世界のためなら何度でも

つぼっち

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八個目のエンディング

Hエンド

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会いたい。

ゼロに、ミルドに、正義に、ユイに、ハジメに、天之川に、アレイスターに。

おれのなかで聞こえないはずの声が聞こえる。

頑張れと、諦めるなと。



俺の帰りを待ってくれている人がいる。

ここで諦めたら永遠に戻ることはできない。

やってやる、


「あぎぃらべぇてだめぁるげぇぁ!!」

潰れた喉で叫んだ声があたり一面に響き渡る。

それに呼応するように心臓がドクンドクンと激しく波打つ。

止まらない止められない、

今の俺はなんでもできる気がするんだ。



俺は力の限り暴れ回った。

巨大に、異形に変形した体がドシンドシンと地を撃ち、近くにいた生物は皆潰されて死んでいく。

暴れたままズルズルとぐちゃぐちゃに変形した足を引きずりながら辺りを蹂躙する。

そして近くにいた人間をブチリと踏み潰した瞬間、



ファァァ。


脳みそが切り離されて天に昇るような感覚。

これは世界が移り変わる感覚だ。

もう何百と繰り返したこの感覚だが、今回は何かが違う。

いつもと違い、何か満たされた感覚があるのだ。



次に目が覚めるとそこは先ほどまでいた世界とは違う世界だ。

肌で感じる魔力も違うし空気の重さも匂いも何もかもが違う。

唯一違うのは自分が人間の姿に戻っているということだ。

今までは世界が変わるたびにどんどん巨大に、気持ち悪い形になっていっていたが今は完全な元の人間の姿に戻っている。

すると足が勝手に今向いていた方向と逆の方向に進み始めた。

「??」

ぺたんぺたんと裸足のまま地面を歩く。

この歩くという感覚もなかなかに久しぶりだ。

俺はどんどんと自分の意思に関係なく進んでいく。

荒野を越え、砂漠を越え、荒廃した村を超え、今は川の中を泳いでいる。

水に触れたのも久々だ。

前までは巨大な体を維持するためにとんでもない熱を帯びていたため、水など少し近づいただけで蒸発していた。

冷たくて気持ちいい、それでいて心が洗い流されるようだ。

川を抜け、どんどんと進む俺の足。

途中にフェンスで囲われている森があったがそれも軽々と超えて歩いている。

そして森を抜けた先には綺麗な草原があった。

目を凝らせば奥に倒壊した趣味の悪い城や国を囲う門も見える。

「ここは……。」

かつてゼロとミルドと出会った土地。

ここは俺が求めていた元の世界だった。

足が止まる。

なぜだろうと足元を見てみると、二つの墓が立っていた。

左の墓と右の墓は少し距離がある。

左の墓には輝かしい剣、右の墓には立派な盾の装飾がされており、それぞれに名前が彫られている。



『勇敢なる王の剣 ミルド』

『絶対的な王の盾 ゼロ』



「やっと…………。」

俺は全身の力が抜け、墓と墓の間に倒れ込んだ。

「ただいま、二人とも。」

涙が地面にこぼれ落ちる。

これで、よかった。

ありがとう。









後日、その草原の近くの国に住んでいた彼らの子供たちが男が墓近くで倒れているのを発見。

男はすでに息を引き取っており、その男の正体が1000年間以上行方不明であった国王だったと判明。

その子供たちは両親の墓の真ん中に倒れていた国王の墓を建てたそうだ。


その時の国王の死顔(しにがお)はとても満たされたような表情だったと言われている。








世界のためなら何度でも-END
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