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第一章 近所の女児誘拐事件
2 盗撮
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七月の朝は早い。
世間は午前四時を深夜と呼ぶことは許さないようで、早すぎる太陽を迎え始めた街並みはすでに光を浴びて朝の顔をしていた。
閑静な住宅街で、俺は二階建ての一軒家を見上げている。ここが伽羅奢に指定された家だ。築二十年ほどの俺の実家よりは新しめなデザインだけど、最近のお洒落な家よりはちょっと古臭い。ごくごく普通の一軒家に見える。
「盗撮、か」
いや、盗撮ってなんだよ。意味がわからないし、無茶ぶりすぎる。
友人宅から一時間近くかけて歩いてきた俺は、のんびり歩きながら対象の家の前を通過した。というか、立ち止まれなかった。だって、徹夜で目をギラギラさせた男が家の前でじっと建物を見つめていたら、どう考えても不審すぎるだろう! まあ、盗撮しに来たわけだから不審者に変わりはないのだけれど。
そのまま二十メートルほど歩くと、そこにバス停があった。丁度いい。俺は時刻表を覗くふりをして、そのバス停から対象の家を監視する事にした。盗撮するには距離があるけれど、許容範囲内だ。これ以上近づいて、誰かに通報でもされたらたまらない。
それにしてもここ、なんなんだ。伽羅奢の家のすぐ近くじゃないか!
眠気もあって、無性に腹が立つ。伽羅奢のやつ、この距離なら盗撮でもなんでも自分でやれよ。たぶん伽羅奢の住んでいるアパートからここまで徒歩五分程度だ。俺がわざわざ友人宅から一時間もかけて歩いてくる必要がどこにある。
くそっ、とイラつきながら、寝不足の頭でぼんやり考えた。
伽羅奢は一体何がしたいんだろう。
この家は誰の家で、何故こんなに早い時間に盗撮をするのか。
というか、盗撮ってなんなんだよ。
しかし、俺の頭は睡魔と疲労で全然働かなかった。ぶんぶんと頭を振って考えを放棄する。考えたってわかる事じゃないもんな。頭を使うだけ無駄である。
それにしても眠い。
早朝の住宅街に面白いものなんてあるはずもなく、ただただ暇である。俺は代り映えのしない景色を眺めつつ、充電のなくなりそうなスマホを物理的にもてあそんでいた。
そのまま待つ事一時間。ようやく五時を過ぎた頃、ついに玄関が開いた。慌ててカメラを起動し、スマホを構える。
「……子ども?」
玄関を開けて出てきたのは小学校高学年くらいの女の子である。両手で荷物を持ち、小走りでこちらに向かってくる。
「やべっ」
接近する彼女の写真をギリギリ一枚だけ撮ると、俺はまた素知らぬ顔でバスを待っているフリをした。少女は小走りのまま俺の目の前を通過する。
――空き缶?
彼女はサバ缶や焼き鳥缶といった酒のつまみになりそうな缶のゴミを、両手で四つ五つ抱いている。俺の前を通り過ぎた彼女は、バス停の先にある公園へと入っていった。
「ゴミ捨て? むき出しのまま? こんな時間に?」
小学生くらいの少女には何もかもが不釣り合いだ。気にはなるが、俺の任務は盗撮である。俺は疑問に目をつむり、注意深く家を眺め続けた。
それから十分。公園の方から足音が近づいてきて、俺はまたそちらへ視線を向けた。
走って来たのはさっきの少女だ。しかも今度は手ぶらである。身軽なままスキップするように俺の前を通過すると、そのまま家の中へと入っていく。
「あらまあ、軽快だこと。つうか、やっぱゴミ捨てか。偉いねえ」
後ろ姿をもう一枚写真に収める。保存されていく画像を見て、俺はふと我に返り身震いした。やっぱり俺、これじゃ完全に犯罪者だよな。少なくともここに保存されたのは、見ず知らずの少女を盗撮した紛れもない証拠である。
「……何かあったら絶対に伽羅奢も道連れにしてやる」
俺は心に固く誓った。
世間は午前四時を深夜と呼ぶことは許さないようで、早すぎる太陽を迎え始めた街並みはすでに光を浴びて朝の顔をしていた。
閑静な住宅街で、俺は二階建ての一軒家を見上げている。ここが伽羅奢に指定された家だ。築二十年ほどの俺の実家よりは新しめなデザインだけど、最近のお洒落な家よりはちょっと古臭い。ごくごく普通の一軒家に見える。
「盗撮、か」
いや、盗撮ってなんだよ。意味がわからないし、無茶ぶりすぎる。
友人宅から一時間近くかけて歩いてきた俺は、のんびり歩きながら対象の家の前を通過した。というか、立ち止まれなかった。だって、徹夜で目をギラギラさせた男が家の前でじっと建物を見つめていたら、どう考えても不審すぎるだろう! まあ、盗撮しに来たわけだから不審者に変わりはないのだけれど。
そのまま二十メートルほど歩くと、そこにバス停があった。丁度いい。俺は時刻表を覗くふりをして、そのバス停から対象の家を監視する事にした。盗撮するには距離があるけれど、許容範囲内だ。これ以上近づいて、誰かに通報でもされたらたまらない。
それにしてもここ、なんなんだ。伽羅奢の家のすぐ近くじゃないか!
眠気もあって、無性に腹が立つ。伽羅奢のやつ、この距離なら盗撮でもなんでも自分でやれよ。たぶん伽羅奢の住んでいるアパートからここまで徒歩五分程度だ。俺がわざわざ友人宅から一時間もかけて歩いてくる必要がどこにある。
くそっ、とイラつきながら、寝不足の頭でぼんやり考えた。
伽羅奢は一体何がしたいんだろう。
この家は誰の家で、何故こんなに早い時間に盗撮をするのか。
というか、盗撮ってなんなんだよ。
しかし、俺の頭は睡魔と疲労で全然働かなかった。ぶんぶんと頭を振って考えを放棄する。考えたってわかる事じゃないもんな。頭を使うだけ無駄である。
それにしても眠い。
早朝の住宅街に面白いものなんてあるはずもなく、ただただ暇である。俺は代り映えのしない景色を眺めつつ、充電のなくなりそうなスマホを物理的にもてあそんでいた。
そのまま待つ事一時間。ようやく五時を過ぎた頃、ついに玄関が開いた。慌ててカメラを起動し、スマホを構える。
「……子ども?」
玄関を開けて出てきたのは小学校高学年くらいの女の子である。両手で荷物を持ち、小走りでこちらに向かってくる。
「やべっ」
接近する彼女の写真をギリギリ一枚だけ撮ると、俺はまた素知らぬ顔でバスを待っているフリをした。少女は小走りのまま俺の目の前を通過する。
――空き缶?
彼女はサバ缶や焼き鳥缶といった酒のつまみになりそうな缶のゴミを、両手で四つ五つ抱いている。俺の前を通り過ぎた彼女は、バス停の先にある公園へと入っていった。
「ゴミ捨て? むき出しのまま? こんな時間に?」
小学生くらいの少女には何もかもが不釣り合いだ。気にはなるが、俺の任務は盗撮である。俺は疑問に目をつむり、注意深く家を眺め続けた。
それから十分。公園の方から足音が近づいてきて、俺はまたそちらへ視線を向けた。
走って来たのはさっきの少女だ。しかも今度は手ぶらである。身軽なままスキップするように俺の前を通過すると、そのまま家の中へと入っていく。
「あらまあ、軽快だこと。つうか、やっぱゴミ捨てか。偉いねえ」
後ろ姿をもう一枚写真に収める。保存されていく画像を見て、俺はふと我に返り身震いした。やっぱり俺、これじゃ完全に犯罪者だよな。少なくともここに保存されたのは、見ず知らずの少女を盗撮した紛れもない証拠である。
「……何かあったら絶対に伽羅奢も道連れにしてやる」
俺は心に固く誓った。
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