華に君を乞う

しろ卯

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18.オナガに関してはもういい

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「オナガに関してはもういい。それでチュウヒ、見逃してくれるとは具体的にはなんと?」

 突き詰めることを諦めたのか、どこか投げやりにトビは話題を戻す。

「処理はこちらに一任し、過剰な処罰は望まないと仰っていただきました」
「家への挨拶は本当にしなくていいのか?」
「オナガと会うために、密かに家を抜け出しておられるようですので。むしろ家に知られることを避けたいと考えておられるのではないかと推察します」

 トビはついに頭を抱えて項垂れた。
 オナガとセッカの関係がセッカの家族を初めとする華族に知られれば、どのような苦情が来るか分かったものではない。

「すっげー面倒なの引き取っちまったみたいだな」

 虚ろな目でトビは天井を見上げてしまう。

「とりあえず、今回のことは緘口令を敷く。特にオナガ、お前が華族と恋仲だってことは、隠せよ?」
「分かりもした」
「ヤガン、カイツ。お前らは一か月の謹慎。ヤガンは更に三か月は蕊山への入山を許可しない」
「はい」

 それぞれの沙汰も下り、四人は執務室を出る。

「悪かったな、オナガ」
「もうよかじゃ」

 気まずそうに謝るヤガン。オナガはからりと笑って許す。
 セッカに言い寄っている姿を見たときは怒りもしたが、もう手を出さないと約束してくれれば、それ以上の文句を言うつもりはない。
 寮に戻る三人と別れて、オナガは訓練場へと向かった。



 特に大きな出来事も無く、半年ほどが経過した。
 ヤガンとセッカの騒動の後、謹慎期間を終えて任務に復帰したヤガンは、女遊びを控えるようになった。
 とはいえ長く行っていた癖がすぐに消えるわけもなく、時折町に出かけては運命の相手を探しているようだが。

 ヤガンとカイツの組は解消されている。
 カイツに指摘されていたにもかかわらず、問題行動を起こしたヤガンには、古参のカマラという隊員がお目付け役も兼ねて組んでいる。
 堅物のカマラに苦手意識を持っているヤガンは、巡回を終えるたびにげっそりと疲れていた。

 問題を起こしたヤガンを止められなかったこと、そして何より予兆を掴んでいながら報告しなかったことを責められたカイツだが、元は面倒見もよく優秀な隊員だ。
 新しく入った隊員の指導員として、定期的に相方を変えている。

 とはいえ二人とも第一部隊に残れたのだ。文句を言える立場ではない。むしろカイツに関しては、問題児であるヤガンと組を解消されて、心なしか嬉しそうに見える。

 そしてオナガは相変わらずチュウヒと組んで蕊山に入り、途中でセッカと合流して巡回を続けていたのだが、今日はいつもと違った。

「神々は仰った。『この世で最も素晴らしいものは、愛である』。本人たちにとっては素晴らしい気持ちなんだろうけど、見ている方は拷問だな。よくチュウヒは耐えられるよな」

 手を繋いで微笑みあいながら階段を上るオナガとセッカ。
 げんなりと虚ろな面持ちで振り返るのは、チュウヒに交代を求められて、しばらくオナガと組むこととなったカイツであった。

 オナガの場合は秘密を知る者でなければ組めないため、必然的にチュウヒかカイツとしか組ませることができない。
 もう一人セッカの存在を知る男はいるが、前科があるので考慮に入ることはない。

「カイツも好きな女子おなごを作れば良か」
「作ろうと思って作れるなら、ヤガンはとっくに恋人ができてるだろう?」
「言われてみればそうやなあ。あいつはいつになったら人を好きになっとじゃろう?」

 不思議そうに小首を傾げ合うオナガとセッカ。幼い内に想いあう相手を見つけた二人には、恋愛感情を得られない人が理解できないようだ。
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