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蘇りし復讐者
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しおりを挟む夜更けのシャルマットは静か──いや、静か過ぎる程だった。
単純にこの時間に出歩く者が少なく、すでに遅い時間という理由であったとしても、いくつかの明かりが灯っている家屋はくらいはあるだろう。
しかしこの町は、街灯しか点いていない。
どこの建物も窓の隙間から明かりは漏れておらず、真っ暗だ。
そんな異様な静寂を、ラムセルは町に入ってからずっと感じていた。
「なぁ、ミャム。この町は夜こんなに静かなのか?」
ラムセルは何気無く聞いたつもりだったが、隣に並ぶミャムは少し表情を曇らせ、淋しく哀しい目で横に並ぶ家屋を見つめる。
「ううん、前はもっと賑やかだったよ。普段ならこの時間でもお店を開けてたし、人通りも多かった」
すると一軒の家の前で立ち止まった。
「ここの家の人ね、うちの常連さんで、その人の趣味で育ててた野菜をよく持って来てくれてたの。それがいつも採れたてで、新鮮なの。それで頂いてはお礼にって、お父さんが料理作って…あの笑顔は素敵だったなぁ」
そう語る彼女と見つめる先の家を、ラムセルは交互に見比べた。
「ここに住んでた人は、もういないのか?」
「…………うん。オイカノスに、殺されちゃった」
「──すまん」
「ううん、大丈夫」
そう笑顔で返すが、哀しみの色が濃い。
ラムセルはそれに何も言わず、代わりにミャムの肩に手を置き、横並びになって再び歩き出す。
「さ、案内頼むぜ。何だか腹減り過ぎてイテぇや」
「うん…ゴメン。行きましょ」
その後二人は会話をせず前だけを見て歩き続けた。
時折ラムセルが一瞬だけ様子を何度か伺うが、やはり哀しいままだ。
どうしたものか。と、思案しているうちに遠くで騒がしい声が聞こえてきた。
するとミャムが少しだけ表情が明るくなり、駆け足で声のする方へ向かう。
辿り着いた先は、拓かれた広場にポツンと佇む一軒の酒場。
看板には《緑の涼風亭》と書かれており、ここだけ賑やかな声が外に漏れる程響いている。
先に感じてきた静寂と無縁な、まるでこの広場だけが別世界のようにラムセルは思った。
「ここで待ってて」
そう言ってミャムはラムセルを店の入り口で待たせ、彼女は店の裏側に周った。
(……この町、臭うな。もしかしたら──)
「くぉら、ミャムゥゥゥッ!! 無事だったかコノヤロォォォーーー!!」
突然聞こえてきた重低音で外にまで響く大声にラムセルの思案は一瞬で途切れた。
そして先程の賑やかな声達はさらに度合いを増し「心配したんだぞ!!」「怪我はなかったかい?!」「いやー、無事で良かったぁッ!!」等といった、安心と喜びの声が飛び交っている。
しばらくすると、入口からミャムが出迎えた。出てきた彼女は服装をそのままに、使い古された様子の前掛けエプロンを身につけている。
「お待たせ。華やかじゃないけど、賑やかなのがうちの自慢よ!」
「むしろそっちの方が好きさ」
ミャムに招かれて店に入ると、ラムセルはいきなり盛大な歓声と拍手喝采を浴びた。
「王子様のご登場だーーー!!!」
「お、王子様ぁ?」
「いよぉ、ニイちゃん!! よーく来たぁ!!」
「あんたがミャムちゃん助けてくれたのか、ありがとよ!!」
「ここの看板娘を助けて救っててよ、ホント礼を言わせてもらうぜぃ!」
「お、おぅ…」
次々と贈られる感謝の声に面食らい、どうしたものかと半ば勢いに押されていた。
そんな状態でミャムに手を引かれ、カウンターの一席に座らせられると、隣にいた老年の女性からエールがほぼ満杯まで注がれているジョッキをラムセルの前に置いた。
「本当にありがとうねー。ミャムちゃんがいない間ギャバンさんもソフィーちゃんも気が気じゃなかったからさー」
「そうだよ、マスターなんて珍しく料理焦がしちまうくらいだったんだ、ッ!!? ぃテェぇぇぇ」
「余計な事言うんじゃねぇバカヤロウ! ぶん殴んぞ!!」
「おじさん、もう殴っています」
それでようやく調子を戻したラムセルがカウンターにいる男女を見た。
女性はミャムと同じ服装に見えるが、彼女は茶色のロングスカートを履いている。ミャムと同い年位に見えるが、彼女の方はおっとりとした物腰に、柔らかな笑顔が魅力的だ。後ろで一本に束ねたブロンドの長髪、主張の少ない小ぶりの眼鏡を掛けているからか、知的な印象を受ける。
一方、男性は白のコック服を身につけ、壮年であるが衰えや老いを感じさせない逞しい体躯に剣の形をした銀のピアス、そして額の火傷が特徴的である。
何より一際目立つのが、その強面だ。睨んでいると思ってしまう程の鋭い眼つきと眼光も相まって恐さが増している。頑固オヤジ、という表現がとても似合うだろう。ラムセルはそう思った。
「あそこで今お客さんにゲンコツをお見舞いしたのが、あたしのお父さんよ。で、隣で優しくツッコんだ眼鏡をかけた子が従姉妹のソフィー。お父さん、あーんな強面だけど、あれが普段通りだから気にしないでね」
「おい、それが父親に対する紹介か? このバカ娘!」
「何よ! ホントの事なんだから間違ってないでしょ!」
「言い方ってもんがあんだろが、それぐれぇ考えろ!!」
「ふんだっ!! あっかんべー!!」
と、子供のように悪態ついたミャムの額に、すぐさまデコピンがお見舞いされ、あまりの痛さにその場で蹲った。
一瞬静まり返ったがすぐに笑い声が沸き起こり、再び賑やかな雰囲気に戻る。
「~~~ッ!! もう、笑うなーーー!!!」
そう涙目になりながら額を押さえてカウンター内に入り、奥の厨房へ入って行く。
そしてまた各々は愉しいひと時に浸り、ラムセルはその光景を眺めた。
「良いとこだ。ここに来るまでの静けさが嘘みたいに思えるぜ」
「…ふん。よく知りもしない若僧が吐かすな」
「おじさん。いくらこの町の事情を知らないとはいえ、ミャムちゃんを助けた恩人に失礼ですよ」
「失礼な奴に失礼と言って何が悪い。ウチのバカ娘を助けてくれた事にゃ感謝してる。しかしそれとこれは別だ!!」
睨みを利かせた眼差しがラムセルを突く。が、ラムセルは特に何も言わず無言で見つめ返した。
突然起きた妙な緊迫感に、近くに居るソフィーと客は皆口を閉ざして神妙な面持ちで交互に見遣る。
「オメェさんはここに居る連中の辛さなんざまるで分かっちゃいねぇ。悪い事は言わねぇ、さっさと失せた方がいい」
「おいおいマスター、そんなこと言うなよ!」
「いくら何でも言い過ぎです!」
「……そうだな」
「あぁ、分かったんなら──」
「しばらくここに残るわ。どっか宿ないか?」
ガタンッ!!
大きく鳴り響いた音に視線がそこに集まった。
ギャバンが身を乗り出し、ラムセルの胸ぐらを掴み上げている。
「テメェ…ふざけてんのか?」
「いんや。全然」
その余裕の見える表情に、掴み上げている手に力が篭る。
「尚更に大馬鹿野郎だな。いいか、オレはお前のために言ってんだ!」
奥の部屋から何事かと思ったミャムが顔を出し、二人の状況を見ると慌てて血相を変え近づいた。
「ちょ!? お父さん、何してんの?!!」
「っせぇッ!!」
「ここに来る前、シャルマットの空気を肌で感じた……とてもじゃねぇが、見るに耐えねぇ有様だ、死んでるって感じだ」
「!! テメェ…ッ!!!」
「オイカノス」
その場にいる全員が、ビクリと身体を震わせた。
「……なるほど、どうやらそれが元凶なんだな」
「オメェには関係無ぇ! 大体知ったとこで何が出来る!」
「そうだな……ソイツを、ブチのめすくらいか?」
その一言に今度はどよめきが走った。
「いい加減にしろッ!! ブチのめすだぁ? ふざけんのも──っ?!」
ギャバンが急にラムセルを見つめたまま言葉を詰まらせた。
先程とは違う、ラムセルの鋭い眼差し。
ギャバンは口を半開きにしながら、目を大きく見開いていた。
「まさか…いゃ! ……だが、そんな…」
「お、お父さん?」
「!! な、何でもねぇ」
するとギャバンはラムセルの胸ぐらを離し、お互い見つめ合ったまま黙り込んでしまった。
急に様子の変わった父親に、ミャムはおろか全員が戸惑いを隠せず、ただ見守る。
…………………。
そして、ギャバンがため息を漏らした。
「悪かった。娘を助けてくれた礼と今の詫びだ、今晩の宿が無いなら家を使ってくれ。後で部屋に案内する」
「ありがとな」
何でだか分からないが、どうやら治ったようだ。と、全員が一斉にホッと胸を撫で下ろし、改めて自分の時間に戻った。
「そ、そういや兄ちゃん、名前は何て云うんだ?」
「俺はラムセル。ただの旅人だ。ミャムとは町外れの森で悪漢共に襲われているとこに出くわして、それで助けた」
「ほんっと、しつっこく追いかけられてさ!! ……ラムセルさんがいなかったら、今頃どうなってたか…」
そう言って自分の両腕を抱き締め、ギャバンが小刻みに震える肩に手を添える。
「そうか……重ねて礼を言わせてくれ。助けてくれて、ありがとうよ」
そう言ってギャバンは深々とお辞儀をした。
「当然の事をしたまでさ。ところで……何か、ちょっと焦げ臭くないか…?」
「あぁ?」
「へ? …………あぁッ!! オーブンに料理入れっぱなしだった!! ごめんソフィー、手伝って!」
「えぇ。大丈夫よ」
「ありがとう! それじゃ、改めて腕によりをかけて作りますのでお待ちくださいね~♪」
そう笑って誤魔化すと、ソフィーの手を引いて早々に厨房へ向かった。
「おぅ。腹空かせて待ってるぜ」
ラムセルは軽く手を振って厨房へ向かった二人を見送った。
ふとギャバンに顔を向けると、難しい顔をしながら腕組みをして睨んでいる。さっきまで近くに座っていた客はいつの間にかいなくなり、一対一の空間が出来上がっていた。
さらにギャバンは身を乗り出し、より近くでラムセルの顔を凝視する。
「……似てるな」
「似てる?」
「ああ。俺がまだオルランダルで鍛冶職人をやってた頃だ。そこの騎士団にいた一人の小生意気な若僧によく似てやがる。さっきの目つきといい…生き写しなんじゃねぇか、って思うほどにな」
「へぇ。あのオルランダルで、しかもそこの騎士様にか? や、光栄なもんだ。で、何て名前なんだ?」
「ルクラティア。ルクラティア・ハーシェルだ。オルランダルでは若僧ながら、騎士の鑑とまで云われてたほどの奴だ」
「へぇ…そりゃあスゴイね」
「……ところで、ちらっとミャムから聞いたんだが、俺を捜してたんだってな?」
「……あぁ。アンタに聞きたい事があるんだが…どっか落ち着いて話せる場所あるか?」
「俺の部屋で話そう。ついて来い」
ギャバンが厨房にいる二人に「ちょっくら休憩してくる」と一声掛け、そのまま階段を上り、特に会話も無く三階の自室へ案内する。ラムセルを中に入るよう促し、扉に鍵をかけ、机にあるランプに火を灯した。
部屋の中は紙束や装飾具、様々な工具、刀剣類などが棚や床に雑然と置かれている。
そして閉めている扉の向こうからは、一階の歓声が小さく聞こえていた。
「散らかっててすまんが、適当に座ってくれ」
と、ギャバン机にあった椅子に座り、ラムセルはベッドに腰掛けて深呼吸。辺りを見渡した。
「色々あるんだな」
「まあな、昔の名残ってもんだ。さて、あーいや……話しを聞く前にこっちから質問させてくれ。ラムセル、オメェさんは…ルクラティアなのか?」
「いや。違う」
「……そうか。そいつぁ残念だ」
「すまねぇな」
「なーに、気にすんな。オレが勝手に期待しちまっただけだ。で? オレになんの用だ?」
「ある人物に頼まれて人を捜してるんだ。それで、シャルマットのギャバンって人の所にその人物がいるって分かってな。名前はフィルミア。フィルミア・スオラ・デクシェント」
「フィルミア……さぁ、知らねぇな。その依頼主はとんだ勘違いをしてたようだな。だいたいデクシェントなんて名前はオルランダルのお偉い様が名乗ってたモンじゃねぇか。そんな奴が、どうしてオレのとこにいるってんだ? それにそんな根も葉もねぇ事言った奴ぁ一体誰だ? アンタにゃ悪いが、いい迷惑だ」
「…あんたもよーく知っている人さ」
「ほぅ……仕事で顔見知りなのは何人もいるが、特に親しかったなんてのは……まぁ強いて言うなら──」
「あんたのことを『おやっさん』と呼んでた若僧、か?」
その呼び方を聞き、ギャバンは勢いよく立ち上がった。
「オメェ、どうしてそれを……まさか!?」
「あぁ。依頼主の名は、ルクラティア・ハーシェル。そして、あんたはここに来た際、予め匿っていた王妃の忘れ形見である赤ん坊、フィルミアを連れて来ているはずだ」
「ッ!!」
ギャバンの目が一際険しくなった。握り拳に汗がにじむ。
「……一体、何モンなんだテメェは…!!」
「俺は…っ」
「? な、なんだよ、どうした!?」
「………いや、人間は知らない方がいい」
「おいおい、そこまで言ってそりゃあねぇだろ!? てか『人間は』って何だよ。オメェだってそうだろが!」
「…そうか。そうだったな」
「?? 変な野郎だな。どっから見てもそうだろが」
ギャバンのその一言に一瞬キョトンとするが、すぐに破顔して笑顔を浮かべた。
その人懐っこい笑みに、ギャバンは柔らかく目を細めた。
「……くそ、やっぱそっくりだぜ。なぁ、ホントにルク坊主じゃねぇのか?」
「ルク坊主?」
「ルクラティアだから、ルク坊主。何か文句あっか?」
「いや、別に」
「………はぁぁ、そっかよ…ちなみに、アイツは今何してんだ?」
「さてな。最後に会ったのももう随分前だからなぁ」
「ったく、あんのヤロゥ。もし会ったらオレのとこに顔出せ、って言っといてくれ。ゲンコツくれてやる」
「はは、そーしとく。それでつまり、フィルミアはここにはいないんだな?」
「あぁ、いねーよ。待ってろ、飲み物取ってくる」
そう言ってギャバンは部屋から出て行った。
一人残されたラムセルは暇を持て余すように室内を座ったまま見渡す。が、特に面白みの無い光景にすぐ飽きがきた。
(──さぁて、手掛かりは掴めず。どうしたもん…ん?)
視線を壁にある装飾棚に移した時、ふと違和感を感じた。
棚の中心に一つだけ不細工な銀のバックルがある。それは周りの物と比べても、明らかに素人と思える程の代物だ。
ラムセルは棚へ向かい、何気なくそれを手に取り、手の平から眺める。おそらく、何かを表そうとしたのだろうが、歪になっている模様と形からは想像がつけ難い。
「……ヘッタクソだな」
「だろ? それでハンマーの模様だってよ。あん時は思わず笑っちまったぜ」
突然背後から声が聞こえ、振り向くと、ジョッキを片手に二つ持ったギャバンが戻っていた。
「そいつはな、ルク坊主がオレにくれた初めての誕生日プレゼントなんだ。そん時使ってたベルトが壊れちまってな、直すのも面倒でしばらくテキトーな紐で代用してたんだ。それで思い立ったんだろうよ。いきなり作り方を教えてくれって頼まれてな」
ギャバンはラムセルからバックルを取り、懐かしむようにそれをかざして見ては、苦笑を洩らす。しかし、見つめる瞳は優しい。
「オレが後ろで教えてやったにも関わらず、コレだったからなぁ。見せられた時ゃ、呆れて物も言えなかったぜ。こんなガラクタ贈りやがってよ」
「そう言う割には、ずいぶん大事そうにしてあったように見えたが?」
「…まぁ、こんなんでも丹精込めて作ってくれたからな。しかもオレみたいな堅物の度が過ぎたオヤジの誕生日なんかを覚えてわざわざ、な。ほらよ、お前さんのだ」
ジョッキの一つをラムセルに差し出し、彼はそれを受け取った。
ラムセルがひとくち飲もうとすると、まず豊潤な甘い香りが鼻腔をくすぐった。酒の香りにしては珍しい、などと思いながら一度喉を潤す。
「──良い味だ」
「だろ? 完熟したリンゴだけを使った上等モンよぉ」
「…けど、どっちかといやぁ酒が嬉しかったな」
「ハッハッハ! 文句言うんじゃねぇ、そいつはオレのお気に入りのジュースなんだよ」
「意外だな。人は見かけによらねーな」
「うっせぇ………ルク坊主とオメェはどれくらいの付き合いなんだ?」
「そうだな……あー、意気投合した仲ってやつで、そんな長いわけじゃねぇ」
「そうか。じゃあ事件については?」
「あぁ、よーく聞かされた……そんでもって『悔しくて仕方ねぇ』とも言ってた」
「だろうよ……アイツが国に刃向けるような、そんなバカげた真似が出来るような人間じゃねぇんだよ…なのに、あのクソ連中は……ッ!!」
その当時の事を思い返したギャバンは悔しさに顔をしかめ、腕に力が篭って奮える。
ラムセルはそんな彼の様子を無言で見つめるだけだ。
「──それでよ。未だに理解出来ねぇ事があるんだ。アイツぁ色んな奴らから何かと慕われてた。もちろん、国もそんな奴を信頼し、ルク坊主もそれに精一杯応えていた。時には失敗もあった。が、そんな時ゃコソコソしながら、陰で悔し涙を流してた……そんな奴が、突然みんなの気持ちを裏切るようなバカな事をするとは、とてもじゃねーが思えねぇ!」
「……そうだな。俺もあいつの想いの強さは痛いほど伝わったからな」
「あの時!! 俺は何度も調べ直してくれって今の騎士団や国の連中に懇願した! だが聞く耳を全く持っちゃくれねぇ!! そんで一人で調べてたらよぉ、アイツらぁぁっ……!!!」
「…何があったんだ?」
「妨害だ。それも一度や二度じゃねぇ、事ある毎に受けた! 挙げ句の果ては、何処ぞの殺し屋雇って俺を殺しに来やがったッ!! 明らかに暴かれちゃマズいもんがあるに違ぇねぇッ!! 俺だけじゃねぇ、他にも疑問に思った奴はいた。けどそういった奴も身に覚えの無ぇ罪を着せられては隠蔽してるクソ野郎共に次々殺されていった!! 情けねぇ事だが、一人の力なんてたかが知れてる。そのうちオレは夜逃げ同然にオルランダルを抜け、シャルマットまで帰ってきた……今でも悔しくてたまんねぇぇっ…腸が煮え返るくらいだぁぁぁ……ッ!!」
ギャバンの目から大粒の涙が止めどなく零れ落ちる。それに気付いた彼は急いで涙拭き、ラムセルに向き直った。
「俺は真実が知りたい!! そんで仇を討つ!! アイツは、たまに顔出しては何かと茶化してきやがる小僧だ。オレに気に入らねぇとこありゃすぐケチつけやがって、アレやコレやうるさく言ってきやがった時には、何度も喧嘩した。だがそんな奴でも、ルクラティアは…ルク坊主は、俺にとっちゃ息子みたいな存在だったんだ! 何度でも言ってやる! ルク坊主は謀反なんてする大バカ野郎なんかじゃねぇッ!! たとえ国や世界中を敵に回してでも、オレは無実を信じ続ける! オレぁ何があろうと、アイツの味方だぁッ!!!」
ギャバンの荒い息づかいだけが部屋に小さく反響する。
耳をすませば、いつの間にか一階からの声も止んでいた。
ギャバンの怒声が下の階に響いていたのだろう。
ラムセルは一気にジョッキの中身を飲み干す。
「………なるほど。あんたも相当無念だったんだな」
「あたりめぇだ。そう簡単に消えるモンかよ」
「……実はな、俺はオルランダルに行く事が目的なんだ」
「何だと?」
「で、その事件の元凶となった奴ら、そして関わりのある全ての者を始末すること。そして王妃の娘フィルミアの身柄を保護し、安全な場所へ送ること。全部ルクラティアから頼まれた事だ。十七年前、王妃が当時赤ん坊だったフィルミアを侍女に預け、その人の逃亡にルクラティアが関わっていた」
「ッ!!?」
「敵との追跡の最中、その侍女とは途中で別れた…親しかったあんたのとこに行くよう指示したそうだ」
「…………」
「頼む、本当の事を教えてくれ…!」
ギャバンは渋面になって押し黙り、テーブルに向かってジョッキを置くと両手をつく。
沈黙が続いた。
「ラムセル……オレぁ正直言って、お前さんを信用しきれてねぇ」
「……」
「だが…アンタの目は嘘を言っちゃいない。今はそれを信じる」
その一言に張り詰めていた空気が和らいだ様子を感じ、ラムセルは安堵の息を洩らした。
「ありがとな」
「礼なんざいらねぇよ……実はな」
その時、下から急に騒音と悲鳴が聞こえてきた。
「な、何だ!?」
と、そこへ慌しく階段を駆け上がる音が近づいて来る。
勢いよく開けられたドアから、両手を膝で支えながら肩で息を切らすソフィーがいた。
「ソフィーどうしたッ、いったい何の騒ぎだッ!?」
「お店に…急に、オ、オイカノスの、兵達が……ミャムちゃんを…!!」
「何ィッ!!?」
ラムセルのいた場所の床に空のジョッキが転がり落ちる。同時に、彼はソフィーの横を素早く駆け抜けて行った。
「あ、おい、待て! ソフィー、お前はここに居ろ、俺が戻るまで絶対開けるんじゃねぇぞ! いいな!!」
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