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三十九杯目『ねこはこたつで』
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若干の既視感を伴う外装に、有紗は目を見張った。
古びた雰囲気の木製の壁。窓には障子。屋根は瓦。扉は引き戸。そして、いつもと違う板に書かれた『有栖川茶房』の屋号。和風甘味処の佇まいが復活していた。
「桂さん、またやらかしたんだね……」
彼には計画性などないことを決めつけた上で一人呟く。
引き戸を開けると、以前変化したときはそのままだったカウンターが、綺麗な白木の一枚板に変わっていた。椅子も、丸椅子から背もたれの高い椅子に変わっている。
奥のテーブル席だった場所は一面小上がりになって、こたつが二つ設置されていた。
「流石に……変わりすぎ……」
入り口で立ち尽くしていると、疲弊した顔の弥生がカウンターの中からこちらを見た。
「いらっしゃい、アリス」
「新年早々、大変だね」
「そう言って貰えるだけで俺、少し報われる……」
今回も無理をして色々準備をしたのだろう。顔を見るだけでそれを推し量れる。
「あー、アリスちゃーん。和喫茶『有栖川茶房』へようこそ~」
「桂さん、また急に思いついちゃったんでしょ」
「でも、こたつはいい案だと思うんだ~」
「そういうことじゃなくて……」
「アリスちゃんも暖まっていきなよ~」
引き返す理由はないので、引き戸を閉め、店の中に入る。
こたつには見知った人が背中を丸めて入っていた。
朝だ。
「アリス~。こっちこっち~」
手招きされたので、こたつ席へと向かう。靴を脱いで小上がりに上がると、朝の向かいに陣取った。中は掘りごたつになっていて足を下ろせるのがいい。
「ぶなぁ」
「てっさ。ここにいたんだ」
誰も座っていない場所からてっさが頭だけを覗かせている。こたつ布団をぺろりとめくってみると、それこそ布団のように広がってたいそうくつろいでいた。
――暖かそうで何より。
こたつ布団を元に戻し、まだ着たままだったコートを脱ぐ。
こたつの中に入っている足先がじんわりと暖まってきて心地いい。やはり冬はこたつに限る。実家を思い出し、自然と気持ちがのんびりしてくる。
「アリス、環からお年玉貰った?」
「う、うん……」
朝の問いかけにより、とんでもない中身だった封筒のことを思い出し、申し訳ない気持ちを思い出した。知り合いというだけで貰っていい内容ではなかった。今からでも返そうかどうか悩んでいるほどだ。
「環は人にあげたがりだからね。妃や宝と一緒だよ」
どうやら、朝は環のことを役ではなく名前で呼ぶことに決めたらしい。有紗としてはややこしくならないので非常に助かる。
「俺も貰ったし、真まで貰ってたし」
「真くんも……」
「あいつ、環より年上なのに」
「ええっ!」
「『わーい、ありがとー』だってさ。空気読みすぎてびっくりするよ」
「びっくりなのは年齢の方だよね……」
「知らない方がいいよ。見る目変わるから」
「うん……知らない方がよさそう」
世の中には知らない方が幸せなことがある。真の年齢についてもその類に違いない。
そんな話をしていると、弥生がお盆に何か載せてやってきた。
一つは有紗へのお茶。今日は水ではなくお茶の方針のようだ。
もう一つは、朝へのお椀と湯飲みだ。
「朝くんは何頼んだの?」
「お雑煮と甘酒」
覗き込むと、お澄ましタイプの汁に餅とナルトが浮いた雑煮と、とろみがありそうな甘酒だ。
「へぇ、ここのお雑煮ってこのタイプなんだ。俺の実家だと味噌なんだ」
「雑煮って一口に言っても色々あるからな」
いつの間にか弥生がこたつの中に足を入れている。
物珍しそうにしている朝を前に、何が珍しいのだろうと思っている有紗がいた。
「私のうちはこれと同じタイプ。そんなに色々あるんだ?」
「お澄ましに、味噌に、汁粉仕立てもあるし。餅の代わりに里芋入れたりするところもあるし、種類上げ始めたらキリが無いぜ」
「へぇ。そうなんだ。知らなかった」
何かのきっかけがないと、他の地方や家庭の味に気付くことは中々ない。後で調べてみようと思いながら、有紗はメニューを手に取った。
朝が頼んだ雑煮や甘酒の他、お汁粉、磯辺餅にきなこ餅まである。前回の和喫茶が抹茶づくしだったことを考えれば、中々充実した内容だ。
「アリスはどうする?」
「そうだなぁ。お汁粉と、甘酒貰おうかな」
「餅ならうちで余ったの沢山持ってきたからどんどん食っていいぞ」
「そういう内部事情は暴露しなくていいから!」
餅を使ったメニューが多いのはそういうことか。
「つきたてが一番いいんだけどなぁ。流石にペッタンペッタンするわけにもいかねぇから」
「でも、妃さんのおうちとか環さんのおうちならどっちかお餅ついてそう」
「妃んとこはやりかねないけど、やってるとは聞いたことないな」
伸びる餅と格闘している朝は、
「環の家もやってないよ」
とのこと。
「そっかぁ」
未だつきたてのお餅というものを有紗は食したことがない。テレビで見る限り柔らかくて手に負えないイメージがある。ただ、その柔らかさが美味しそうに見える。機会があればとは思うが、その機会に恵まれない。
「いいなぁ、つきたてのお餅かぁ」
カウンターの中で話を聞いていた桂が、ゆらゆらしながら不穏なことを言い始めた。すぐさま危険を察知した弥生が釘を刺す。
「桂、やるとか言い出すなよな。大体、臼と杵どうするんだよ。てか、誰がつくんだよ」
「宇佐木くんがつけばいいじゃない。月でウサギは餅ついてるんだし」
「俺がやったら腰やっちまうから。それに、月で付いてるのは餅じゃねぇの」
「違うの?」
「薬」
「へー、そうなんだ。知らなかったー」
「とにかく、餅つきはナシ」
「ちぇー」
さも残念そうに桂は口をへの字に曲げた。そして目を少し細めると、
「宇佐木くん。いつまでこたつにあたってるの?」
「だってそこ、足冷えるんだもん。桂もこっち来ててっさ退かして一緒にあたろうぜ。甘酒持ってさ」
「そんなおサボり、駄目なんだからね」
「ちぇー」
今度は弥生が口を曲げる。
彼は渋々こたつから出ると、カウンターの方へと戻っていった。
さて、注文の品が届くまで手持ち無沙汰だ。てっさはこたつの中でぬくぬくしているので構えないし、本を広げるのも何か違う気がした。
何をするか決められず、ひとまずお茶を飲むことにした。玄米茶だ。香ばしいいい香りがする。
温かいお茶に一息吐いて、なんとなく物足りなさを感じた。
――何だろう……。
猫はすぐそこでこたつに入っている。丸まってはいないが、こたつに猫。これはばっちりだ。
お雑煮、甘酒、お汁粉と、こたつに似合いそうなものは既にあるかこれから来る。
「うーん……」
「どうしたの、アリス」
今度は箸に付いた餅と格闘していた朝が有紗を見た。
「何か足りない気がして」
「足りないって、何に」
「この空間っていうか、この場所に……」
足が温まってきて、身体がぽかぽかしてきている。こうなってきた頃に摘まみたい、オレンジ色の――。
「そうだ。ミカンが足りないんだ! 桂さん。ミカンはないの?」
「流石にミカンまでは用意してないなぁ。でも大事だよねぇ、雰囲気って。取り寄せようかなぁ」
雰囲気重視の桂のことだ。明日、明後日にはこたつの上にミカンが置かれているに違いない。
「アリスも変なとこ気付くよなぁ」
お汁粉と甘酒を持ってきた弥生が、ぼやくように言った。
「私が欲しいって思ったから言ってみただけなんだけど」
「ありゃすぐに何処かから仕入れるぜ?」
「仕入れすぎないといいんだけど……」
「調子に乗ってやりかねないからなぁ」
そうなってしまった場合、言い出しっぺとしては責任を感じる。桂が加減を持って仕入れますように、と祈りながら、お汁粉に沈む餅を箸で取った。
久しぶりに食べた小豆の味が、身体に染みる。餅を囓っては汁に付けてを繰り返しながら食べ進める。途中で甘酒を一口。甘いもの同士のコンボにしたのは失敗だったが、自家製と思しきこの甘酒、飲みやすくて進む。
「暖まるー」
温かいものを身体に入れて、少し汗ばんできたのを感じていた。それを、偶に入ってくる隙間風が冷やしていく。
お椀の中の餅が無くなった頃、気付けば朝の姿が見えなくなっていた。
横から覗き込むと、こたつ布団を抱えて丸まって横になっている。
「おいこら、朝。寝るんじゃねぇよ」
「だってぬくいんだもん」
小上がりに腰掛けて休んでいた弥生が、朝の頭をぺちぺちと叩いている。朝はその手を払い、終ぞこたつ布団を被ってしまった。
「三十分だけ」
「三十分だけって……。ここはそういう昼寝スペースじゃねぇの」
「じゃあ、十五分」
「時間の問題じゃねぇっての」
「いいじゃない、他にお客さん来ないでしょ?」
「来るかもしれないから駄目」
「じゃあ……十分……」
「朝、おまえ……って、もう寝てるよ」
寝てしまわれては敵わない。弥生も諦めて、手を引っ込めた。
「おやすみ三秒だね。羨ましい」
眠りたい気持ちはよくわかる。身体が温まってしかも暖かい場所に足を入れていては眠気も降りてくる。
「ふああぁ……」
欠伸が出た。目尻に浮いた涙を拭いて、最後の甘酒を飲み干す。
「アリスも眠いのか?」
「お腹温まったから眠くなっちゃった」
「アリスも寝るとか言い出すなよな」
「それはしないよ。でも、……」
朝も猫も寝てしまった。
「羨ましいな。せめてミカン食べたい」
「無い物ねだりすんなよ。それは後日」
「はーい」
こたつでミカンを食べることを妄想しながら、ぬるくなったお茶を飲みきった。
古びた雰囲気の木製の壁。窓には障子。屋根は瓦。扉は引き戸。そして、いつもと違う板に書かれた『有栖川茶房』の屋号。和風甘味処の佇まいが復活していた。
「桂さん、またやらかしたんだね……」
彼には計画性などないことを決めつけた上で一人呟く。
引き戸を開けると、以前変化したときはそのままだったカウンターが、綺麗な白木の一枚板に変わっていた。椅子も、丸椅子から背もたれの高い椅子に変わっている。
奥のテーブル席だった場所は一面小上がりになって、こたつが二つ設置されていた。
「流石に……変わりすぎ……」
入り口で立ち尽くしていると、疲弊した顔の弥生がカウンターの中からこちらを見た。
「いらっしゃい、アリス」
「新年早々、大変だね」
「そう言って貰えるだけで俺、少し報われる……」
今回も無理をして色々準備をしたのだろう。顔を見るだけでそれを推し量れる。
「あー、アリスちゃーん。和喫茶『有栖川茶房』へようこそ~」
「桂さん、また急に思いついちゃったんでしょ」
「でも、こたつはいい案だと思うんだ~」
「そういうことじゃなくて……」
「アリスちゃんも暖まっていきなよ~」
引き返す理由はないので、引き戸を閉め、店の中に入る。
こたつには見知った人が背中を丸めて入っていた。
朝だ。
「アリス~。こっちこっち~」
手招きされたので、こたつ席へと向かう。靴を脱いで小上がりに上がると、朝の向かいに陣取った。中は掘りごたつになっていて足を下ろせるのがいい。
「ぶなぁ」
「てっさ。ここにいたんだ」
誰も座っていない場所からてっさが頭だけを覗かせている。こたつ布団をぺろりとめくってみると、それこそ布団のように広がってたいそうくつろいでいた。
――暖かそうで何より。
こたつ布団を元に戻し、まだ着たままだったコートを脱ぐ。
こたつの中に入っている足先がじんわりと暖まってきて心地いい。やはり冬はこたつに限る。実家を思い出し、自然と気持ちがのんびりしてくる。
「アリス、環からお年玉貰った?」
「う、うん……」
朝の問いかけにより、とんでもない中身だった封筒のことを思い出し、申し訳ない気持ちを思い出した。知り合いというだけで貰っていい内容ではなかった。今からでも返そうかどうか悩んでいるほどだ。
「環は人にあげたがりだからね。妃や宝と一緒だよ」
どうやら、朝は環のことを役ではなく名前で呼ぶことに決めたらしい。有紗としてはややこしくならないので非常に助かる。
「俺も貰ったし、真まで貰ってたし」
「真くんも……」
「あいつ、環より年上なのに」
「ええっ!」
「『わーい、ありがとー』だってさ。空気読みすぎてびっくりするよ」
「びっくりなのは年齢の方だよね……」
「知らない方がいいよ。見る目変わるから」
「うん……知らない方がよさそう」
世の中には知らない方が幸せなことがある。真の年齢についてもその類に違いない。
そんな話をしていると、弥生がお盆に何か載せてやってきた。
一つは有紗へのお茶。今日は水ではなくお茶の方針のようだ。
もう一つは、朝へのお椀と湯飲みだ。
「朝くんは何頼んだの?」
「お雑煮と甘酒」
覗き込むと、お澄ましタイプの汁に餅とナルトが浮いた雑煮と、とろみがありそうな甘酒だ。
「へぇ、ここのお雑煮ってこのタイプなんだ。俺の実家だと味噌なんだ」
「雑煮って一口に言っても色々あるからな」
いつの間にか弥生がこたつの中に足を入れている。
物珍しそうにしている朝を前に、何が珍しいのだろうと思っている有紗がいた。
「私のうちはこれと同じタイプ。そんなに色々あるんだ?」
「お澄ましに、味噌に、汁粉仕立てもあるし。餅の代わりに里芋入れたりするところもあるし、種類上げ始めたらキリが無いぜ」
「へぇ。そうなんだ。知らなかった」
何かのきっかけがないと、他の地方や家庭の味に気付くことは中々ない。後で調べてみようと思いながら、有紗はメニューを手に取った。
朝が頼んだ雑煮や甘酒の他、お汁粉、磯辺餅にきなこ餅まである。前回の和喫茶が抹茶づくしだったことを考えれば、中々充実した内容だ。
「アリスはどうする?」
「そうだなぁ。お汁粉と、甘酒貰おうかな」
「餅ならうちで余ったの沢山持ってきたからどんどん食っていいぞ」
「そういう内部事情は暴露しなくていいから!」
餅を使ったメニューが多いのはそういうことか。
「つきたてが一番いいんだけどなぁ。流石にペッタンペッタンするわけにもいかねぇから」
「でも、妃さんのおうちとか環さんのおうちならどっちかお餅ついてそう」
「妃んとこはやりかねないけど、やってるとは聞いたことないな」
伸びる餅と格闘している朝は、
「環の家もやってないよ」
とのこと。
「そっかぁ」
未だつきたてのお餅というものを有紗は食したことがない。テレビで見る限り柔らかくて手に負えないイメージがある。ただ、その柔らかさが美味しそうに見える。機会があればとは思うが、その機会に恵まれない。
「いいなぁ、つきたてのお餅かぁ」
カウンターの中で話を聞いていた桂が、ゆらゆらしながら不穏なことを言い始めた。すぐさま危険を察知した弥生が釘を刺す。
「桂、やるとか言い出すなよな。大体、臼と杵どうするんだよ。てか、誰がつくんだよ」
「宇佐木くんがつけばいいじゃない。月でウサギは餅ついてるんだし」
「俺がやったら腰やっちまうから。それに、月で付いてるのは餅じゃねぇの」
「違うの?」
「薬」
「へー、そうなんだ。知らなかったー」
「とにかく、餅つきはナシ」
「ちぇー」
さも残念そうに桂は口をへの字に曲げた。そして目を少し細めると、
「宇佐木くん。いつまでこたつにあたってるの?」
「だってそこ、足冷えるんだもん。桂もこっち来ててっさ退かして一緒にあたろうぜ。甘酒持ってさ」
「そんなおサボり、駄目なんだからね」
「ちぇー」
今度は弥生が口を曲げる。
彼は渋々こたつから出ると、カウンターの方へと戻っていった。
さて、注文の品が届くまで手持ち無沙汰だ。てっさはこたつの中でぬくぬくしているので構えないし、本を広げるのも何か違う気がした。
何をするか決められず、ひとまずお茶を飲むことにした。玄米茶だ。香ばしいいい香りがする。
温かいお茶に一息吐いて、なんとなく物足りなさを感じた。
――何だろう……。
猫はすぐそこでこたつに入っている。丸まってはいないが、こたつに猫。これはばっちりだ。
お雑煮、甘酒、お汁粉と、こたつに似合いそうなものは既にあるかこれから来る。
「うーん……」
「どうしたの、アリス」
今度は箸に付いた餅と格闘していた朝が有紗を見た。
「何か足りない気がして」
「足りないって、何に」
「この空間っていうか、この場所に……」
足が温まってきて、身体がぽかぽかしてきている。こうなってきた頃に摘まみたい、オレンジ色の――。
「そうだ。ミカンが足りないんだ! 桂さん。ミカンはないの?」
「流石にミカンまでは用意してないなぁ。でも大事だよねぇ、雰囲気って。取り寄せようかなぁ」
雰囲気重視の桂のことだ。明日、明後日にはこたつの上にミカンが置かれているに違いない。
「アリスも変なとこ気付くよなぁ」
お汁粉と甘酒を持ってきた弥生が、ぼやくように言った。
「私が欲しいって思ったから言ってみただけなんだけど」
「ありゃすぐに何処かから仕入れるぜ?」
「仕入れすぎないといいんだけど……」
「調子に乗ってやりかねないからなぁ」
そうなってしまった場合、言い出しっぺとしては責任を感じる。桂が加減を持って仕入れますように、と祈りながら、お汁粉に沈む餅を箸で取った。
久しぶりに食べた小豆の味が、身体に染みる。餅を囓っては汁に付けてを繰り返しながら食べ進める。途中で甘酒を一口。甘いもの同士のコンボにしたのは失敗だったが、自家製と思しきこの甘酒、飲みやすくて進む。
「暖まるー」
温かいものを身体に入れて、少し汗ばんできたのを感じていた。それを、偶に入ってくる隙間風が冷やしていく。
お椀の中の餅が無くなった頃、気付けば朝の姿が見えなくなっていた。
横から覗き込むと、こたつ布団を抱えて丸まって横になっている。
「おいこら、朝。寝るんじゃねぇよ」
「だってぬくいんだもん」
小上がりに腰掛けて休んでいた弥生が、朝の頭をぺちぺちと叩いている。朝はその手を払い、終ぞこたつ布団を被ってしまった。
「三十分だけ」
「三十分だけって……。ここはそういう昼寝スペースじゃねぇの」
「じゃあ、十五分」
「時間の問題じゃねぇっての」
「いいじゃない、他にお客さん来ないでしょ?」
「来るかもしれないから駄目」
「じゃあ……十分……」
「朝、おまえ……って、もう寝てるよ」
寝てしまわれては敵わない。弥生も諦めて、手を引っ込めた。
「おやすみ三秒だね。羨ましい」
眠りたい気持ちはよくわかる。身体が温まってしかも暖かい場所に足を入れていては眠気も降りてくる。
「ふああぁ……」
欠伸が出た。目尻に浮いた涙を拭いて、最後の甘酒を飲み干す。
「アリスも眠いのか?」
「お腹温まったから眠くなっちゃった」
「アリスも寝るとか言い出すなよな」
「それはしないよ。でも、……」
朝も猫も寝てしまった。
「羨ましいな。せめてミカン食べたい」
「無い物ねだりすんなよ。それは後日」
「はーい」
こたつでミカンを食べることを妄想しながら、ぬるくなったお茶を飲みきった。
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