魔法少女は死んだ

ラムダム睡眠

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17話 ■の証明

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『その箱の中にあるのは私のコア。もしシノがよかったら、このコアを受け取って欲しいの』

 書かれていた量は遺言の中で最も多いと感じた。3枚目、4枚目と続くほど。
 コアの詳細。なぜコアだけが残されたのか。これから起きるであろう未来。これから起こりうる災害・デステイカー。
 魔法少女として国を守ってきた六花にしかわからないような情報の数々。無数の情報に絡まりながら、私は一つの文面にたどり着いた。

『コアを抜き取ってしまえば、私は徐々に死んでいくって、ナビィが遠回しに伝えてくれた。どんな病院でも何もできないんじゃないかな。だからそうなる前に、死んでおこうって思ったの。私は私のままシノの記憶の中で死にたいから。シワシワで痩せ細った私なんて、嫌でしょ?』

 目の前でつぶやいていたらぶん殴っている。天国だろうが地獄だろうが、行けるものなら六花の元に行って怒鳴ってやりたい。
 私は六花の「姿」が欲しかったわけじゃない!!!
 多分六花はわかっているのだと思う。だけど心のどこかで、僅かかもしれないしほとんどかもしれないけど、信じきれなかったんだろう。疑ってしまったんだろう。
 悲しさは悔しさに変わる。

 私は今まで、こんな疑問を抱かせてしまうようなことをしてきたんだ。

『だけどね、こうも言われたの。コアを受け取った人間は魔法少女にはなれないかもだけど、魔力を作れるようになるって。だからね、このコアを受け取って欲しいの』

 立ち上がって。初めて箱に手をかける。
 ゆっくりと開く

「!!」

 こぼれそうになった光を閉じ込める。何かいけないものが飛び出たような気がして、手紙の続きを読む。

『受け取って、この国のみんなを助けて欲しい。この国が平和なら、シノも平和に生きられると思うから。悪い取引じゃないと思うけど、どうかな?無理とかなら気にしないで。その箱を受け取ってくれるだけで、それだけで私は満足だから』

(何も満足していないくせに。死んだら満足できるようになるのかよ)

『デステイカーがもし誰かのせいで生み出されているのなら、魔法少女が死んだってことがみんなに知られたら、動くと思う。勝手なんだけど、そんなみんなのことをシノには守って欲しい。あなたが好きじゃないみんなを、あなたの手で』

 その後もつらつらと続く文章は、多分1ヶ月後くらいになったら忘れるであろうものだった。一緒にいてくれてありがとうとか、あの日あーしたのが楽しかったとか。

 全部読み終わった。1時間以上経っていた。私はようやく手紙を机の上に置いて、箱を開ける。

 白く光る手のひらサイズの光の珠。光なのに確かに感触がある。綿のような、毛糸玉のような、雪のような、水のような、暖かくて冷たい、不思議な感触の珠。
 珠を、抱く。大切に、大切に。赤ちゃんを抱くように、心臓の鼓動を効かせるように。
 消えていく珠。私の中に、解けゆく珠は、確かに私の中に入っていると自覚する。
 暖かい。心臓。
 締め付けられる。胸。

「いつまで経っても、わがままなんだから」

 涙を拭う。ずっと零れ続けている涙を拭う。
 きっと今の私は酷い顔をしているだおる。だけど六花の親の前で涙を見せるわけにはいかない。
 私の涙は証明だから。私が六花を■していた、そしてこれからもリッカを■するという、短い証明。

 ◆◆◆◆◆

 思い出した。私が「魔法少女」代理になった理由を。なろうとした理由を。

(右腕、動かない。ああ、なくなったのか、どうりで痛みが消し飛んだと思った。デステイカーが近づいてくるし、拳銃を………)

 左の脇に、手をかけられない。右手でホルスターの拳銃を抜く取れない。
 右腕の幻肢。それにそもそも、さっき拳銃を入れ替える時に抜いてたんだった。もうなくなった右腕が握りしめてるけど。

(右腕はない。頭に入れとこ)

 左手で脇のホルスターの拳銃を抜き取る。
 戦闘体勢。

 ゆっくりと体を起こす。片腕がないからバランスに違和感があるけど。
 始めるために。1歩前に踏み出すために。取るに足らない自らの体を立ち上がらせる。
 全身の関節が錆びている、そう思うほどに体が軋む。全身あちらこちらから筋肉痛の何倍もの痛みが響くし、特に左の脇腹が痛みを肥え激しく熱を帯びているし、なぜか右半身は顔含めて熱くてたまらないし、全然デステイカーのことは怖いし、今度は左腕も取られるかもと思うし、今からでも逃げ出してしまいたいし、というか苦しすぎてさっさと楽になりたい。

(六花、私はね、あなたの言う通りにはなれないんだよ)

 名も知らぬ誰かを守りたいわけじゃない。英雄を気取る気なんて毛頭ない。私は私が1番大事で、世界の平和も邪悪の祭典も、私さえよければ勝手にやってくれて構わない。
 次の瞬間に子供を蹴り飛ばさないなんて保証はない。隣の老人に殴りかからない保証もない。
 昔からそうだった。常に自分の感情を理性の首輪につけてないと社会に溶け込める自信はない。
 誰よりも邪悪であると誤認し、そうならないように行動する。
 ”ヒト”らしく、”ヒト”のように生きようとする。
 多分私は、デステイカーと変わらないほどの怪物なのだろう。

 勇気を携えた冒険者にはなれない。
 忠義を尽くす英雄にはなれない。
 悪逆に生きる殺人鬼にもなれない。
 人を脅(おびや)かす化け物にもなれない。

 それでも私はただ1人、「錦野六花」に愛された「一般人」にすぎない。

 だからこそ。
 まだ死なない。まだ死ねない。死んで後悔はしたくない。
 怪物に手を差し伸べてくれた六花に合わせる顔が無い!

「早くこい、化け物。私があなたを救ってあげるから」

 3度目の荊の攻撃。さっきはこの攻撃に不意を突かれた。だからこうなった。
 なら今度は「そう」ならないようにすればいいだけの話。

 避ける。避ける。避ける。避ける避ける避ける。

(楽しいっ!)

 不思議と体が舞う。手の指の感覚も脚の感覚もないのに、今自分が立ってるのか走っているのかもわからないのに、生きているかどうかすら怪しいのに。
 軽い!スキップでもやりたい!軽くて軽くて、楽しい!!!

 全ての攻撃が見える。どこからどんな攻撃が来るのか、どの覚悟で、どの速度で、どの威力で、それらが全て目で見てわかる。
 万象が見える気になっているわけじゃない。本当に見えている!

「あっははははは!!!!!気でも違ったのかな私!!!!!こんなに怖いのに、こんなに恐ろしいのに、あなたを救えない気がしない!!!!!」

 デステイカーは諦めたのか、全ての荊を引っ込める。そして体を低く構え、今すぐにでも飛び出してもおかしくない体勢になる。

「ねえ六花見てる!!?今私、今まで一番あなたに近づいたよ!!!!!」

 瞬

 消えたデステイカー

 否、消えてない。

 高速で、超高速で突進して

 ガゴオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!

 背中から建物が崩れる音。私が吹き飛ばされた時の比じゃない。建物一つがガラスと瓦礫と共に降ってくる。そんな瓦礫の雨の中、化け物ながら苛立ちを隠せないデステイカーがゆったりと姿を現す。

「ふ~、危ない危ない。避けてなかったら死んでたよ全く」

 私を襲おうとした両手を、銃弾8発で弾き飛ばす。ついでに2発ずつ両足に撃ち込んだから、投げ飛ばされるようにしてデステイカーが建物に突っ込んだ。闘牛のように、尋常じゃない威力と共に。
 120%以上の力が漲る、そんな気がする。魔力が際限なく湧いてくる。上下の感覚もわからないけど、視界もぐにゃぐにゃしていて酔いそうだけど、したいことが全部できる。そんな気がする。
 そんな気しかしない!!!

「次で終わらせるよ、化け物。怪物と化け物、どっちが強いか試してみる?」

 これ以上続いてもジリ貧だし、こんな馬鹿げた力いつまで続くかわからないし、どうせ私は重傷でいつ死んでもおかしくないし、できることは生きている間にやっておきたい。
 私の言葉が伝わったのか、デステイカーがレスラーのように腰を低くし、タックルでも仕掛けてきそうに構える。
 先ほどまでとは違う。おもちゃで遊んでいただけだったのに、自分と同じ力を持つ同種と出会い、自らが同種に負けてはならないと本気120%を出し切るように。

 今なら、為せる。確信する。
 六花の死後、私の中で明らかになった命題を証明できる。
 六花の生前に為せなかった、果たせなかった、果たす自信がなかった、果たすことを恥じていた、そんなただ1つの命題。自ら拒んで落ちた地獄を闊歩する私に突きつけられた、そんな私の手をずっと握ってくれた六花との繋がりを示すための証明。

 故に、””。
 私の証明がきっとリッカにも届くことを。

 <ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!>

 デステイカーの咆哮。ほんと、口はどこにあるのやら。

「はあああああ!!!!!」

 拳銃を捨てる。最後の拳銃を太もものホルスターから取り出す。
 ”願い”が全く無駄なものでも、祈りがいつか天に届くと信じて。

 デステイカーが突っ込んでくる。先ほどの倍、と言うにはあまりにも威力がある突進。山ですらくり抜くような比類なき一撃に、殺意と憎悪と醜悪とを混ぜて、純然たる暴力が「代理」の私に向けられる。
 同時に襲い掛かる荊。おそらくデステイカーが繰り出せる全ての荊。避け方を間違えれば確実に死ぬくせに、避ける方法は数えるほどもないくらいの、卑劣で無情な荊たち。

 最適解は1つだけ。それ以外は全て死を意味するということ。

(ま、無理なんだけどね)

 普段から100%の力なんて出せっこない。無限に湧くであろうデステイカーを屠るために常に100%の力なんて出したら、いつか急に倒れる。実際90%の力しか出してなくても、カタツムリかなんかのデステイカーの時に倒れたし。
 そんな私が120%以上の力を発揮している。それが何を意味するのか。

 跳ぶ。地面に刺さる荊たちから避ける。空中で襲いくる荊たちは銃弾で防ぐ。込めた魔力量がいつもと違うから、弾が当たった荊は潰れ、空中で速度が0になる。
 だが弾は有限だから、いくつか撃ち込んだ後は

 空気を蹴る。もう一段階空に跳ぶ。

「がはっ!!!!」

 タックルしてきていたデステイカーの左肩。後ろには建物。私を建物と自らの体で挟んで潰し殺す気だ。

 だが、これでいい。この状況が、ピッタリだ。

 空気を蹴る。

 <!!!!?????>

 衝撃。それは私にも、デステイカーにも。
 デステイカーも大層驚いているようだ。まさか空気を蹴るという行為1つだけで、自分のタックルの威力が相殺されるなんて思わなかっただろう。

「いっだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 左足が使い物にならなくなった。骨も筋肉も丸ごと粉々になっただろう。激痛なんてレベルじゃない。潰された方がまだマシだったかもしれない。

「だけど、それでも!!!!!」

 化け物の胸に咲く1輪の花。茨を巻くその花に銃口を向ける。

「証明なんだ!!!これは!!!!!」

 この命が続く限り、証明し続けよう。
 この世の誰もが笑うような戯言を証明し続けよう。
 六花の生前には果たせなかった、果たすことができなかった、たった一つの命題を解き続けるんだ。

 たとえ世界中を敵に回しても、私は六花のことを愛していると。

「くらえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」

 1発の銃弾が放たれる。魔力を込めた銃弾、空気の中をかき分けながら、私が望む方向へと突き進む。
 音を置き去りにして、私が願うままに。祈るままに。為すがままに。

 その銃弾は、祈りに似た愛だ。

◆◆◆◆◆


 17話 愛の証明


◆◆◆◆◆

 血を吐く。片膝というにはあまりにもぐちゃぐちゃに肉と骨が露わになった足を地面につける。左手を地面につけて、自らの体をたった1本になった腕で支える。顔から汗が出て、顔の右側だけが汗が染みて痛みを感じる。
 目の前に横たわっているのは若い男。20代から30代くらいだろうか。死んでいるように眠っている。

(おつか、れ。化け物だった、あなた。と、私)

 さっきまでの軽さが嘘だったこのように体が硬まる。全身の苦しさを我慢して、叫び出しそうな痛みを晴らす余力もなく、中から吐き出しそうな塊を堪えながら、血汗溜まりの自分を見つめる。
 顔の右半分の皮膚がない。赤い肉が露わになり、まぶたは焼け焦げ、左側も砂と埃で汚い顔面をさらに汚く見せている。

(すっごい、ブサイクな顔、してる。私)

 破顔う余力すらもうない。実際こうやって体を支えるだけで精一杯だ。少しでも力が抜けたら意識は消える。痛みで意識が飛びそうなのを必死で堪えているというのに。

(拍手の、一つもないの、か。薄情な、奴ら、め)

 せっかく私が命をかけてデステイカーを倒したというのに、賞賛の言葉の1つもくれないのか。お前たちのような意味のない命でも守ってやったというのに。
 それがもしかすると、これまで40人以上殺してきた報いかもしれない。神様が許さないのかも。
 まあ、いい。別に、賞賛をもらうために今日まで生きてきたわけじゃないのだし。

(ああ、美玲)

 服がボロボロになった美玲が走ってやってくる。たった1人で、この交差点の真ん中の私に向かって。喜んでいるような悲しんでいるような複雑な表情が、私がどんな状況なのかを明確に表しているような気がした。

(だめ、だ。動けない。私から、は、そっちに行けない)

 だけど、こっちにきてくれるだけで私は嬉しい。拳銃でも、ハンドルでも、デステイカーでもなく、ようやく、見知った人に触れられるのだから。
 かなり危ない状況だった。拳銃は撃った数を考えると残り2発。少しでも何かを間違えてたら、もしかしたら今頃死んでいたのかもしれない。
 ま、今の私が生きているだなんて言える状態でもないけど。

(少しだ、け、休もう、かな。意識、が、途切れない、程度に、ね)

 目も瞑れない。寝そべりもできない。こうやって体を支えるのでさえ、フルマラソンの後の全力疾走くらい厳しいことなのだから。

「!!」

 胸に、激痛。もう全身痛みに悶えている上の、激痛。

 蔓のような、荊?棘?13本が、心臓を避けるように私の胸に突き刺さっている。

「な、ぜ」

 目の前の男はヒトの形を保ったまま眠っている。もうデステイカーはいない。
 なのに、なぜ。

 ゆっくりと体が持ち上げられる。蔓自体の力はそんなにないのに、私が全然抵抗しないから、されるがままに空を仰がせられる。

「シノ!!」

 こちらに走ってくる影が1つ。確認するまでもなく、私は引き金を引いて牽制する。

「なっ、シノ!?」

 さっきから私の名前しか言ってないな。他に言うことはないのだろうか。

 <魔力炉心、確保>

 声が聞こえる。ドス黒い憎しみを纏った男のような声、女のような声。怨嗟と呼ぶにふさわしい声。

 <1度死を偽装したところで何も変わらぬ。幾度となく頻繁に葬儀人を出力し続けたが、悉くが打ち倒された。小賢しい貴様の罠に、まんまと嵌められた。「魔法少女」よ。今こそ貴様の炉心を戴いてやる>

 なるほど、と腑に落ちた。
 こいつか。ここにいたのか。
 関東圏に多かったのはこれが原因か。

 全ての言葉が、単語が、伏線が、辻褄が、繋がる。合う。

 <どうだ?小賢しい策を講じ、2年以上潜伏した努力が全て水泡に帰した気持ちは。そしてこの2年もの我が怨み、受けるがいい!>

「ぐ、ぁあ」

 心臓に荊が突き刺さるる。痛みを叫ぶ元気もない。うめくことしかできず、荊のなすがまま、されるがままに天を仰がれる。

「シノォッ!!!!!」

 美玲が叫ぶ。私を助けんと走っている足を止めない。
 引き金に指をかける。
 1発撃つ。残された力で。
 予想外のことなのか、美玲の足が止まる。戸惑い、こちらを見る。

「こっ、ち、きちゃ、ダメ」

「そ、そんなのできるわけないでしょ!!!!!あんた死にかけもいいところでしょうが!!!!!」

「ダメ、だか、ら。きちゃ、ダメ」

 弱く掠れた隙間風のような声に、美玲も、納得あしてなくともゆっくりとすり足で私から離れていく。
 光がちらっと映る。車の信号が青になってる。なのに人も車も動こうとしない。

 灰色の雲が覆う空。太陽の光もなく、どんよりと重々しい鋼のような雲は冷たい風もない今ではゆっくりと流れているだけ。何もせず、しようとしないまま。あるがままに。

(これくらい、が、ちょうど、いい、結末、かもね)

 私は怖かった。誰かを愛することが。誰かに愛されることが。
 無意識に愛していないと意地を張り、無意識に愛されていないと見栄を張った。
 こんなにも愛してくれる人がいたのに。愛せる人がいたのに。

(死ぬ前に、わかっ、ても、、まぁ、後悔、が、残る、よりは、マシ、かな)

 手に持つ拳銃を持ち上げる。重く痛く苦しく辛い動きにくい左手で。夢のような心地で、本当にあがっているかどうかもわからないけど、そう願い、そうしようとする意思だけは確かにある。

 <貴様の思惑通りにはさせぬぞ、「魔法少女」!>

(ちがう。のに)

 訂正する気はない。心臓周りを貫いた荊が、続いて心臓へと。





 しろ。


 ひかり。





『そんなこと、させないよ。私の大切な恋人だもの。手出しはさせない』


 信託のような天使のような光。


 <な、何だ!?!?お前は!?!?!?>

 私の心の臓からの白く眩い光。ゆっくりとかたどられていく人型に、耳にタコができるほど聞き覚えのある声に、私は思わずため息をついた。

「ずっと、いたんだ。”六花”。そこに」

 14歳の学生服の少女は”何らいつもと変わりなく”、屈託のない笑顔を私に向ける。

『ずっといたよ。ここに。お疲れ様、シノ。こんなにボロボロになっちゃって』

「哀れまなくていいから。遺言、聞いてあげたでしょ?最後の仕事は、頑張って」

『はいはい、話は誰もいないところがいいものね。全く、シノの秘密主義に付き合う身にもなってよ』

「今の私に指図する気?」

『そのカード強すぎるんだけど』

 あの頃のまま、あの頃の会話。もっと喋りたくなるほどに嬉しくて、同時に悲しくて。

『じゃあ先に向こうで待ってるからね、きちんと用事を済ませてからこっちにきてよ?』

「うん。あぁそうだ。先に行ってるなら、私の”課題”、解いといてよ」

 え~?と六花は意義を申し立てる。だけどそれ以上何も言わず、分かったような顔になって、

『全くもー、しょうがないなーシノは』

 嬉しそうに愚痴をこぼした。

 <なんなんだ、何なんだこれは!!なぜ2人分の反応がある!?!?!?>

『せっかく愛しの恋人との話だったのに。そーいうの、野暮って言うんだよ』

 私が苦手なものの1つに、怒っている人、と言うのがある。複数より1人の方が、他人より身近なヒトの方が。ずっとずっと怖く見える。
 特に六花のなんて、1度見ただけで泣きたくなるほどに。

『野暮なあなたに、とびきりの罰を与えてあげる。魂を喰らおうとしたのだもの。そんなあなたにふさわしい、魂の応酬で』

 <やめ、やめろ!!我が恩讐は果たされていな………ガアアア!!!>

 六花の体が光となり、荊中に溶け込んでいく。夜に咲く花に差し込む光のように。
 電気でも走っているかのように荊が暴れ出す。グネグネと暴れて、突き刺している私のことなんて気にしないで、抉るようにもがき続けてる。

 <こ、コアの力か、これが………これが魔法少女のコアの力なのか!ならば、こいつの体を器にして、「種」を植えてしまって>

「そんなことさせないよ。バーカ」

 ようやく持ち上がった拳銃。荊がマークしているど真ん中に、花を添えるようにあてがう。

「今まで一番六花に近づくよ」

(たった一つの優しさに飢え、たった一つの恋を拒み、失った愛を目指し吹雪の中で踠き続けた、人命を踏み躙る簒奪者の臭い。なんて悪臭がするんだろうね)


 血染めの拳銃が火花を咲かせた。


 脆く崩れゆく荊。支えられない私の体は、自然の法則に従って地面に落ちる。
 もはや痛みなどない。苦しみなどない。あるのは全身を覆う安堵感。今の季節の布団の中よりも暖かくて心地よく、ずっと体を委ねたくなるような感覚。

 あとは目を瞑るだけ。ふと浮遊感と、アスファルトの硬い感触と、遠くから聞こえる喧騒。それら全部が意味を成さず、私の中に溶け込んでいかない。
 今日はこれだけ頑張ったんだから、少しくらいは、休みたい。いくら怪物でも、疲れる時は、疲れるんだから。

(あ、雪)

 曇天から零れ出る小さな雪。しんしんと降る雪に、今の季節が何なのか、知ることができる。

 そういえば、そうか。今日は、クリスマスイブ、だったんだ。

(あぁ、でも)

 できることも全部やって、証明もやり切って、一つだけ心残りを見つけてしまった。
 何で今、こんなことを。
 どうせ休むなら、「そっち」で休みたかった。

「おんせん、いきたかったなあ」

 残された1つの後悔くらいは、この世に残しておいたほうがいい。私の末路にしては優しすぎるくらいだから

 ゆっくりと目を瞑る。目元に落ちて、涙に溶けた雪。
 全ての痛みも、全ての苦しみも、全ての後悔も、命でさえ差し置いて、意識だけが暗く深い水底に沈み込む。
 いつまでも、安らかに。安らかに。
 もう2度と私は目を開くことはない。
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