼していた人達を裏切り、自らも誇りとしていた騎士という名誉を汚した男の名声は、この時を境に〈大罪人〉という悪名で世に拡まり、彼の生涯に汚名だけが遺される。

 何故、この様な凶行を起こしたのか──?

 いったい彼に何があったのか──? 

 何が起きたのか──?

 一切の真相が分からないまま十七年の時が過ぎ、真実は闇へ葬られていった……。
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