少女に抱かれて行く異世界の旅 ~モフモフの魔物は甘えん坊!~

火乃玉

文字の大きさ
59 / 76
まったり地球での生活編

ムー太はモフモフなので(おまけ編)

しおりを挟む
「ちょっと、ムー太!? しっかりして!」

 朦朧とする中、どこかで懐かしい声が聞こえた気がした。

「大変! 脱水症状? ううん、熱中症!?」

 誰かが体を揺すっている。
 力なく垂れたボンボンがゆらゆら揺れる。

(むきゅう……?)

 どうして自分はこんなにもぐったりしているのだろうか?
 混濁する意識を一つにまとめ、ムー太は懸命に思い出そうとした。

 しかし、頭が熱くてうまく集中できない。
 なぜ、熱いのだろう?
 そうだ。エアコンが止まってしまったのだ。
 力の源である【電気】をエリンに奪われて、エアコンは死んでしまった。
 後に残されたのは、蒸し風呂と化したリビングとムー太だけ。
 このままでは異常な暑さで倒れてしまう。そんな切羽詰った状況だった。
 だからムー太は怒ってみせた。ボンボンを荒ぶらせ、憤慨した。
 【電気】を返せー! と、抗議活動をしたのだ。
 そして体温と室温はみるみるうちに上昇していき……限界に達して倒れた。

 ……意識を失っていたらしい。

 とすると、今自分は、リビングに横たわっているということか。
 では、一体誰が体を揺すっているのだろう。
 心配そうに声を掛けてくれているのだろう。
 そこまで考えた瞬間、ムー太の意識は一気に覚醒した。

(むきゅう!)

 そんなの決まっている!
 ムー太が困っている時に駆けつけてくれるのは彼女しかいない。
 目を開けると、心配そうにこちらを覗き込む親友の姿があった。

「むきゅう」

 暑さで喉をやられたのか、かすれた声が出た。
 瞬間、ぎゅっと体を抱きしめられた。少し苦しい。

「良かった、目を覚ました! 大丈夫、ムー太?」

 天井を見上げると相変わらず蛍光灯は消えたままだった。
 リビングには、大きな窓から太陽の光が差しているので暗くはない。
 どのぐらい倒れていたのだろうか。ふと、疑問が生じた。

「むきゅう?」

 七海が帰って来るのは夕頃の予定だったはずだ。
 日の入り具合からして、まだお昼を過ぎた辺りだと思われる。
 どうして助け起こされているのだろうか?

 まるでその疑問を予知していたかのように、彼女は言った。

「停電になったから、嫌な予感がして急いで帰って来たのよ。でも良かった、私の勘ってよく当たるのよね」

 ムー太がにこりと微笑むと、彼女は優しく頭を撫でてくれた。

「こんなに暑いんじゃ辛かったよね。ごめんね」

 体に篭っていた熱が冷めつつある事に、そこでムー太は気が付いた。

「むきゅう?」

 よく周囲を観察してみれば、ムー太の周りには七海の展開した魔力が張られていた。冷気を帯びた稀有けうなる魔力である。必殺の冷気は今、絶妙なコントロールの元、ムー太の体を冷やすためだけに渦巻いている。
 地球に帰って来てからというもの、七海は極力、魔法を使わないようにしているようだった。それはおそらく、この世界ではそうする事が、最も自然であると彼女が判断したためだ。
 にも拘わらず、こうしてその禁を破り、当たり前のように助けてくれている。その事実が、ムー太にはとっても嬉しかった。

「むきゅう」

 ぽふぽふ、とお礼の代わりに頬を撫でる。
 しばらくじゃれ合っていると、体が冷却されて元気になってきた。
 そのことを肌で感じ取ったらしく、七海は浅く安堵の吐息を漏らすと、そっとムー太を床へ置いた。尚もムー太の頭を撫でながら彼女は立ち上がり、

「ちょっと待っててね。良いものがあるから」

 待つこと数分。また少し暑くなってきた頃。
 彼女が持ち帰ったのは、小さな風車だった。
 大きさはムー太よりも一回り小さい。すらりと伸びたミニチュアの塔から、四枚の羽が生えている。ただ奇妙な事に、風を受けて回る四枚の羽は、プラスチック製の檻の中に閉じ込められていた。

「むきゅう?」

 何か悪い事でもしたのだろうか?

 七海はミニ風車を持ち上げると、底の部分を何やらカチッと動かし、フタのようなものを取り外した。ムー太が興味深そうに体を傾げながら眺めていると、空洞が出来た底の部分へ金属製の筒のようなものを押し込んだ。何かが挟まる音。そして再びフタを施錠すると、七海はニッと快活な笑みを浮かべ、

「スイッチ、オーン!」

 ミニ風車下部に設置されていたボタンをポチッと押した。
 瞬間、ムー太の全身を風が吹き抜けた。

「むきゅう!?」

 体感温度が一気に下がる。
 ムー太は驚きと喜びで笑顔になった。

 四枚の羽が高速で回転し、強い風を生み出しているようだ。回転が速すぎて、一枚のお皿のように見えるのは不思議だった。風車はゆっくりと回るので、まるで正反対である。
 ムー太は「正反対」という言葉にピンと来た。風車は風を受けて動くけれど、もしかしてこの装置は風を生み出すために動いているのかもしれない。

「むきゅう!」

 画期的である!
 ムー太は賞賛の拍手をぽふぽふと送った。

「中学の時に図工の授業で作ったんだよ。扇風機なんて使う機会は無いと思ってたけど、乾電池で動くからこういう時には役に立つわね」

 白毛が風に流される。それはまるで、毛と毛の隙間に挟まった熱を洗い流してくれているかのようだ。事実、ムー太は暑さを感じていない。
 どうやら扇風機と呼ばれた装置は、エアコンと同じで涼しさを提供してくれるものらしい。また一つ賢くなってしまったムー太は、とってもご満悦だ。

 そんなムー太へ棒アイスが差し出された。

「はい、あげる。一緒に食べよ」

 乳白色の小ぶりな棒アイスで、ムー太でも一人で食べる事ができるタイプのものだ。七海は早くも自分の分をペロペロしている。ムー太は棒アイスをボンボンで受け取ると、負けじとペロペロし始めた。どちらが早く食べ終わるのか、競争だ。

 競うようにして二人でペロペロしていると、一つ問題が発生した。
 部屋が暑いせいだろう。いつもよりアイスが溶けるペースが早いのだ。

 ムー太の中でアイスとは【甘い水を凍らせたもの】という認識である。氷が熱に弱いように、その親戚であるアイスもまた熱に弱い。暑い部屋に居れば、それだけ早く【甘い水】へと戻ってしまうということだ。
 水に戻ってしまっては、美味しさも半減するというもの。それに【甘い水】はベトベトしているので、ボンボンが汚れてしまう。
 回避策としては、早く食べるしかないのだが……。

 と、そこでムー太は閃いた。

「むきゅう!」

 そうだ、だったらもう一度冷やせばいいのだ!
 ムー太は扇風機に向き直ると、松明のように棒アイスを掲げた。



 ◇◇◇◇◇

 突如、扇風機に向かって棒アイスを突き出し、ぐいぐいと近づけ始めたムー太を見た時、一体何を始めたのだろうかと七海は首を捻った。しかし、すぐにその意図を看破すると、今度は喉の奥から笑いが込み上げてきた。
 クスクスと忍び笑いを漏らしていると、ムー太が不思議そうにこちらを振り返った。どう教えてあげたものかと思い、迷った末に七海は訊いた。

「何してるのかな、ムー太?」

 その問いが功を奏したのか、ムー太はどこか誇らしげに胸を張った。棒アイスで扇風機を指し、嬉しそうに「むきゅう」と一鳴き。何を言いたいのか、七海には手に取るようにわかった。
 ポンポンとモフモフの頭を撫でながら、さりげなくムー太が持っている棒アイスへ魔力を送り込み、秘密裏に冷却し直す。

 ムー太はきっとこう考えたのだ。

 扇風機は涼しい。
 つまり、体が冷える。
 だったら、アイスも冷やせるんじゃないか。

 と。

 ただ残念な事に、風によって下がるのは温度ではなく体感温度の方なのだ。つまり、いくら風に当ててもアイスが冷える事はないのである。それどころか反対に風によって熱が送り込まれ、より早く溶けてしまう恐れさえある。
 ゆえに七海は、一先ず判断を保留し、アイスを冷却させたのだった。
 扇風機でアイスを冷やすムー太をもう少し見ていたくて。

 ムー太が真実を知るのは、もう少し先の事になりそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

社畜サラリーマン、異世界でパンと魔法の経営革命

遊鷹太
ファンタジー
過労死寸前の30代サラリーマン・佐藤健は、気づけば中世ヨーロッパ風の異世界に転生していた。与えられたのは「発酵魔法」という謎のスキルと、前世の経営知識。転生先は辺境の寒村ベルガルド――飢えと貧困にあえぐ、希望のない場所。「この世界にパンがない…だと?」健は決意する。美味しいパンで、人々を笑顔にしよう。ブラック企業で培った根性と、発酵魔法の可能性。そして何より、人を幸せにしたいという純粋な想い。小さなパン屋から始まった"食の革命"は、やがて王国を、大陸を、世界を変えていく――。笑いあり、涙あり、そして温かい人間ドラマ。仲間たちとの絆、恋の芽生え、強大な敵との戦い。パン一つで世界を救う、心温まる異世界経営ファンタジー。

神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!

カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。 前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。 全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...