贖罪の救世主

水野アヤト

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第10.5話 みんな大好き?ヴァスティナ帝国 

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「槍は剣とは全く違う。剣よりも長いが、その分懐に入られると終わりだ。槍を扱う時は、絶対に懐に敵を入れてはならない」
「「「「「はい!」」」」」

 朝食を済ませた後は、兵士たちの訓練だ。
 帝国と女王陛下を御守りするための、帝国軍参謀長の兵士たち。精強な彼らは訓練に真面目に取り組み、来るべき時に備えている。そんな彼らに、私は今、演習場で槍の使い方を教えている。
 私の実力はまだ未熟。よって本来、他人に槍を教えてはならないと自覚している。だが、リック様の頼みであったのだ。「帝国軍の戦力強化のために、お前の技術を貸して欲しい」と、あの御方にそう頼まれては断るわけにはいかない。
 それから私は、こうして教官の真似事の様な事をしている。帝国軍は現在、指導教官不足だと我が軍の軍師が言っていた。だから私も、教官役に任命されたのだろう。
 そうだ、私だけでなくあの破廉恥剣士も教官をしている。私とは違い、剣担当だ。他にも銃火器担当の者たちもいるが、あれは私には専門外だ。

「まずは槍を己の一部にするのだ。突きの練習を始めろ、連続百回!」

 正しい教え方など知らないが、とりあえず彼らには、槍に慣れて貰わなければならない。技などはそれからだ。
 彼らは帝国軍の中でも、槍の扱いに長けた者たちだ。槍の扱いは慣れているかもしれないが、今以上に慣れて貰わなければ、この先戦い抜く事は難しいはずだ。
 リック様は私の事を考え、将来の精鋭槍兵となるだろう彼らを私に預けた。私を信頼し、私に彼らを預けたのだ。ならば必ず、ご期待に添えなければならない。

「集中力を切らすな!一突き一突きを大切にするのだ」

 指示はこれであっているのだろうか。不安だ・・・・・・。
 だが、全てはリック様のため。不安な気持ちはあるが、それでも私がやらなければ誰がやる。
 リック様は素晴らしい御方だ。強く、知略に優れ、物知りで、高いカリスマ性を持っている。まさに完璧な人間だ。私とは比べる事のできない、天上の人間と言えるだろう。
 そんなリック様の右腕として仕える事。これは、本当に身に余る光栄だ。
 リクトビア・フローレンス。我らのリック様。私の全てはリック様のものだ。
 そして私の頭の中も、リック様の事でいっぱいだ。シャランドラとイヴに揶揄われるのも仕方がない。確かに、私の頭の中はリック様の事しか考えていない。
 何故なら、リック様こそ今の私の全てだからだ。そして、これからも・・・きっと・・・・・・。
 待て・・・・・これでは私、ただの変態ではないか?

「はあ・・・・・・・」

 破廉恥剣士を変態呼ばわりできない。だって私自身が、変態なのだから。
 違う!私は変態なのではない、断じて!私は真摯な気持ちであの御方をお慕いしているだけなのだ。尊敬しているだけなのだ。変態ではない、絶対にない、そうですよねリック様!?

「槍だけでなく私の精神も、まだ未熟か・・・・・・」

 反省しよう。まだまだ修行が足りないな、私も。
 ですがリック様、私の気持ちに嘘偽りはありません。私の命続く限り、ずっと御傍に仕えます。
 まだまだ未熟者でありますが、私は私にできる全ての事を全力でやっていきます。貴方のために・・・・・・。





 私、レイナ・ミカズキの今日は、まだ始まったばかり。
 忠誠を誓う我が主のために、今日も私は槍を振るう。そして、次の日もその次の日も、この忠誠は変わらない。
 それが私の、レイナ・ミカズキという女の生き方なのだから・・・・・・。


~終~
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