贖罪の救世主

水野アヤト

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第三話 集う力

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 トロスクスの街で得た情報をもとに、この隠れ里に訪れた目的。それは、誰も見たことのないと言われる武器を、自分たちの新たな力とするためである。
 隠れ里を探し出し、目当ての物を見つけたリックは、この情報を信じていなかったレイナとクリスに、自分の成果を見せたい気持ちがある。
 リックを筆頭にレイナとクリス、そしてシャランドラの四人が向かったのは、里の人々がよく使っている、射撃場であった。
 射撃場には四人以外誰もいない。いつもであれば、必ず誰かしらが居る。皆が自分の銃で、射撃の練度向上を図っているのだ。誰も居ないというのは珍しい。
 そのことが少し気になった、リックとシャランドラであったが、特に不審がることはなく、射撃のための準備を始める。
 射撃はリックが行なう。シャランドラが持つ銃を借り、慣れた手つきで、銃に弾丸を装填していく。銃は長物のライフル銃であり、暴発などの危険を防止する、安全装置を解除した。
 何も知らないレイナとクリスには、リックが何をやっているのか、全く理解できない。ただ、二人は武術家の直感で、リックの所持している物が、武器であることを理解していた。
 銃を構え、姿勢をとり、射撃場に立てられた、円形の的を狙うリック。今使用されようとしている銃は、ライフル銃の定番である、ボルトアクション方式が組み込まれている。 銃に取り付けられている、ボルト部分を引ききった後、それを今度は、ゆっくりと押し込む。今の動作で、弾丸が発射準備を整えたのだ。
 慎重に狙いを定める。ライフルには、狙撃のために使用されるスコープは装着されておらず、銃に初めから取り付けられている、照準器で狙う。的との距離は五十メートル程だ。
 引き金に指をかけ、一呼吸。そして、的を目掛けて引き金を引いた。

「なっ、なんですかこの音は!?」

 リックが引き金を引いた瞬間、突然乾いた大きな音が鳴る。初めて聞くその音に、驚いてしまったレイナとクリス。当然シャランドラは慣れており、リックも最近慣れてしまったので、やはりこの二人は驚くことはない。
 放たれた弾丸は、的に向かって真っ直ぐ飛んで行き、発砲音が鳴った瞬間とほぼ同時に、弾丸は的へと命中する。しかし、リックは的の中心点を狙って放ったのだが、弾丸は中心より、やや右側へと逸れて命中した。
 中心に命中させようと、リックは再びボルトを引き、空薬莢を排出して、弾丸を送り込む。狙いを修正し、引き金をひく。先程と同じ発砲音が鳴り、弾丸は的の中心を、今度は正確に貫いた。
 射撃地点から命中を確認し、銃に装填されている弾丸を次々と放つ。全弾撃ち尽くした結果、的の中心に命中したのは、三発であった。

「どうだ?これが銃という武器だ」

 リックの探し求めた力。木製の的を易々と貫通し、鉄板であっても貫通してしまう力を持つ武器。射程距離は何百メートルもある遠距離武器で、弓矢などが霞んでしまう程の、射程距離と威力だ。
 これが銃である。

「真ん中に当たるようになったやんか。練習の成果がでとるで」
「お前の指導のお陰さ。でも、まだまだ足りないな。もっと正確な射撃ができるように練習しないと」

 シャランドラとリックは、この射撃場で練習を繰り返していた。元々才能があったのか、リックは銃を簡単に使いこなし、物覚えも早かっため、僅かな時間で、高い命中精度を手に入れたのだ。

「なんだよこの武器は。音がうるせぇし、なんか臭うぞ?」
「これは・・・・・。もしかして火薬の臭い」
「その通りだレイナ。これは火薬の力で鉄の塊を撃ち出す武器だ。銃と言うから覚えておいてくれ」
「リックが銃って呼ぶから、里の皆も鉄砲って呼ばなくなってもうた。この方が言い易いからってな」

 銃。リックの少ない知識で言えば、火薬の力で鉄の塊を撃ち出すものである。
 正確には火薬の燃焼ガスの圧力で、金属製の弾丸を発射するものだ。
 リックが今使用した銃は、ライフル銃である。所謂小銃と呼ばれる物で、歩兵の主力装備であるのだ。とは言っても、この世界の歩兵には、まったく未知の物であるが。
 この小銃には、ボルトアクション機構が組み込まれ、火縄銃などとは比べものにならない、連射力を誇る。比較すると、火縄銃が一発撃つのに、約三十秒かかるのに対して、ボルトアクションは数秒で発射できるのだ。慣れた者なら、一秒かそれより早く発射できる。
 小銃に弾丸を装填し、取り付いているボルトを引いて後退させると、弾を薬室に装填する。初弾を発射した後、次弾を撃つためには、薬室に残っている、弾丸の空薬莢を取り除く必要がある。
 そのためこの銃は、再びボルトを引くことによって空薬莢を排出し、ボルト押し込むことによって、再び弾丸が薬室へと送り込まれるのだ。このようにしてボルトアクション機構は、弾丸の連射を可能としている。
 という具合に、この銃の説明を、何も知らない二人に説明したリックであったが、思っていた通り、一発では理解されなかった。二人の頭の上には、大きなはてなマークが見える様である。

「ちょっと難しかったかな。まあ、これが俺の欲しかった新しい武器なのさ」
「仕組みはわかりませんが、これが強力なものであるということはわかります」
「まったくだぜ。こんな武器がほんとにあるとはな・・・・」
「凄いだろ?俺の情報を見極める目は。もっとも、本当に凄いのは銃を作れるこの里の人々だけどな」

 手に持った小銃を見下ろし、この銃の重みを確かめる。
 銃身などは鉄製で、構えるための銃床部分は木製だ。故に、ずっしりとした重みがある。だが、その重みは鉄製であるからだけではない。人の命を奪うことのできる武器故の、重みなのだ。
 初めてこの里で銃を手にした時、この重みを知ることとなった。そして初めて射撃をした時、これが命を奪える武器なのだと、実感したのだ。

「本当に良い銃だよ。ところでシャランドラ、例の銃の設計は出来そうなのか?」
「出来るかどうかはおいといて、やってはみたいで。里の皆も興味あるみたいやし。ただな、鉄とか色々なものがもっと必要や。弾丸を大量生産する工場も欲しいところやで」
「わかった。それらに関してはなんとかなる。他に必要なものはあるのか?」
「うーん・・・・・・。って、ちょっと待てや?!なんとかなるってどういうこっちゃ。お前ほんとなにもんやねん!」
「リック様、彼女にはなんと自分のことを伝えているのですか?」
「ん?ただの通りすがりの旅人、とだけ言ってあるけど」
「じゃあこの変な喋り方の女はつまり、リックのこと何も知らないわけかよ」

 驚くレイナと笑い出すクリス。シャランドラは二人が、何を言いたいのかわかっていない。
 妙なことにならないよう、通りすがりの旅人として正体を偽った。間違いではないが、正しいとも言えないだろう。実際少し前まで、通りすがりの旅人ではあったのだから、間違ってはいない説明だ。
 そろそろ、自分のことについて話すべきか、それとももう少し様子を見るかを、今リックは考え始めた。里の人々は、外の世界と無関係でいたいはずである。自分が正体を明かせば、折角勝ち得た信頼を、失ってしまう可能性があるからだ。
 そうこう悩んでいると、四人がいるこの射撃場に、里の大人たちが何人か集まってきた。彼らの表情は一様に暗く、明らかに何か問題を抱えた様子である。彼らはシャランドラに用がある。

「シャラ嬢ちゃん、話があるんだ。一緒に長のところまで来てくれるか?」
「どうしたんやおっちゃん。なんかあったんか?」
「ああ。・・・・・不味いことが起きちまったんだ」

 ただ事ではないと悟ったシャランドラは、話を聞くため大人たちと共に、里の長がいる家へと向かう。
 何事か気になったリックは、当然のようにシャランドラの後に付いて行く。これも当然であるが、忠臣二人はリックに付いて行った。
 長年平穏であった里に、危険が迫ろうとしていたのだ。
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