デリートマン

わいんだーずさかもと

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第11話【デリートマンの友達②】

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「おはようございます」

2年振りの大阪オフィスだった。2年しか経ってないが、ずいぶん久しぶりな気がした。
「田坂!よー来てくれた!桐森きりもりが戻ってくるまで、悪いけど頼むな」
成瀬がそう言い、目の前で合掌するそぶりを見せながら申し訳なさそうにしている。成瀬なるせは大阪時代の上司だ。特別仕事ができるという訳ではないが、気が許せる話しやすい上司で、おれは成瀬が好きだった。

「はい、成瀬課長。国重部長からも全力でやってこいと言われてますので、桐森が帰ってくるまでの間、頑張らせていただきます」

桐森とは事故をした社員だ。歳も近く大阪時代は仲がよかった。週末のうちに大阪に戻ってきていたので、先日の日曜に見舞いにいったが本人は元気そうだった。

懐かしい顔から、「田坂おかえり」と言われる度に、帰ってきたんだなと実感したが、まったく知らない人から「田坂元気だったか?」とか「田坂さん、お久しぶりです」とか言われることがあったが、この人たちは国重と同じで、藤木を消したために存在する人たちだろう。そのため、当然おれの記憶の中にはなく、向こうが一方的におれを知っている状況だったが、国重の例もあったのでこういう状況にもさほど驚かなくなっていた。

「国重さんから、ぞんぶんに使ってくれって言われたからな。短い間やし、遠慮せんといかせてもらうわ」

にやっと笑う成瀬。

「お手柔らかにおねがいします」

オフィスは活気づいていて、みんな忙しそうだった。

(本当に大変になりそうだな)

この後、仕事以外のところでも大変になっていくのだが、今のおれにそんなこと想像できるはずもなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「田坂おかえりー!かんぱーい!!」

一斉にみんなでグラスを合わせる。今日は野球部時代の仲間が集まってくれていた。場所は梅田の居酒屋だった。おれが大阪に帰ってきたということで仲間達がこういう場を設けてくれたのだが、みんなの仕事が忙しく中々調整がつかず、12月に入っていた。

「ただいま。ちょっとの間やけどな」

集まったのはおれを含む8人。その中には中元と彩美もいた。彩美のお腹はだいぶ大きくなっていた。みんな気心の知れた仲間なので、何の気も使わなくて良い。居心地がよかった。

「とも、可愛い子やん」

そう、ここに野球部と関係ない9人目がいて、その子は、

「ようこです!彼女です!彩美さんですよね。キレイな人だなぁ。ともくんから話聞いてたから会ってみたかったんです!」

彼女のようこだった。大阪に来てまだ1ヵ月経っていなかったが遊びに来たのはこれが2度目。「5回は大阪にくる!」という宣言通り、いやそれ以上のペースである。

「ようこちゃん。よろしくねー」

「はい!よろしくお願いします!結婚したら彩美さんのようなステキな奥さんになれるよう頑張ります!お腹の赤ちゃんもよろしくねー」

最後、彩美のお腹に声をかけていた。

「え?とも、結婚すんの?」

そんな話はまだ具体的にしていない。

「いや、まだ何も…」

「はい!します!来年、私が30になる前に!みなさま、式には是非きてくださいね」

(ちょっと待ってくれ、まだ何も…)

「そうなんや!おめでとう!」

「田坂、おめでとう!」

「式、呼んでなー」

口々にみんなが言う。笑いながら。

(こいつら、楽しんでる。でもまあ、いいか)

まだ具体的な話は何もしてないが、しようと思っていることは事実だ。

(特に否定する必要はないか)

何より、ここで否定したら鬼のように機嫌が悪くなる。

「結婚しようとは思ってるよ。ただ、まだ具体的には…」

「え!ほんとに!ともくん!!すぐ!すぐしよー!!」

爆笑が起こる。この数分で仲間達は、ようこの性格を理解したに違いなかった。

「ようこちゃん、高校時代はオレがセカンド、田坂がショートでコンビ組んでてんけど、もうようこちゃんに任すわ!田坂をよろしくな」

小久保がそう言って笑う。

「はい!私がともくんのセカンドになります」

「2番目になります!って聞こえるわ」

小久保がそう言ってまた笑う。ようこも「えーちがうー」みたいな感じで楽しそうだ。他のみんなも完全に楽しんでいる様子だった。

しかし、その中にあり中元だけがどこか浮かない顔をしていた。笑っているのだが、心から楽しんでいるように思えない。

「中元、飲んでるか?」

「おう」

そう言って笑うが、やはりどこかぎこちない。彩美もなぜか中元と目を合わせようとしない。前回感じた違和感をまた今日も感じた。

「俺ら先に帰るわ。今日は冷えるし、彩美、あんま遅くまでやと疲れるから」

残っていた生ビールを飲みほし、中元が言った。

「とも、せっかく帰ってきてるのにごめんな」

彩美も帰る支度を始める。

「いや、全然気にせんとって。それより、大変な時やのに来てくれてありがとうな」

「ううん。体調自体はいいから大丈夫。無事に終わって落ち着いたら、またゆっくり飲もな」

(無事に終わって?)

彩美の言い方が引っかかった。

「彩美さん、元気な赤ちゃん産んでくださいね!」

「ありがとう。ようこちゃんもまたね」

「はい!」

中元と彩美が立ち上がる。

「ほなごめんやけど先帰らせてもらうわ。田坂、まだ大阪おるやろ?」

「来年の1月いっぱいはおると思うわ」

「わかった。また連絡するわ。ほな」

中元と彩美が店を出て行った。それからは昔話などで盛り上がったが、さっきのことが引っかかっていた。

(無事に産まれてでなく、無事に終わって?何か、変だ)

何か終わらせなければいけないことがあるのか。もしあるとしたら、何となく察しはつくが。想像した通りなら、二人がぎこちなくなった理由に、十分なる。




「そろそろ終電やな」

気づけば終電の時間が近づいてきていた。中元と彩美のことはずっと気になっていたが、やはり仲間たちと過ごす時間は楽しくてあっと言う間にすぎた。

「ほな、ぼちぼち帰ろか。ようこちゃん、最高に楽しかったわ!また来てな」

「ほんまようこちゃん最高!また来てなー」

「ありがとうございます!次は妻になって登場します!!」

笑いが起こる。小久保や他のみんなもすっかりようこを気にいったようだった。ようこは一瞬で初対面の人でも打ち解けることができる。これも一種の才能だと思う。

店で解散となり、JR組は大阪駅に向かう。

「田坂、京橋やんな?おれ方向同じやわ。環状線や」

小久保の家は確か森ノ宮だ。同じ電車に乗ることになる。大阪駅に着き、ようこがトイレに行ったので、待つ間小久保と二人になった。

「ようこちゃんはお前んとこ泊まってるねんな」

「ウィークリーマンションやから狭いけどな」

「せやけど、おもろい子やな。退屈せんやろ?」

確かに退屈はしない。

「まあそやな。仲よーやってるわ」

「何よりや。中元んとこと大違いや」

(やっぱり、何かあるんだな)

「小久保、お前何か知ってんのか?オレも薄々は何か変やと感じててん」

チラッとトイレの方を確認する小久保。ようこの存在を気にしてるようだったが、まだ戻ってくる気配はなかった。

「中元な、不倫してんねん」

想像は当たっていたようだ。

「田坂が東京行ったすぐ後くらいからかな。最初は俺らもあんま気にしてなかってん。相手にも旦那がおったし、ズルズル続けるつもりもないからもう会えへんことにした。とも、それからちょっとして言うてたしな」

「でも、まだ続いてんのか?やとしたら2年くらいになるやん」

おれが東京に行ったすぐ後からだとそうなる。

「そうみたいやねん。オレらも頻繁に会うわけやないし。中元、最近はそのことについてあんま喋らんから詳しいことはわからんねんけどな。雰囲気でわかる。あいつ、ちょっとヤバいと思う」

「ちょっと待って。雰囲気からして彩美は気づいてると思う。でも、2年も続いてるなら向こうの旦那も気づくやろ」

2年不倫関係を続けて、全く何も疑われないというのは考えにくかった。

「それがな、その旦那、亡くなってん。中元がもう会えへんっていうてから、しばらくはほんまに会ってなかったみたいやけどな。旦那が亡くなってから、また会い出したみたいやねん。今から1年くらい前やと思うわ」

(亡くなった?)

「病気かなんかやったんか?」

「詳しいことは知らんねん。中元言わへんし。ただ、事故やったと思う」

「そうなんか。詳しく話聞きたいな」

「多分、田坂には言うと思うよ。あいつ一回ベロベロに酔ったとき、田坂に相談したいっていうとったから」

「オレに?なんでオレやろ」

「さあ、それはわからん。でもな、おれらはやっぱり彩美を大事にしてあげてほしい。彩美、ほんまに優しくて、ええ奴やもん」

「そんなもん、オレもそうや」

「でも、写真見る限りそんなええ女やないねんなぁ。喋ったことはないけど、性格きつそうな顔してるし。彩美の方が全然美人やもん。中元、なんでハマってもーたんやろな」

「写真あんのか?」

「その子SNSやってるから。昔、中元に教えてもらってん」

小久保がスマートフォンを取り出す

「この子やで」

スマートフォンの画面に表示されている写真を見た。

(あれ?どっかで…)

見たような気がした。はっきりとは思い出せないが、どこかで会っている気がする。名前を確認したが、匿名でSNSをやっているようで本名がわからない。

「小久保、そのSNSのURL送っといて」

「ええけど、なんで?」

「いや、どっかでな、その子見た気がすんねん。どこやったかな…」

「ごめーん!遅くなりましたぁ。トレイ凄く混んでて、お待たせしてすみませんでした」

ようこが戻ってきた。正直なところ、もう少し考えたかった。ようこがいる前では話づらい。

「ようこちゃんおかえり。ほな、帰ろか」

小久保がそう言って駅のホームへ歩きだす。田坂たちも続いた。ちょうど電車が来たところだったので乗り込んだ。大阪から10分弱で京橋に着く。田坂たちは降りるが、小久保の降りる駅はもう2駅先だ。

「小久保、ほな」

「小久保さんありがとうございましたー」

電車を降りて駅のホームから言った。

「ようこちゃん、こちらこそありがとう。楽しかったわ。田坂、またな、後で送っとく」

「よろしく」

電車のドアが閉まる。電車が行くのを見送った後、おれたちも歩き出した。

「楽しかったー。ともくんの友達いい人ばっかり!最初は不安だったけど、何も心配することなかった」

あれで不安だったのか。最初から絶好調に見えたが。

「でも、さっきトイレで鏡見たらメイクだいぶ崩れてて、ブスになってたー。きっと小久保さん、ようこちゃん実はブサイクやなーって思ってるよー」

「そんなこと…」

ハッとした。さっきの写真だ。

スマートフォンがメッセージの受信を告げた。小久保からだ、先ほどのSNSのURLが記載されている。アクセスして、もう一度写真を見た。

「誰?その人?」

横からようこが覗き込む。

「小久保が今、狙ってる子」

「そうなんだ。小久保さん独身って言ってたもんね。そういう人がタイプなんだね。少し、派手な感じだね」

(そう、派手なんだよ)

この子を派手な感じでなくしたら、知っている人のような気がする。

「すっぴんにしちゃおうよ!アプリで簡単にできるからさ。で、小久保さんに送ってあげようよ。この人、実はこんな顔ですよーって」

「そんなんできるん?」

「簡単にできるよ、その写真ちょうだい」

(女性からすれば、迷惑極まりないアプリだな)

おれは写真をダウンロードしてようこに送った。ようこはアプリを起動した。

「今、化けの皮を剥いでやるぜ!」

楽しそうに操作を始めるようこ。そして、1、2分程度で作業が完了した。

「化けの皮を剥いでやりました!」

そう言って見せられた写真は、自分の記憶の中にいる人物と完全に一致した。

(どうしてだ。なんでこうなる)

わからないことだらけだった。

「ともくん、女はこのように化けれるのです!気をつけてと小久保さんに忠告してあげましょう」

「そやな」

(中元、そいつ、化けてるかもしれへんぞ)

「ようこ、ありがとうな。助かった」

「どういたしまして!でも小久保さん、すっぴん見て気持ち変わっちゃうかなぁ」

「変わってくれることを願うわ」

その対象は小久保でなく中元だったが、そんなことをようこに言えるはずもなかった。
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