神業(マリオネット)

床間信生

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☆第2章☆リエン山

2ー89★窓から見えた不思議な光景

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恐る恐るではあるが、窓一つ無い部屋から出たフィリア。
小屋の状態を隅々まで確認はしたいのだが、下手に明かりなどをつけると周囲に知られる可能性がある。
何が待ち構えているのか、全く予想ができない現状。
もちろん周囲にはナカノやフェンだけしかいないというのであれば、全く問題はないのだが、先ほど二人が出て行ってまだ帰ってきていないということは周囲に異常がある可能性というのが高いはず。
そう考えた彼女は若干の緊張を高めた。

ノルドの言葉では小屋の周囲には結界があるらしいから、モンスターがここまで入ってくるということは可能性的には小さいようだが、それでも危険というのは他にも考えられるだろう。
なので先ずは安全性と言うのを考慮する意味で、周囲を警戒するために彼女は明かりをつけないことを選択した。
また明かりをつけないと言うことは、部屋の中が真っ暗なので、怪我などしないように注意深く進んでいかねばならない。
そう思った彼女は、若干不安に思いながら四つん這いで周囲の探索を始めた。

洞窟にいた頃は、もう慣れたと思っていた夜の移動。
僅か数日しかたっていないのに、たった独りで寂しく過ごしていた、あの頃とは違う。
ナカノをはじめとする者に関わった影響からか、少し不安に感じる自分がいた。

今いるのは位置的には恐らく部屋に閉じ籠る前まで彼女らがいた、みなで居間のように使っていた部屋。
玄関から二人が帰ってきたはずであれば彼らはこの部屋にいる可能性というのが高いのだが、この部屋からは音も聞こえないし気配もないことから誰もいないのだろう。

やはりまだ二人が外から帰ってきていないのを確信した彼女は、外の様子を除こうとカーテンの隙間から外の様子を確認すると…

辺り一面は完全に夜。
その夜の中で外は二ヶ所だけ小さな明かりが灯っている場所があった。
明らかに不自然な場所に他ならない。
位置的には小屋よりは、どちらかというと結界の周囲に近い位置に思える。
もう少し結界よりであれば、結界の外側も確認できたのかもしれない。

もちろん彼女はこの時、結界に数えられないほどのモンスターが押し寄せている等ということは想像もしていなかった。
もし仮に明かりがもう少し後ろの方にあり結界周辺を確認できていたら、彼女は大人しく部屋の中に戻っていたのかもしれない。

そんな詳細が分からない彼女は無責任に悔しがりながら、他に頼りとなるものはないか二つの光を改めて注意深く見直す。

と言うのも一切の音は聞こえない静かな状況の中で、周囲の状況から手がかりになりそうなものは、あの二つの光くらいしかパッと見た感じ見当たらないからだ。

真っ暗な中にある不思議な光、緊張した面持ちで彼女はただひたすら見つめる。

二人が外にいるはずと思っている彼女は、外の暗さと音が聞こえないことに不安を覚えてしまう。
とは言っても、今の状態で確認できるのは二ヶ所の小さな明かりだけに、彼女自身が何を思おうとその光を注意深く見るしかなかった。

すると遠くからだが、うっすらと両方の明かりから人影のようなものが確認できた。
明かりが小さいことと光と小屋の距離も関係しているのだろう。
細かい顔などは分からない。
だが、僅かな明かりが照らす二人が身に付けていているものから推測するに、彼らが身に付けているのは先ほど彼女が見た覚えるのあるものばかりだったことから、二人はフェンとナカノなのだろうと想像をするのだが…
それにしては彼女にとって分からないことが一点あった。

顔は見えないとはいえ、二人のおよその立ち位置などは、明かりを便りに彼女も想像することができる。
その想像から思うに彼ら二人は、恐らくだが向かい合っているような印象を受けた。
それもお互い大人四人分ほど離れた位置で、会話することもなく…

『えーっと…、あそこでお二人は何をやっているのでしょうか…』

もうずっとお互い黙って見合っているだろう二人に対して彼女は小屋の中から何度も、そう呟いていた。
だが、誰も答えるものなどいない。
彼女は少し時間をおいた後で、首を捻るだけだった。

明かりが二つしかないとはいえ、彼らは先ほどから静かにしていることから、少なくとも小屋の結界の中においては安全なのだろうということは彼女でも予想がつく。

その点に関しては彼女はホッと胸を撫で下ろした。
帰ってこないだけに、何か事故にでも巻き込まれたのでは?
と心配していたのだが、そう言った心配は無いようだ。

だが、それであれば逆に納得いかないこともある。
と言うのも、もし二人が何かを見つけたとかいうのであれば、結界の外を見ている可能性が高いはず。
それであれば普通は二人がお互い見つめ合うのではなく、二人で結界の外側を見る状況になるはずと考えたからだ。

見れば見るほど分からない。
考えれば考えるほどに不思議に思う。
彼女は何度も独り言を呟きながら首を捻る。

無言で一定距離でお互いが見ているだけ…
顔の表情などがわかれば、彼女なりにも何か違った見方があるのかもしれないが、夜の暗がりでは理解も不十分になってしまう。

『何か手がかりはないでしょうか…』

彼女は、何度も同じことばかりを言っていた。
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