12 / 16
第四章
4-3
しおりを挟む今度は、マイキューが足りない。
3人で自転車に乗って、ロゴスブロックを受け取ってきて、いざマイキューで本番用の装備を作ろうとして壁にあたってしまった。3人の装備をつくるには、お父さんの部屋にあったマイキューだけでは足りないのだ。
「カイキのお父さんは、どうやってマイキューを作っていたの?」
「わからない。お父さんとアザリアなら作れるんだろうけど」
「この部屋に作る道具はなさそうだしね」
「あっても、俺らじゃ使えないだろ」
「じゃあさ、カイキのお父さんの会社の人に頼んで、工場とかで作ってもらえないかな」
「シャンバラのこと、簡単に信じてもらえるかなあ。お父さんはあっさり信じたけど」
「カイキの親父さんの仕事場なんだから、同じような人が集まっているんじゃないのか?」
そうかなあ。ジャングーを見てもらえれば、すごいロボットがいることはわかってもらえるけれど、異次元世界とかは信じてもらえないんじゃないだろうか。下手したら警察に通報されるかもしれないし。
「でもマイキューがないと、何もできないよ」
ユイナの言うことはもっともだ。マイキューがないと、ぼくらはただの子供でしかない。マイキューとロゴスブロックがそろってはじめて、力を発揮できる。
ジャングーが手をあげた。
「カイキさま。お父さまから渡されたハンディタイタンを貸していただけますか?」
「いいけれど、どうするの?」
「この世界に介入することは避けていたのですが、こうなってはそうも言っていられません」
ぼくはハンディタイタンをジャングーにわたした。
ジャングーは自分の胸の蓋を開けて、ケーブルをひっぱりだし、ハンディタイタンにつないだ。
「つながるの?」
「この世界の汎用的なシリアルバスについては、事前に調査済みです。私にはもともとこの世界の機械と接続する機能がそなわっているのです」
そしてキーボードに向かい、手をかざした。ガチャンという音とともに、10本の指が割れて、20本になった。そして高速にキーボードをタイプしはじめた。
ぼくらは誰もジャングーに話しかけられない。じっと見守っていた。
10分ほどして、ジャングーが手を止めた。
「お父さまが残してくれた情報と、工場の状況を把握しました。最新版のマイキューの設計情報は手元と開発サーバにあります。これを工場の設備に流し込めば、マイキューを生産することができますが、出来上がったものをどうやってシャンバラに運べばいいのかという問題があります」
え? え? マイキューを作れるってこと?
「できたら、バケツリレーみたいにして、シャンバラへのトンネルに運べばいいんじゃないのか?」
ヒガンがいうが、
「効率が悪すぎます。まだ直接製品の出口をトンネルにつないだほうがいいですが、確実にみつかります」
ジャングーが却下する。
そうだよなあ。見つからないようにするのが難しい。ちゃんとした生産ラインにのせようっていうんだからなあ。
うーん。
何か思いつきそうなんだけどなあ。お父さんならこういう時、どうするだろう。アイデアをひねるにはどうすればいいって言っていたっけ? くみ合わせる? ひっくり返す?
「そうねえ、運び出しているのがゴミとかだったら、見つからないんでしょうけど、ねえ」
ユイナが言うのを聞いて、それだ! と思った。
「そうだよ、ジャングー、それだよ! 工場の生産ラインに潜り込めるってことは、最後の動作試験の機械にももぐりこめるよね。そこで、全部欠陥品ってことにしちゃって、廃棄のほうに流しちゃうんだ」
「なるほど。それで廃棄ラインをシャンバラへのトンネルにつなげるわけですね」
「カイキすごい!」
「カイキえらい!」
それでいこう!
さっそく荷物のじゅんびをして、お母さんにみつからないように裏口から家を出る。外はもう暗くなっていた。
最後にちょっとだけ振り向いて家を見た。お母さんが知ったら何ていうかを想像してみる。でもきっと、「なんとしてでも帰ってきなさい」とか「お父さんが逃げないように首のところつかんでいなさい」とか、そういうことな気がした。ぼくの勝手な思い込みだし、子供が親の思うように育たないのと同じように、親も子供が想像していることの斜め上を考えていたりするものだろうけど。
お父さんが勤めるおもちゃ会社の工場は、自転車で30分のところにあった。自転車モードのジャングーで走っても大丈夫か不安だったけれど、夜ということもあり、誰にもみつからなかった。
ぼくらは工場の横を流れる大きな川の川原を陣地にすることにした。
「カイキさま。ドローンを作ってください」
「ドローン? あのプロペラが4つあるヘリコプターみたいなの?」
「そうです。ドローンを中継器にして、工場の内部ネットワークに侵入します。その後は、おまかせください」
「やってみる」
ドローンってどういう形だっけ。どういう機能だって。どういう動きをするっけ。どうやって飛ぶんだっけ。頭に浮かぶイメージは、何かの動画と写真で見たものそのものだ。これなら作れる。
ロゴスブロックを組み合わせる。正確にイメージするんだ。大丈夫。できる。ぼくには確信があった。
「できた。マイキュー! 形になれ!」
ハンディタイタンを操作する。マイキューがぞろぞろと集まって結合し、ドローンができあがる。
「ジャングー、これ」
「ありがとうございます。飛ばします」
ドローンがふわりと浮かぶ。そして工場のほうに飛んでいった。今度はジャングーの仕事だ。
「屋上に着地。ネットワークコネクタを探します。……接続。生産ラインのセグメントに侵入します。これが見つかったら、お父上は怒られますね」
「え! そうなの?」
「冗談です。いえ、冗談ではないですね。怒られるでしょう。会社をクビになるかもしれません。進みますか?」
「うん。進むよ。お父さんならそうするはずだ」
ぼくは迷わなかった。
「了解です。生産ラインのうちのひとつを占拠します。……検品機能を置き換え。すべての生産物を不良品としてマークします。不良品と廃棄設備を接続しました……。廃棄設備は外部につながっているようですね。好都合です。境界遷移装置の終端を廃棄物移動車両の内側に設置します。これなら見つかりません。……タスク生成……実行します」
工場からは、廃熱のための巨大なファンの音がずっと続いていて、とくに変化はない。
「うまくいっているの?」
「ドローンを少し移動させます。カメラの画像をハンディタイタンに転送します」
みんなで画面をのぞきこむ。そこには、ベルトコンベアーに運ばれて、マイキューがつぎつぎと廃棄物と書かれた車に吸い込まれている映像が写っていた。
「このまま私たちもシャンバラに乗り込みましょう。背中につかまってください」
ジャングーが立ち上がった。関節の動きを確認してから、しゃがんだ。ユイナとヒガンが、その背中によいしょとつかまる。
ぼくは迷わないときめた。ベッドにもぐるのはもう終わりだ。今度こそ、お父さんとアザリアを取り戻すんだ。
ジャングーの背中にしがみつく。
「行こう」
「一気に飛びます」
ジャングーはロケットのように飛び上がり、一気に急降下。工場の駐車場に急旋回して入り込み、マイキューが吸い込まれている車の中に飛び込んだ。
うずまきが、ぼくらを飲み込んだ。
編集
0
あなたにおすすめの小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
カリンカの子メルヴェ
田原更
児童書・童話
地下に掘り進めた穴の中で、黒い油という可燃性の液体を採掘して生きる、カリンカという民がいた。
かつて迫害により追われたカリンカたちは、地下都市「ユヴァーシ」を作り上げ、豊かに暮らしていた。
彼らは合言葉を用いていた。それは……「ともに生き、ともに生かす」
十三歳の少女メルヴェは、不在の父や病弱な母に代わって、一家の父親役を務めていた。仕事に従事し、弟妹のまとめ役となり、時には厳しく叱ることもあった。そのせいで妹たちとの間に亀裂が走ったことに、メルヴェは気づいていなかった。
幼なじみのタリクはメルヴェを気遣い、きらきら輝く白い石をメルヴェに贈った。メルヴェは幼い頃のように喜んだ。タリクは次はもっと大きな石を掘り当てると約束した。
年に一度の祭にあわせ、父が帰郷した。祭当日、男だけが踊る舞台に妹の一人が上がった。メルヴェは妹を叱った。しかし、メルヴェも、最近みせた傲慢な態度を父から叱られてしまう。
そんな折に地下都市ユヴァーシで起きた事件により、メルヴェは生まれてはじめて外の世界に飛び出していく……。
※本作はトルコのカッパドキアにある地下都市から着想を得ました。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる