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第十四話 贖罪
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深夜。月が真上に上り、闇に包まれたヴァスティナ城。
見張りの兵が持つランプの明かりや、通路の各所に灯された明かりはあるものの、城内は夜の闇と静寂に支配されている。
そんな城の通路を、一人の男が歩いていた。足音が、静かな廊下に響き渡る。
彼は寝室に向かっていた。だが、自分の寝室にではない。向かっているのは、彼の主たる、帝国参謀長の寝室だ。
長髪と眼鏡姿が特徴的の、帝国軍軍師エミリオは、未だに迷いを感じながら、目指していた寝室の前に辿り着く。
(この真実を、本当に彼に告げていいのだろうか・・・・・・)
宰相のリリカと軍師であるエミリオが調べた、戦争の真相。
報告によってもたらされた情報は、彼に自責の念を抱かせた。もっと早く手を打っておけば、こんな結果にはならなかったと、激しく後悔している。
(しかし、隠すわけにはいかない。私は彼の軍師なのだから)
帝国軍参謀長寝室。エミリオは意を決して、寝室の扉を軽く叩いた。
「リック、話がある。入ってもいいかい?」
少し間をおいて、寝室の中から返事が帰って来る。
「・・・・・エミリオか?」
彼は驚いた。昨日までは、誰が何を聞いても返事がなかった。
もしも返事がなければ、部屋に強引に入ってしまう気でいたエミリオ。大切な話であるから、どうしても聞いて貰いたかったのである。
返事をしたと言う事は、エミリオと話す気があると言う事だ。昨日までとは明らかに違う。
「・・・・・入ってくれ、鍵は開いてる」
「わかったよ」
扉を開き、寝室に入室したエミリオは、彼の姿を探す。
彼はすぐに見つかった。寝室のベッドの上で、一冊の本を抱きかかえて横になっている。
本の名前は、戦妃リクトビア。少女が彼に託した、一冊の絵本。
「リック・・・・・」
「・・・・・話って、なんだ」
寝室の主、リックは彼に問う。
酷い顔をしていた。気力を失った、エミリオが忠誠を誓う主の姿。あの日から、彼は戦いの勝利と引き換えに、大きな代償を支払い、大切な主君を失った。その時の心の悲しさと痛みは、想像を絶するものだったはずだ。
それでも、リックの心はまだ生きている。エミリオには、それがわかった。
「今の君に・・・・この話は酷かもしれない。でもね、君はこの真実を知らなければならないんだ」
「真実・・・・・・?」
誰にも聞かれてはならない話。これは国家機密に値する真実だ。
リックへと近付き、彼の耳元で声を潜めて話す。詳しい事は省き、伝えなければならない事を。
エミリオが話し終えるまで、リックは黙って全てを聞いた。そして、死んでいたはずの彼の眼に、怒りの炎が燃える。
「これが、真相だった。私が君の言う通りにしていれば、陛下たちは・・・・・・!」
自責の念に囚われ続け、後悔し続ける。この先エミリオは、己の死の瞬間でさえも、この事を後悔し続けるはずだ。
あの日の悲劇は、仕方のない事ではなかった。結果的には、彼が先に手を打っていれば、阻止できた事だった。
そうすれば、リックは傷つく事がなかった。その思いが、彼に自責の念を抱かせ続ける。
「リック、私を恨んでくれていい。殺してくれたって構わない」
自分は役立たずの無能者。忠誠を誓う主の、大切なものを守る事が出来たのに、失ってしまった。殺されたって文句は言えない。
「でも待って欲しい。私は、君を傷つけた者たちを決して許さない。彼らに裁きを与えるまで、私は死ねないんだ」
彼の決意は固い。そして揺るがないだろう。
だがリックは、エミリオを恨んでなどいない。恨むべきは・・・・・・。
「最も恨む相手は、自分自身だ」
「リック・・・・・」
「真実を、教えてくれてありがとう。俺は、やるべき事を果たす」
ベッドから起き上がった彼は、抱きしめていた絵本に視線を移す。
本の表紙には、戦妃リクトビアと書かれている。その名前は、かけがえのない少女が彼に与えた、願いの込められた名前。
「やるよ、ユリーシア。俺は、君との約束を果たす」
リックは立ち上がる。絵本をベッドの傍の戸棚にしまい、寝室の扉へと向かう。
部屋から出ようとする彼の背中は、新たな覚悟を背負っていた。その背中を見つめ、憂いの心が一層強くなるエミリオ。
「エミリオ、命令だ」
「・・・・・はい、参謀長閣下」
「今から言う者たちを集めろ。大至急だ」
帝国軍参謀長、リクトビア・フローレンスは動いた。
託されたこの国の未来のために。そして、果たさなければならない、たった一つの約束のために。
見張りの兵が持つランプの明かりや、通路の各所に灯された明かりはあるものの、城内は夜の闇と静寂に支配されている。
そんな城の通路を、一人の男が歩いていた。足音が、静かな廊下に響き渡る。
彼は寝室に向かっていた。だが、自分の寝室にではない。向かっているのは、彼の主たる、帝国参謀長の寝室だ。
長髪と眼鏡姿が特徴的の、帝国軍軍師エミリオは、未だに迷いを感じながら、目指していた寝室の前に辿り着く。
(この真実を、本当に彼に告げていいのだろうか・・・・・・)
宰相のリリカと軍師であるエミリオが調べた、戦争の真相。
報告によってもたらされた情報は、彼に自責の念を抱かせた。もっと早く手を打っておけば、こんな結果にはならなかったと、激しく後悔している。
(しかし、隠すわけにはいかない。私は彼の軍師なのだから)
帝国軍参謀長寝室。エミリオは意を決して、寝室の扉を軽く叩いた。
「リック、話がある。入ってもいいかい?」
少し間をおいて、寝室の中から返事が帰って来る。
「・・・・・エミリオか?」
彼は驚いた。昨日までは、誰が何を聞いても返事がなかった。
もしも返事がなければ、部屋に強引に入ってしまう気でいたエミリオ。大切な話であるから、どうしても聞いて貰いたかったのである。
返事をしたと言う事は、エミリオと話す気があると言う事だ。昨日までとは明らかに違う。
「・・・・・入ってくれ、鍵は開いてる」
「わかったよ」
扉を開き、寝室に入室したエミリオは、彼の姿を探す。
彼はすぐに見つかった。寝室のベッドの上で、一冊の本を抱きかかえて横になっている。
本の名前は、戦妃リクトビア。少女が彼に託した、一冊の絵本。
「リック・・・・・」
「・・・・・話って、なんだ」
寝室の主、リックは彼に問う。
酷い顔をしていた。気力を失った、エミリオが忠誠を誓う主の姿。あの日から、彼は戦いの勝利と引き換えに、大きな代償を支払い、大切な主君を失った。その時の心の悲しさと痛みは、想像を絶するものだったはずだ。
それでも、リックの心はまだ生きている。エミリオには、それがわかった。
「今の君に・・・・この話は酷かもしれない。でもね、君はこの真実を知らなければならないんだ」
「真実・・・・・・?」
誰にも聞かれてはならない話。これは国家機密に値する真実だ。
リックへと近付き、彼の耳元で声を潜めて話す。詳しい事は省き、伝えなければならない事を。
エミリオが話し終えるまで、リックは黙って全てを聞いた。そして、死んでいたはずの彼の眼に、怒りの炎が燃える。
「これが、真相だった。私が君の言う通りにしていれば、陛下たちは・・・・・・!」
自責の念に囚われ続け、後悔し続ける。この先エミリオは、己の死の瞬間でさえも、この事を後悔し続けるはずだ。
あの日の悲劇は、仕方のない事ではなかった。結果的には、彼が先に手を打っていれば、阻止できた事だった。
そうすれば、リックは傷つく事がなかった。その思いが、彼に自責の念を抱かせ続ける。
「リック、私を恨んでくれていい。殺してくれたって構わない」
自分は役立たずの無能者。忠誠を誓う主の、大切なものを守る事が出来たのに、失ってしまった。殺されたって文句は言えない。
「でも待って欲しい。私は、君を傷つけた者たちを決して許さない。彼らに裁きを与えるまで、私は死ねないんだ」
彼の決意は固い。そして揺るがないだろう。
だがリックは、エミリオを恨んでなどいない。恨むべきは・・・・・・。
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