ヴァーチャル・ラブ ~いつもあなたを好きでした。~

楠瀬 飛鳥

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本編

最後の贈り物

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母の葬儀が終わり、病院から引き揚げてきた母の荷物を整理した。

そうだ、あの指輪。

母が他界して葬儀を終えるまでの間、あまりの目まぐるしさに唯にメールをしていなかった。あの指輪のことも少し忘れていた。

“どうして、唯にプレゼントした指輪が母の形見になっているんだ?”

意味がわからなかった。
3袋になった母の荷物の整理を行い、最後にあの指輪が今、テーブルに鎮座している。
指輪を見る前に唯にメールを送るか悩んでいた。

『すぐにレスは来ないだろう。。。』

そう思って、唯に『元気にしてますか?体調は戻った?』と短いメールを送ってみた。
案の定、レスは来ない・・・。

そして、僕は指輪の箱に手を掛けた。
そっと蓋を開け、指輪を取り出してみた。

確認したかったこと、それは指輪の内側に唯の“Y”を刻印したことだった。
もし、“Y”があれば、間違いなく同じものということになるのであろう。

“Y”がある。

『おいおい、マジかよ。』
さらに困惑した。唯に渡した指輪との相違があるすれば、風化した箱だった。白かった箱が、ベージュになり角もすり減っていた。たった1日で、こんなになるはずはなかった。経年劣化にみるのと同じ状態だったからだ。自分が持っている“S”と刻印された指輪と並べても、間違いなく同じ指輪だった。
このペアの指輪は、風化しないプラチナ製だったこともあって、指輪自体は、作った時と同じ輝きを放っている。何も解決することができず、ひとまず指輪を箱に戻そうとした。

『ん? 蓋の内側になんかある?』

箱と同じように風化した紙が蓋の内側に貼り付くようにくっついたいたことに気づいた。
そっと破れないように、紙だけを取り出してみた。

『ん? メモ?』

四つ折りになった紙の内側に何か文字が書かれていることに気づいたからだ。
箱から剥離した時と同様に破れないように、そっと紙を開いていった。

“修、人を信じることは悪いことではないよ。”

僕の知っている母の筆跡だった。ちょっと震えたような筆跡は子供の頃から見てきたそのものだった。

『人を信じる?』

いぶかし気な気持ちだった時にスマホが震えた。

『メール配送遅延のご連絡』
『お客さまのメールは 0 時間の間、送信できませんでした。
1 時間経つまで、送信は繰り返し続けられます。』

これは・・・、サーバーエラーか、メアドが正しくない時に送信されてくるプロバイダーからのメールだ。

『唯のメアドが、もう存在していない』
そう思った。

唯は最後のメールで
『指輪、本当にありがとう! 私、ず~っと大事にする! 修に出会えたことで私は救われた。本当にありがとう。また、逢えるよね?だったら、その時にちゃんと自分の口でお礼を言わせてね。 こんな時にメールをくれてありがとう。お母さまが回復しますように!』
とレスしてきていた。

“私、ず~っと大事にする!”
“また、逢えるよね?”
“その時にちゃんと自分の口でお礼を言わせてね。”

頭の中で、様々なことが巡っていく。

母が最後に発した言葉。
“修、会いにきてくれてありがとうね。”

あの声、しゃがれた声ではなく、クリアな声・・・。
一瞬、鳥肌が全身を巡った。

『あの声、、、電話で聞いた“唯の声”、、、。そんなバカなことってあるのか?』

自問自答していると姉から電話が入った。

「ちょっとは落ち着いた? あんたさぁ~、母ちゃんが心配してたのよ。慎重な性格はいいんだけど、あまりに人を信じないと周りの人から警戒されてるんじゃないかな?って。」

「え?そうだったの?」
「だって、あんた、私のことも信用してないでしょう?」

「あ、、、そうかもね。。。」
「あの性格じゃ、結婚も出来ないんじゃないか?って。」

「そんなことを母ちゃんが言ってたの?」
「そうよ。だからさ、最後の最後まで心配してたのよ。でも、あんたが母ちゃんに指輪をプレゼントしてたのにはビックリしたわ~。」

「あ~。」

ハッキリした線は見えてない。けど、なんとなく母にはめられた感覚になった。

「姉ちゃん、ありがとうね。」

「え?お礼?何で?」

「うん、何となく。それに僕、もう大丈夫だよ。信じれる人は信じてみようと思ってるから。」

「あ、そうなんだ。だったらいいけど。私も母ちゃんの心配事を引き継ぐのか?とか思ってたからさぁ~。」

「あ~、そこはもう心配なし!大丈夫、大丈夫!」

「だったら、いいわ。じゃ、次は納骨だから、準備よろしくね!」

「おう!ちゃんとやっとく、段取りしとくんで、時間決まったら、連絡するよ」

「その話し方よ!段取りって、仕事じゃないんだからね!」

久しぶりに姉と子供の頃のような会話をしたように思えた。

“きっと、そうなんだ。”

母が心配のあまり、薄れゆく意識の中で、息子を心配し、その意識が“唯”という幻想を見せていたのかもしれない。時間と場所を超えて、僕の性格も理解した上で、完璧な女性を見せていたのだろう。

母の名前は“有希”。
そう“Y”なのだから、、、、。
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