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第39話○自信なのか?無謀なのか?

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「ちょっ…ちょっ…ちょっと待ってよ!」
「何~?まだ何かあるのぉ~?」

 取り敢えず魔王が止まった……

 もう面倒くさい、とりあえず勝負をやるぞ!
 みたいなノリで彼女は仕掛けてきたのだが……
 掛け声の話はどうなったんだ……

 その原始人的思考は止めなさい。

 とは言っても彼女にそんなことを言ってしまった瞬間、俺の中で死と言うものが訪れてしまうかもしれないので……

 それよりも何よりも、今までの俺であれば彼女の暴挙にて一気に自分の全てを崩されて全てがアウト!
 と言うことも多くあったのだが……

 今回の俺の行動は壁際㎜の勢いでギリギリセーフと言えるだろう。

 チキンレース?
 いやいや、チキンレースのチキンと言うのは臆病者と言う意味なのだろう?
 それであれば、この場合の行動は偉業と言った方がしっくり来るのではないだろうか!
 やはり今の俺は、以前とは違う!

 一皮むけた!

 えっ……?
 どこがとかって……
 そう言うことは言わないようにしましょう。

 やっぱり最初は痛かったのか?
 って?
 いや、確かに痛かったのかもしれませんが……
 そう言うことではないです……

 今回、最終的に痛がるのは魔王ですからね、しっかりと見ててください。
 とは言え、今の段階ではまだ決めていないこともあるので、前が見えなくなっている雌牛を取り敢えずはいさめて交渉の方を煮詰めていくことにする。

「いや、おい。いきなり始めるぞって言われてもさぁ……どのくらい賭けるとか、そういう具体的な話とかもないだろ?それに掛け声は俺からって……」
「あー……、ん~……」

 多少柔らかくではあるが、一切の悪びれた表情などなくシレーっとした表情の魔王が機嫌を損ねないようにしながら俺は言う。
 そして、そんな俺の言葉を聞いて彼女は一気に黙りコクってしまった。
 
 ほんとにあいつの無鉄砲さと来たら……
 やっぱアイツ後ろにチャックついているんじゃないのか?

 チャックを開けたらカピパラとかその辺がのっそりと出てきそうな気がするんですが……
 ちなみに俺が前に調べたときは見当たらなかったので、隠してあるとしたらかなり厳重にしていると思われる。

 それにしても具体的に唐揚げとケーキをどうするのか、この詳細が決まっていないうちは勝負をするわけにはいかないだろう。

 そこまでしてケーキを食べたいと言うのか?
 やはり彼女には一度、しっかりとしつけと言うものを教えてやらねばいけないようだ。 

 あれほど掛け声は俺からとか念を押していたのに、それを平気で破ろうとするとか……
 あの外道は全くもって考えられないことばかりをやって来る。
 ルールと言う文字を知らないのだろうか……
 いや、ヤツのことだ「ルールでしょ?書けるに決まってるじゃない」とか言う答えをなんの悪びれもなく返してくるだろう。

 人外の生物なのだから仕方がないのかもしれないが……
 いやぁ~、恐ろしすぎる。
 こういう形での恐怖アピールは俺の望むところではないのだが……

 でも、今の彼女の行動で分かったことが一点あった。
 彼女は俺との約束で、俺の方から掛け声をかけると言う約束をしていたのにも関わらず。
 それを平気で破ってきたと言うことは、やはり友達のジャンケンの必勝法と言うのは、自分から声を掛けることで成立する類いのものなのだろう。

 と言うことはだ……
 と言うことは、やはり俺の読み通りと言ったことなのだろう。

 この少ない情報から読み取る見事な洞察力!
 見た目は大人、頭脳は子供の名探偵であるこの俺の名推理が炸裂した瞬間と言える!

 そして魔王の狙いが分かったところで、後は華麗な攻めと言うのもお見せしたい。
 
 やはり!
 今まで温存していた一子相伝の殺人拳を見せる場面と言うことなのであろうか?

 『お前のジャンケン必勝法と言うのはもう死んでいる』
 フッハッハぁ~!
 魔王、破れたり!

 などと思っていると……

 「あー…、信ちゃん。そんな心配してたんだぁ~。そっかー、それならさぁ~。もう一層、一回総取り勝負にしない?」

 何てことを彼女が言い出してきたのだ。

 ん?
 一回勝負?
 俺は耳が悪くなったのか?
 そう思いながら……
 
「えっ……一回総取り?」
「うん、一回総取り、分かりやすくていいでしょ!」

 彼女のとんでも爆弾発言に思わぬ形で漏れた俺の一言。
 それを彼女は丁寧に拾い念を押してきたのだが……

 どうやら彼女の反応と言葉などを見る限り、一回勝負と言うのは彼女の言い間違いと言う感じでは無いようだ。

 えっ?
 こいつは自分で何を言っているのか分かっているのか?

 何を考えているのだ?

 一回総取り勝負と言うことはだ、一瞬で決まってしまうと言うことなのだぞ。
 勝った方がケーキも唐揚げも両方を独り占めできると言うことなので、恐らくお前のことだ俺のケーキを一発で奪えるからと考えているのかもしれないが……
 それは即ち一歩間違うとお前は唐揚げさんに奴隷解放宣言を行わなければいけないと言うことを分かっているのか?

 お前の余裕と言うのは一体どこから出てくると言うのだ?

 俺にはヤツが自信と無謀をはき違えているようにしか思えなかった。
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