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バイウエルの言葉とフィーネの困惑

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 もちろんフィーネの側にいる人々に、王妃様のお茶会について聞いてみた。

「王妃様も考えられたわね」
 ミリア様は微笑んで、それ以上は答えてくれない。
 それどころかお茶の飲み方や王宮以外の高位貴族の方から招かれるお茶会の時の暗黙のルールなど、なぜかミリア様から指導が入るようになった。

「そうらしいな。……そうらしいね。王妃様だけじゃなく、陛下からも聞いたよ」
 父は汗を拭きまくって目をそらす。

コモン兄は「俺は何も知らん。何も知らん」
 逃げ腰で言うだけ。

 シャープ兄だけが「俺たちからは何も言えないんだ。もう少し事態が進まないと。詳しくは殿下から、王太子殿下だぞ。殿下に聞いてくれ」
 こっそり教えてくれた。

「王太子殿下! わたくし、王妃様のお茶会に行くとお茶ではなく、勉強ばかりなのです。まあお茶会ですもの、その合間においしいお茶と珍しくおいしすぎるお菓子は出てきますわ。ですけれどもなぜこんなにお茶会に呼ばれますの? 理由は王太子殿下に聞くようにと兄から言われましたわ」

 お茶会の帰りに王太子殿下に王宮の回廊で出会い、呼び止めた。

「説明なしでもわかるかと思っていたのだが、言葉にするほうがいいのだろうな。2か月後の王宮主催パーティーはわたしの婚約披露パーティーとなる。
今まで様々な令嬢と接してきたのはフィーネ嬢も知っている通りだ。私の側に長い時間一緒にいることができ、私自身も長い時間を一緒に過ごすことのできる人をずっと探していたのだ。やっと見つけることができた」

「……何を言われているのか分かりませんが、確かに王太子殿下はこれまでたくさんの令嬢とお付き合いをされてきましたね。その中からやっと婚約者を選ばれたのですね」
 何だか胸のあたりがムカムカしてきた。
 フィーネは胸に手を当てた。

「噂になった令嬢は付き合ったわけではないぞ。どういった性格なのか性質なのかを話をしたりそばにいることで判断していただけだ。だが、誰一人選ぶには不十分ということで今まで来てしまったが、やっと見つけたのだ。
フィーネ嬢、いやこれからはフィーネと呼ぼう。私のことは王太子殿下ではなくエルと呼んでくれ」

 確かに次から次へと側にいる令嬢が変わっていったけど、王太子殿下とその令嬢との距離は近かったじゃない。
 何を言ってるんだろう。

「……なぜわたくしが王太子殿下を愛称で呼ぶ必要があるのでしょうか」
「理由は一つだろう。わたしがフィーネを気に入ったからに決まっている。今の王妃のお茶会は王子妃教育だ。だが教師陣からもフィーネは淑女の鏡と言われるだけあり優秀だと評判だ。良かったな」

 フィーネが学園に入学したとき王太子殿下と抱き寄せんばかりに距離の近かった白百合の君、それより以前に婚約者に誰よりも近いと言われていたという噂がある青薔薇の君。つい最近では元気いっぱいで淑女からは程遠いが笑顔の素敵だった生徒会会計さん、彼女は男爵令嬢だったはず。その前にも殿下の周囲には3人くらいの見目麗しい令嬢が侍っていたのは知っている。

 どう考えても彼女たちは淑女の鏡と言われているらしいフィーネより所作も何もかも綺麗だった。青薔薇の君なんかフィーネがミリア様の次に手本としていたくらい素晴らしい人だった。

 どこをどうとってもフィーネが選ばれる理由が分からない。



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