パワード・セブン

絶対に斬れない刃

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第四章

パワード・セブン 第十二話

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とある少女がいた。
その少女は負けず嫌いで、自分がどれほど劣っていようとも負けを認めず、勝てるまで諦めることはなかった。
そんな少女の目の前にとある少年が現れる。
その少年はとは言い難いな人間であり、そんな人間を父親に持っていた。
故に、の家庭環境で過ごしていた少女は少年に勝てることは出来なかった。
が故に。
少女からしてみれば、であろうが、なかろうが、そんなことは関係はなかった。
ただ、勝てればそれでいいのだから。
だが、少年は少女に勝ちを譲らなかった。
それはそうだろう。
ではない家庭環境で育った人間が、の家庭環境で育った人間に負けることはないのだから。
それに、手を抜かれて負けるということも少女にとっては屈辱の他この上なかった。
そのため、手を抜かれた時はすぐに手を抜かれたんだと分かった。
故に、少年と少女はお互いに手を抜くことなく、真剣勝負で競い合った。
小さい時によくあることだと言われれば、それだけでしかないのだが、それでも、少年と少女はお互いを高め合った。
は端から見れば、友情を深めているとみられてもおかしくはなかっただろう。
自分にはないモノを持っている少年に少女は好意を抱いていたと見られてもおかしくはないのだ。
だが、少女にはそれがなんであるのかを知ることは出来なかった。
そうして過ごしていた毎日が終わりを告げてしまったのだから。
少女にとってはそれからが地獄だった。
競い合う人間もいないし、自分に釣り合う人間もいないのだから。
競い合うことなく高め合うこともない、つまらない日々。
こんな日々ならば、まだ少年といた方がまだよかった。なぜなら、あの頃が自分は生き生きとしていたのだから。
そうした日々を過ごしていた時だった。
再び、あの少年に出会えたのは。











教室に戻ってくると、涼子はハッハッハ、と豪快に笑い勇一の肩を叩いた。
「やっぱり、早いな!えぇ、勇一!」
肩を叩かれた勇一は肩をすくめると、涼子の言葉に答えた。
「父さんに鍛えられてるからな。」
「そうか、そうだよな!鉄也さんの息子だもんな!」
「・・・・・・・・・・何言ってんだ、お前。」
どこかに納得したかのように言う涼子に若干呆れた様子で勇一は言った。
とは言い難い、父親に育てられば、いやでもにはなれないだろう。
とすれば、勇一がとは縁の遠い体力と体術を身にはしなかったであろう。
故に、この目の前にいる少年は近くにいるようで遠くにいると涼子は感じた。
手は届くようでいて、届かないほどにまで遠くにいる。
勇一の隣には立てない。
彼の後ろをただ見ていることしか出来ないのだ。
彼の隣に立つことが出来たとしても、それは涼子自身が許せないし、許そうとも思えない。
だが。
彼の隣に今いるのは、涼子ではない別の涼子の知らない少女だ。
彼が誰と付き合おうが涼子の知ったことではない。
しかし、それが涼子にとっては腹立つことであるのもまた確かであった。
。」
「どうした、ルナ?」
そんなことを思っていたからであろうか。
彼と共に教室に向かっていたところに、彼を引き止める様にあの少女が彼に声を掛ける。
彼と彼女のやり取りに涼子はチッと舌を打つ。
別に今でなくともいいだろう、と。
彼と二人きりになっているのにも関わらず、をするか。
そうなると、つくづく運が付いてないと涼子は思って、彼の肩を押した。
「ほらよ、行けよ、勇一。」
「あん?んだよ、涼子?」
彼女の行動を不審に思った勇一は彼女に問い質す様に訊く。
だが、彼女は彼の言葉には答えずに、そのまま彼ら二人を置いて教室に向かって歩いて行ってしまう。
「ったく、なんだってんだ。ただの授業で本気出せって言ったりして。」
「なにかありましたので?」
彼女の行動に疑問抱く勇一にルナは彼が何をしたのかと問い質す。
しかし、訊かれても全く思うところがなかった彼は彼女にいいや、と首を振るだけであった。



















「らしくねぇ。ああ、まったく、らしくねぇぜ。」
勇一たちから距離を離した場所で、角を曲がって、彼らから見えないことを確認せずに壁に背中を預けると、涼子は頭を上にして、額に腕を当てた。
彼の隣にいる。
それが、どれほどのものか。
彼は鉄也という目標がある。
そして、涼子は強い父親を目標に見据えて努力する彼に憧れた。
彼に顎れたのは、女として生まれてしまった以上仕方がないのかもしれない。
強くあろうとした彼に恋を抱き、彼に近づこうと思ったのも。
だが、近づこうと思った時には、彼はもう既に手の届かないほどにまで高い場所にいた。
それなのにも関わらずに、彼は何を思ったのか、そういう風に見ていた涼子に対して手を伸ばし、涼子の手を掴もうとした。
そんな彼を有り難くも思いながらも、こいつは大馬鹿野郎だな、と涼子は思った。
であれば、この大馬鹿野郎に近づこうとする外敵を、近づけない様にしよう。
せめて、目が届く間であっても。
それが、短い間であったとしても。
その結果がであるなら。
彼女は悔しかった。
彼と再び出会った、出会うことが出来た。
しかし、何の因果か分からずに、彼は死に『パワード・セブン』という力を得て、彼は今こうしている。
一体、神は何を考えているのか。
涼子には、それは分からないし、知ることもない。
ただ、分かるのは彼はにいて、彼の隣には自分ではない他の誰かがいるということだけ、ただそれだけでしかない。
「・・・・・・・・・・クソ。・・・・・・・・・・・ちくしょうが。」
彼女はただそう言うことでしか出来なかった。
いや、しか出来ないわけではなかった。
『行きますわよっ!!最終合体!!ゴー!「ハガネイラー」!!』
『了解!!最終合体!!ゴー!ハガネーステルス!!』
『最終合体!!ゴー!!ハガネーライナー!!』
『ゴー!!ハガネードリル!!』
の如く、の金持ちの破鋼の姓を持つ厄介者が一暴れしようと企んでいるのであろう。
あのに合体しようと大声で合体を促す声が聞こえる。
宮子が乗っていると思われる飛行機が変形して人型になると、両肩の付け根が折れ、その折れた付け根に新幹線が侵入する。
『ハガネーライナー、合体よし!』
突き抜ける様に通り抜けるかと思った刹那、逆噴射をして勢いを殺して、その場に固定する。
すると、腰部が回転して、一回転すると固定される。
その固定された脚部に向かってドリル部を折った大型のドリル機が侵入して、脚部を食らい込む。
『ハガネードリル、合体よし!』
そうすると、上空からステルス機がロボットの背に向かって急降下する。
自身の腹がロボットの背を擦り、ロボットの背から擦り落ちることなく固定される。
『ハガネーステルス、合体よし!!』
固定されたステルス機のジェット部に新幹線からアームが這い出てきて、ジェット部に差し込まれるように固定されると、その両方のジェット部から手が回りながら出てくると、その手を開いて握った。
そして、頭部にある『H』の文字が点灯すると、バイザー越しに両目が点灯する。
『全機、合体完了!!各部異常なし!!完成!!「ハガネイラー」!!』
その様子をガラス越しに涼子は見ると、ケッと唾を吐くようにする。
「ったく、毎度のことながらお暇な連中だぜ。」
一瞬、勇一に声を掛けるかを悩んだ涼子であったが、それはやめておいた方が良いと、直感で感じた。
あいつのことだから、すぐに来るだろうと、楽観視しているとも思わないで。
そのため、涼子は一人で外へと向かって行ったのだった。




















とある場所に同じくとある少女がいた。
その少女はある少女と同じくとある少年が友にいた。
だが、彼女はある少女とは違って、彼と非常に仲が良かった。
共にいることをどうとも思わないで、共にいることが当たり前であった。
他に少女が周りにいようとも、彼が彼でいて、彼女が彼女であるだけで、彼女はよかった。
そう、それだけで。
それだけでよかった。
だから、目の前にいる少年の隣に自分とは違う他人がいようとも、少女にとっては特に問題はなかった。
少女にとっては彼がいるだけでいいのだから。
そのため。
風音の目の前に、勇一とルナの二人がいようとも別に大した問題ではなかった。
もう一人の友達である涼子が逃げるように行ったとしても、それは風音にとってはどうでもいいことであった。
どうでもいいとは少し違うのかもしれない。
だが、どうでもよかった。
いつものように彼がこちらの声に反応する彼が彼であるのなら。
そんなことを思っていると、外から大きな声とが聞こえる爆音が聞こえてくる。
『行きますわよ!!最終合体!!ゴー!!「ハガネイラー」!!』
『了解!!ゴー!!ハガネーステルス!!』
『最終合体!!ゴー!!ハガネーライナー!!』
『ゴー!!ハガネードリル!!』
突然聞こえた爆音に、目の前にいる二人は何事かと窓越しに外を見た。
その二人の動きに合わせる様に風音も外を見た。
すると、事情はよくは分からないが、風音と勇一の知り合いの四人がそこにはいた。
「あいつら、なにやって・・・・・・・・っ。」
彼女らを見ると、勇一は焦った様子だった。
その彼に風音は声を掛ける。
「どうするの、勇?」
「あっ?風音か。決まってるだろ。」
後ろを振り返って風音を見ると、外を指差して言った。
「あいつらを助けるぞ。」
「知ってた。」
「なら、なぜ訊いたので?」
知っていたならば訊く必要がないのでは?と訊いてきた彼女に風音は言った。
「何をするのか、私が聞きたいからよ。」

















突如として現れたロボットに対し、翼たち四人は何もできなかった。
だが、何もできない状況でも何かをしようと動こうとした者はいた。
「くっ、『ハガネイラー』っすか!」
「暇なんだねぇ~。」
「・・・・・・・・・・・のどか。・・・・・・・・・・・そう言っている場合では。」
「そうですよ、のどかさん!どこかに、どこかに逃げないと!」
戦おうと端から想っていないと捉えられそうな発言をする翼に空はしまった、と後悔した。
呑気に言っているのどかはどうにかなるにしても、どうにか出来そうにない翼と洋子の二人がいては動こうにも動くことが出来ない。
どうしようかと悩む空を他所に四人の下に走って来る人物がいた。
その人物は、どこにあったのか不明な大型の重火器を担いで走ってくると、目の前にいる大型のロボットに銃口を向けた。
「くたばりやがれっ、クソッたれが!!」
そう言うと、その重火器の引き金を引いて、『ハガネイラー』に太い光線を浴びせた。だが、それを簡単に食らう『ハガネイラー』ではなかった。
『甘いですわ!!プロテクションウォール!!』
いつもの様に障壁を展開すると光線は障壁に当たり、『ハガネイラー』にダメージを与えることはなかった。
「クソがっ!ちぃっとはくらえってんだ!!」
その光景に、放った当の本人、涼子はどこに当たるでもない暴言を吐く。
しかし、そう暴言を吐いても、困った現状は変わるものではなかった。
「涼子!どうするっすか!?」
「あっ?・・・・・・・・・・・あぁ、いつかの時みたくアタシとのどかで時間でも稼ぐか?」
「稼ぐの~?私はいいけどさ~、きついよ~?」
涼子の提案にのどかは呑気に答える。
だとすれば、空がすることなど限られてくる。
その時、校舎から誰かが出てくる。
このタイミングで、校舎から出てくるとなれば、もう限られてくるわけだが、果たして。
「みんな、いるか!?」
勇一の声に、空は間に合ったか、と安堵して、彼の言葉に強く頷いた。
「みんな、いるっすよ!!」
「だったら、やれるか!!ルナ、頼んだ!!」
「はい、。お手を拝借します。」
彼の後ろから追従する少女はそう言うと、彼の伸ばされた手を優しく握る。
そうすると、彼女の姿は突然消えて、勇一の腰にベルトが巻かれる。
そして、翼と洋子、空とのどか、涼子の五人の姿が消えると同時に彼のベルトのランプにそれぞれの色が点灯する。
ピンク、黄色、オレンジ、緑、青、紫、それぞれの色をしているランプが点灯すると、は彼に言った。
『スタンバイ、レディ。いつでも、どうぞ。』
彼女の言葉に勇一は走っていた足を止めて、右手を左前に、左手を左腰に構えた。
「変、身!!」
『ビルドアップ。』
の言葉を聞くと、彼は右手を右後ろに引き、右腰のスイッチを押すのと同時に、左手を下に下げて、左腰にあるスイッチを押した。
その瞬間、彼の身体を砂埃と共に巻き上がった渦が、彼の身体を食らい彼の身体が旋風の中に掻き消える。
渦に飲まれた内部では、身体が引き裂かれることなく、身体の各所にそれぞれのパーツが付着していく。
彼を外敵から守る様に。
彼を引き裂くのではなく、その反対に覆いつくして守る様に。
そして、身体が銀色の金属色に覆われると、眼前のゴーグルから両目だと思われる箇所が点灯した。
すると、は渦を突き破る様に片手を外に向けて渦の中から外に向かって突き出して、渦を割いた。
そのの目の前には先程と同じように、ロボットがどこへも行くことなく佇んでいた。
「攻撃しないのはとしては有り難いけどな。」
『いやいや、が変身中に攻撃するってのはに反するっすよ。』
「そんなものかねぇ。」
空の言葉に、それは如何なものかと思う勇一だったが、攻撃してこないのはには有り難いから、別にいいかと場を仕切り直すために、深く息を吸って、吐いて、前を見て、を視界にいれた。
の思いを受け継いで、悪を倒せと我が身が叫ぶ!平和を乱す悪は、俺が、いや、が許さん!『パワード・セブン』、ここに、現、着!!」
『来ましたわね、「パワード・セブン」!!ですが、そうは問屋が卸しませんわ!!』
『ハガネイラー』を指差して、名乗りを上げた勇一に対して、宮子は反論した。
その宮子の言葉に、ハッと鼻で笑う様に涼子は言った。
『いつもやられてる野郎が何を言いやがる。』
だが、そんな涼子の言葉に宮子は笑うと、こう言った。
『いつもやられてはいますが、こっちは貴方方の弱点を知っていてよ!!』
「なに?」
弱点と言った彼女の言葉に勇一はその言葉を反芻した。
弱点・・・・・・・・・・・・。
いったいなんだ・・・・・・・・・・?
疑問に思った勇一が呆然と立っていると見えたからか、宮子は右腕を構えると。
『くらいなさい、ドリル!クラッシャー!マグナムッ!!』
勇一に向かって右拳を打ち出した。
その攻撃に、勇一は一瞬、反応が遅れた。
「ブラフか!!」
『ったく!!ぞ、勇一!』
宮子の罠だと勇一が理解した時には、反応が遅れたが、その遅れた分を涼子が勇一の身体をことでカバーした。
寸でのところで避けた勇一は涼子に感謝した。
「悪い、助かったぜ、涼子。」
『ハッ!気にすんな。奢りで勘弁してやる。』
勇一が涼子に対して感謝の言葉を言っていると、頭上が闇に覆われる。
いや。
闇と言っても辺りはまだ陽が昇っているために明るく、勇一のいる付近だけが覆われただけだった。
それを理解したときにはもうすでに時は遅く、頭上から巨大な足が降ろされた。
「読まれたってか!!」
『任されて~。、勇一君~。』
気が抜けそうになるのどかの声が勇一の耳に届いたその瞬間、勇一の身体が勝手に
触れる瞬間に足裏を撃ち抜く様に、拳を打ち出した瞬間、圧と圧が互いにぶつかり合い、衝撃波となって風を巻き起こした。
踏まれて、平べったくなることなく勇一は一つの拳のみで自身の身体の何十倍もの巨体をただ支えていた。そこから、脱出しようにも、身体をどうにも動かせない勇一はどうするべきかを必死に考えた。
そんな勇一の様子を知ってか知らずか、宮子は勇一に対してこう言った。
が、貴方の弱点でしてよ。貴方は一人ではない。それはいいことです。一人では何もできませんからね。ですが、だからと言って、増えればいいということではありません。増えれば増えた分だけ人は動きにくくなる。それが七人となればなおのこと。』
「だからって・・・・・・・・・・・・・言ってもな・・・・・・・・・・・っ。」
宮子の言葉は理解はできるがゆえに勇一は反論することが出来なかった。
一人でいれば、人は動きやすい。
人が一人ではなくなった時、人は独自の考えで自由に行動することは出来なくなる。
それが二人や三人ならば、問題はなかっただろう。
だが、七人となれば話は別だ。
一致した考えで行動することなど難しい。
人は皆それぞれの考えをもって生きているわけだから、同じ考えでいるはずがない。
主体となっているのは勇一ではあるが、それを補佐する、補っているのは勇一とは違う赤の他人だ。
たとえ、お互いにお互いを知っている仲だとは言ってもそれは変わらない。
だから、なんだ。
勇一はその事実に憤りを感じた。
赤の他人だから?
考え方が違うから?
だから、上手く動かせない?
上手く戦えない?
だから負けるのは確定事項?
「冗談じゃ・・・・・・・ねぇ・・・・・・・・。」
たしかに、勇一たちはお互いにお互いを知ってるとは言っても赤の他人だ。
互いの事情なんぞ知らないし、胸の内に何を思っているのかも知らない。
だが。
だからと言って、負けろというのも筋が違うことだと勇一は思った。
不意に、父、鉄也の言葉が脳裏に思い浮かぶ。

『物事には道理だの、理屈だの、が付き纏うものだ。何をするにしてな。が世を生きるための道理であり、生き抜くための理屈だ。だがな、忘れるな。どんな時、どのような時であっても、諦めるな。投げだすな。逃げるな。なぜなら・・・・・・・・・・・・・。』

「意地があんだよ・・・・・・・・・・・・・っ。」
上から押さえつける様に下に押される圧力に勇一は上に上げる様に拳を上げる。
『なっ!!』
勇一のその行動に驚いたような声を宮子は出す。
だから、ではないが、勇一は足裏を支える拳とは逆の腕に気合をためて、拳を放った。
「男の子には、なっ!!」
足裏を穿つ様に放たれた拳の衝撃に『ハガネイラー』は自身を支えることが出来ずに、後ろにひっくり返る。
倒れたことで、砂煙が爆風となって巻き上がる。
だが、そんなことに気を回せるほどの気は勇一にはなかった。
両腕を左右に思い切り振る様に、左右に振ると、両腕に付いているアームが伸びて、一本の刃、左右ともに合わせて二本の大振りの刃となる。
「さっきの分の返しだ、受け取りやがれ。・・・・・・・・・いけるな、風音っ!!」
『えぇ。良くってよ。』
「上等だ。」
ダッと思い切り全体重を一歩に載せると、勇一は天高く飛び上がって、身体を宙に回した。
キュイィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!と一つのコマの様に自身の身体を高速で回すと、立ち上がりつつあった『ハガネイラー』にコマを向かわせて行った。
「疾風怒濤ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!大回転、魔弾っ!!」
『受けませんわっ!!プロテクション・ウォール!!』
勇一のコマの攻撃から自身を守ろうと宮子は障壁を展開する。
その障壁に、ガリガリッと削るような音を響かせて、勇一の身体は障壁に拒まれる。
防がれてはどうにも出来ないことに宮子は細く微笑むが、それが油断を呼ぶことになった。
『勇一!!・・・・・・・いけるっすか!!?』
「ハッ!当たり前田のクラッカーだ!!」
『上等っす!!』
空の言葉にどこか昔を感じさせる言葉で空に返した勇一はコマの回転を止めると、一回転して足先を『ハガネイラー』向ける。
『パワードォォォォォォォォォォォォォォォォォ・キックゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァ!!』
「一文字突きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その掛け声とともに勇一の身体は『ハガネイラー』へと一直線に向かって行き、障壁を一瞬で突き破り、動き出して対処する前に『ハガネイラー』の胴体を突き抜けて、スタッと『ハガネイラー』の背後に着地すると同時に右手を左前に伸ばしてゆっくりと右側に右腕を動かしていく。
『爆圧!!』
「完了!!」
完了と言うのと同時に右手を握り締めて拳に変えると、その動きに合わせるかのように『ハガネイラー』の巨大な鋼鉄の身体が爆散した。
















戦いの後。
変身を解いた勇一たちであったが、涼子は何も言わずに勇一の隣に立っていた。
時折、誰に聞かせるまでもなく舌打ちをするようにチッと舌を打つことから、勇一に聞かせる様にししているのではないかと思われそうではあるが、特に深い意味はないことを知っている勇一としては、何怒ってるんだコイツは、と軽く思う程度に思っていた。
「悪かった。」
「何が。」
不機嫌気味に悪いという涼子の言葉に対して、何がどう悪いのか分からない勇一はそう返してみせた。
その勇一の言葉に対して、今度は勇一の耳に聞こえる様に舌打ちをすると、だぁー!と何かにイラつく様にガリガリと頭を掻いてみせた。
「アタシが、その、勝手に行ったことだよ。」
「なんだ、か。」
涼子の言葉に片手を上げると、涼子に振って勇一は言った。
のことだろ?お前が突っ走って喧嘩吹っ掛けまわるってのは。気にするなよ。」
「そうは・・・・・・・・いかねぇだろうが。」
涼子の言葉に勇一はどこか気になることでもあるのだろうかと理解が出来ずに、彼女の顔を見た。その顔には非常にまずいことをしてしまったとでも言うかのように苦虫を潰したように渋い顔があった。
は昔じゃねぇんだ。昔みたいに突っ走っても、アタシだけで済む問題じゃねぇだろうが。」
その言葉を聞いて勇一は彼女がなぜ勇一にこうしたことを言っているのかを理解した。
は一人だけで相手をすればいいという問題ではなく、涼子の他の人間が、周りを巻き込まなければ、何もできない。故に、彼女は勇一に言っているのだ、と。
だが、勇一はそんな彼女を笑った。
「ハッ。おいおい、涼子。言ったはずだぜ?ってな。」
「けどよ。」
「確かに、一人だけじゃ何にも出来ねぇ。・・・・・・・だけどな。人間誰しもが一人で何でもできるわけじゃねぇ。・・・・・・・・・・・・いいか。『人』って漢字はな。一人で成り立つ漢字じゃねぇ。一人の横にもう一人いて、初めて『人』になれるんだ。」
昔に、父に言われたことを勇一は思い出しながら涼子に言った。

『いいか、勇一。「人」という漢字があるだろ?この字の通り、人は一人では人にはなれない。一人でする事にも限度はあるからな。一人の横にもう一人がいてお互いを支え合って、初めて「人」になれるんだ。だからな、勇一。出来ないことが目の前に立ち塞がった時には一人で立ち向かおうとは決して思うな。それをするときはもう無理や無茶といったどうしようもない時なのだからな。だから、いいか?誰かを頼れ。頼れる人間を作れ。そうした人はな、お前を「人」にしてくれる人だ。それをなんというか知ってるか?』

「鉄也さんの言葉か?」
「ああ。」
「ケッ。有り難くて涙が出るぜ。」
「そうか。」
「ああ。」
涼子は一瞬言葉を切ると、勇一の顔を見た。
「一応聞くんだが、なんで助けた?別に助けなくてもよかっただろ。」
「友達だからな。」

『友と言うんだ。』

勇一はそう言った昔見た鉄也の顔を思い出しながら、でも、父さん、あんまり頼ろうとしてなかったよな、むしろ、頼られてばっかだったし、と何か理不尽なこと言ってたな、父さん、と思いながら、涼子に言った。
勇一がそう思っているとは知らずに涼子は鼻をずずっと啜ると顔を上げた。
「・・・・・・・・・っ、そうか。」
「ああ。」
「・・・・・・・・・・・・ありがとうな。」
「どういたしまして。」
感謝しているのかいないのかよく分からない彼女の言葉に勇一は返すと、前方に広がる空を見上げた。
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